スタートアップで人事労務担当者が一人目として入ると、採用、雇用契約、勤怠、業務委託、情報管理を同時に整える必要がある。すべてを一度に作り込むのは難しいが、優先順位を誤ると未払い賃金、契約更新、秘密情報管理で問題が起きやすい。本記事では、最初に整備すべき契約書・規程を整理する。

フェーズ別に必要な労務書類

創業初期は、人数や雇用形態に応じて必要書類が変わる。まずは従業員、役員、業務委託メンバー、インターンを区別することが重要である。

フェーズ 優先書類 目的
創業直後 NDA、業務委託契約 外部協力者と情報を守る
初採用時 雇用契約書、労働条件通知書 労働条件を明確にする
10人前後 就業規則、賃金規程 勤怠・賃金ルールを統一する
組織拡大期 情報管理規程、評価制度 属人的運用を減らす

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成・届出義務が問題になる。義務が発生する前でも、勤怠、休暇、服務規律、退職手続を明文化しておくと運用が安定しやすい。

業務委託メンバーとの契約整備

スタートアップでは、正社員採用前に副業人材やフリーランスへ業務委託することが多い。この場合、業務委託契約書、秘密保持契約、知的財産権の条項を整える必要がある。

注意すべき点は、業務委託であるにもかかわらず、従業員と同じように勤務時間や作業方法を細かく指示してしまうことである。実態が雇用に近い場合、労働者性や偽装請負が問題になる可能性がある。

業務内容、報酬、支払期日、成果物の権利、再委託、契約解除を明確にし、フリーランス新法に基づく取引条件明示にも対応することが望ましい。

労働条件明示ルール改正への対応

2024年4月1日から、労働条件明示ルールが改正され、就業場所と業務内容の変更範囲などの明示が重要になった。雇用契約書や労働条件通知書が古いままの場合は、採用時の書類を更新する必要がある。

採用時には、次の項目を確認したい。

  • 雇入れ直後の就業場所と業務内容
  • 将来の変更範囲
  • 契約期間、更新基準、更新上限
  • 賃金、労働時間、休日、休暇
  • リモートワーク時の費用負担と勤怠管理

求人票、内定通知、雇用契約書の内容がずれていると、採用後の認識違いにつながる。テンプレートだけでなく、採用フロー全体を見直すことが重要である。

情報管理と秘密保持

スタートアップでは、顧客情報、ソースコード、事業計画、資金調達資料など、重要情報が少人数に集中しやすい。入社時・退職時の秘密保持誓約、アカウント管理、端末返却、アクセス権限の削除を運用に組み込む必要がある。

情報管理規程を作る場合は、持ち出し禁止だけでなく、クラウドストレージ、チャットツール、個人端末利用、退職時のデータ削除まで定めることが望ましい。実態に合わない厳しすぎる規程は守られにくいため、現場のツール利用状況を踏まえて設計する。

整備の順番も重要である。最初から大企業向けの規程一式を導入すると、現場が読まずに形だけになることがある。まずは採用時、入社時、業務委託開始時、退職時に必要な書類を揃え、次に勤怠・賃金・情報管理の運用ルールを固める方が進めやすい。

また、投資家や取引先から労務・情報管理の確認を受ける場面もある。資金調達や大手企業との取引前に慌てて整備するのではなく、月次で不足書類を確認する体制を作ることが望ましい。

まとめ

人事労務担当者が最初に整備すべき書類は、従業員数と雇用形態によって変わる。

  • 初採用時には雇用契約書と労働条件通知書を整える
  • 10人前後になる前に就業規則と賃金規程を準備する
  • 業務委託メンバーには、契約書と取引条件明示を用意する
  • 労働条件明示ルール改正に合わせ、変更範囲の記載を確認する
  • 情報管理規程と退職時手続を早めに整えることが望ましい

副業人材やフリーランスとの契約を整える場合は、業務委託契約書(準委任契約)テンプレートを確認し、自社の発注実務に合わせて修正するとよい。

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[要確認事項] - 就業規則の作成・届出義務、労働条件明示ルール、フリーランス新法の記載について要確認。