賃料滞納や用法違反の紛争を解決し建物の明渡し時期を取り決める合意書。民法第541条の催告解除を前提に、明渡期限、残債務の分割弁済、強制執行認諾に対応。
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明渡し合意書
第1部: 書式本文
【貸主商号・氏名】(以下「甲」という。)と【借主(占有者)氏名】(以下「乙」という。)は、下記物件に係る賃貸借契約(以下「原契約」という。)について、乙に賃料の滞納【 】か月分(金【 】円)【及び/又は用法違反の事実(具体的内容:【 】)】があり、甲が民法第541条に基づき相当の期間を定めて催告したにもかかわらず乙の履行がなかったことを踏まえ、原契約の終了及び本物件の明渡しに関し、次のとおり合意する(以下「本合意書」という。)。
第1条(対象物件) 本合意書の対象物件は【所在地】【建物名・号室】(以下「本物件」という。)とする。
第2条(原契約の終了の確認) 甲及び乙は、甲が令和【 】年【 】月【 】日付内容証明郵便により行った催告に基づき、原契約が令和【 】年【 】月【 】日をもって解除により終了したこと、又は本合意書締結日をもって合意解除により終了することを相互に確認する。
第3条(明渡期限) 乙は、令和【 】年【 】月【 】日限り(以下「明渡期限」という。)、本物件内の乙の所有物一切を収去し、本物件を甲に明け渡す。
第4条(占有の継続と使用損害金) 乙は、本合意書締結日から明渡期限(実際に明渡しが完了した日を含む。)までの間、本物件を継続して占有・使用することができるものとし、当該期間について1か月あたり金【 】円(1日あたりの日割計算による。)の使用損害金を甲に支払う。
第5条(滞納賃料等の残債務) 1. 乙が甲に対して負担する令和【 】年【 】月分から令和【 】年【 】月分までの滞納賃料及び共益費の合計額は、金【 】円(以下「本件残債務」という。)であることを甲乙間で確認する。 2. 乙は、本件残債務を次のとおり分割して甲に支払う。 第1回 令和【 】年【 】月【 】日限り 金【 】円 第2回以降 毎月末日限り 金【 】円ずつ 3. 乙が前項の分割金の支払を【 】回分以上怠ったときは、乙は当然に期限の利益を喪失し、残債務全額を直ちに一括して支払う。
第6条(明渡しの方法) 1. 乙は、明渡期限までに本物件内の残置物を全て収去し、鍵【 】本を甲又は甲の指定する管理会社に返還する。 2. 乙が明渡期限までに残置物を収去しなかったときは、乙は当該残置物の所有権を放棄したものとみなし、甲は任意にこれを処分できる。処分に要した費用は乙の負担とする。
第7条(明渡遅延による損害金の加算) 乙が明渡期限までに明渡しを完了しないときは、乙は、明渡期限の翌日から明渡し完了日まで、第4条の使用損害金に加えて1日あたり金【 】円の遅延損害金を甲に支払う。
第8条(強制執行認諾) 乙は、第5条の分割金の支払及び第3条の明渡しの各債務について、期限の利益を喪失したときは直ちに強制執行に服する旨を陳述し、甲乙は本合意書を公正証書とし、その旨の強制執行認諾文言を付するものとする。
第9条(公正証書化の手続) 甲及び乙は、本合意書締結後【 】日以内に、共同して公証人に対し本合意書を執行証書とする旨の公正証書作成を嘱託する。作成費用は【甲/乙/甲乙折半】の負担とする。
第10条(敷金等の充当) 甲は、乙から預託を受けている敷金を、本件残債務、使用損害金、原状回復費用の順に充当し、なお残額があるときは、明渡し完了後【 】日以内に乙に返還する。
第11条(連帯保証人の責任) 原契約の連帯保証人【氏名】は、本合意書に基づき乙が負担する債務についても、原契約に基づく保証の範囲内で連帯して責任を負うことを確認する。
第12条(清算条項) 甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、原契約に関し相互に債権債務が存在しないことを確認する。
以上を証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
令和【 】年【 】月【 】日
甲(貸主) 住所:【 】 氏名:【 】 印 乙(借主・占有者) 住所:【 】 氏名:【 】 印 連帯保証人 住所:【 】 氏名:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 貸主向け
A-1 第3条の修正例 「乙が明渡期限までに明渡しを完了しない場合、甲は催告を要せず本物件の占有回収のための法的手続を開始できるものとし、乙はこれに異議を述べない。」 一言解説: 貸主にとっては、明渡期限を過ぎても任意の退去に応じない占有者に対し、改めて催告や協議を要することなく次の手続(強制執行の申立て等)に進めることが重要である。ただし自力救済(実力による鍵の交換等)は許されないため、あくまで法的手続を前提とした条項とする必要がある。
A-2 第8条の修正例 「甲は、乙が第5条の分割金支払を1回でも怠ったときは、直ちに公正証書に基づき強制執行の申立てをすることができ、乙はあらかじめこれに同意する。」 一言解説: 強制執行認諾文言付き公正証書は、金銭債務については直ちに強制執行が可能になる強力な手段である。分割払いの不履行を厳格な期限の利益喪失事由として明記しておくことで、貸主の回収の実効性が高まる。
B節: 借主(占有者)向け
B-1 第4条の修正例 「使用損害金の額は、原契約における賃料額を超えないものとし、乙が明渡期限までに任意に退去した場合は、実際の占有日数分のみを日割計算により支払う。」 一言解説: 使用損害金が賃料相当額を大きく超える金額に設定されると、実質的に違約罰的性格を帯び、後日その有効性が争われるおそれがある。借主側では、賃料相当額を上限とする旨を明記し、早期退去のインセンティブを損なわない設計とすることが望ましい。
B-2 第5条の修正例 「乙の分割金支払について、天災その他乙の責めに帰することのできない事由により支払が遅延した場合、甲は【 】日間、期限の利益喪失の効果を猶予する。」 一言解説: 分割弁済中に乙が病気や失業等でやむを得ず支払が遅れる事態は起こり得る。一律の期限の利益喪失条項のみでは酷な結果を招きかねないため、猶予規定を設けることで実行可能性のある合意とする。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、賃料滞納や用法違反といった借主の債務不履行を原因として貸主と借主(占有者)との間に紛争が生じ、民法第541条に基づく催告解除を経た、又は経る前提で、明渡しの時期・方法及び滞納賃料等の残債務の弁済方法を確定的に合意する場面で使用する。同条は、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は契約の解除をすることができる旨を定めており、本書式の前提となる法律関係を構成する。他方、借主に契約違反がなく、双方の任意の判断で契約関係を終了させる場面では、催告解除を前提とする本書式ではなく、合意解約を内容とする書式を用いるべきである。
実務でよくある失敗の第一は、明渡期限までの占有継続を前提とする使用損害金の性質を明確にしないまま合意書を作成し、後日、乙から「これは実質的な違約罰であり無効ではないか」との主張を受けることである。使用損害金の額を賃料相当額の範囲内に収め、その算定根拠(原契約の賃料額)を明記することが対策となる。第二に、強制執行認諾文言付き公正証書化を合意書上のみで済ませ、実際に公証役場での手続を怠ったまま期限を徒過し、いざという時に債務名義がなく通常の訴訟提起を余儀なくされる例がある。第9条のように公正証書作成の期限と手続主体を明記し、実際に履行することが不可欠である。第三に、連帯保証人への確認を怠り、分割弁済や明渡遅延損害金といった原契約締結時には想定されていなかった債務について、保証人が保証範囲外であると争う例がある。連帯保証人の関与や署名を得ておくこと、保証の範囲を原契約の範囲内に限定して明記することが望ましい。
なお、明渡しの強制執行には民事執行法上の手続が必要であり、貸主が自ら実力で鍵を交換する、残置物を持ち出すといった自力救済的な対応は、たとえ本合意書に明渡期限の定めがあっても違法となり得る。滞納賃料の額の確定方法、使用損害金の水準、強制執行認諾文言の要否や公正証書化の実務手続については、事案の具体的な事実関係を踏まえて専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 催告解除の要件(相当期間を定めた催告及び催告書の到達)を満たしているか、証拠(内容証明郵便等)とともに確認した
- [ ] 滞納賃料等の残債務の金額を、賃料台帳等の根拠資料と照合して確定した
- [ ] 明渡期限を、乙の転居に要する実務上の期間を踏まえて設定した
- [ ] 使用損害金の額が原契約の賃料額と比較して過大でないか確認した
- [ ] 分割弁済の回数・金額・期限の利益喪失事由を具体的に定めた
- [ ] 強制執行認諾文言付き公正証書とする場合、公証役場への嘱託手続の期限と担当者を明記した
- [ ] 連帯保証人がいる場合、本合意書への署名又は同意取得の要否を確認した
- [ ] 敷金からの充当順序(残債務、使用損害金、原状回復費用等)を明記した
- [ ] 残置物の処分方法及び処分費用の負担者を明記した
- [ ] 自力救済に当たる対応(実力での鍵交換等)を行わない旨を社内(貸主側)で共有したか確認した