不動産の売買代金を分割して支払う場合の合意書。民法第587条以下および第541条の催告解除を踏まえ、支払時期・遅延損害金・所有権移転時期と登記留保を定める。

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売買代金の分割払い合意書

第1部: 書式本文

第1条(前提) 売主〇〇〇〇(以下「甲」という。)と買主〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、別紙物件目録記載の不動産(以下「本物件」という。)の売買代金金〇〇円について、次のとおり分割払いとすることを合意する。

第2条(分割払いの内容) 乙は甲に対し、売買代金を次のとおり分割して支払う。第1回金〇〇円(契約締結時)、第2回以降金〇〇円ずつを毎月〇日限り、〇年〇月まで支払う。

第3条(所有権移転登記の時期) 甲は、代金の全部の支払を受けるまで、本物件の所有権移転登記手続をしないものとし、乙が代金を完済したときに直ちに登記手続をする。

第4条(引渡しの時期) 本物件の引渡しは、〔選択A: 契約締結時/選択B: 代金完済時〕に行う。選択Aの場合、乙は代金完済まで甲のために抵当権設定登記に協力する。

第5条(担保設定) 選択Aによる場合、乙は本契約締結後速やかに、甲を抵当権者とする抵当権(被担保債権額は残代金相当額)を本物件に設定し、その登記手続に協力する。

第6条(遅延損害金) 乙が分割金の支払を遅滞したときは、甲に対し、遅延元本に年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。

第7条(期限の利益喪失) 乙が分割金の支払を〇回以上連続して怠ったとき、又は乙について破産手続開始その他の信用不安事由が生じたときは、乙は当然に期限の利益を失い、甲に対し残代金全額を直ちに支払う。

第8条(危険負担) 本物件の滅失、毀損の危険は、引渡し完了までは甲が、引渡し完了後は乙が負担する。

第9条(契約不適合責任) 引き渡された本物件が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、乙は民法の定めるところにより履行の追完、代金減額、損害賠償又は解除を請求することができる。

第10条(合意解除) 乙が期限の利益を喪失し、相当期間の催告後もなお履行しないときは、甲は本契約を解除することができる。

第11条(合意管轄) 本合意書に関する紛争は、本物件所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 売主向けの修正

A-1. 引渡し・登記留保の徹底

修正後(第3条・第4条の代替):「甲は、乙が代金を完済するまで、本物件の引渡し及び所有権移転登記手続のいずれも行わないものとする。」 一言解説: 代金回収の確実性を最優先し、引渡しと登記の両方を代金完済まで留保する、売主にとって最も保守的な修正である。分割払い期間が長期に及ぶ場合に採用されやすい。

A-2. 期限の利益喪失事由の追加

追加条文例:「乙が本物件を第三者に無断で賃貸し、又は占有を移転したときも、乙は期限の利益を失う。」 一言解説: 引渡し後に乙が本物件を第三者に処分・賃貸することで代金回収が事実上困難になる事態を防ぐための追加事由である。

B. 買主向けの修正

B-1. 早期完済による割引の追加

追加条文例:「乙が残代金を予定より前倒しで完済したときは、甲は残存期間分の利息相当額(年〇%)を代金から減額する。」 一言解説: 分割払いに実質的な金利相当分が上乗せされている場合、早期完済へのインセンティブを設ける修正である。

B-2. 引渡し先行型への変更

修正後(第4条の代替):「本物件の引渡しは契約締結時に行い、乙は直ちに本物件の使用収益を開始できるものとする。」 一言解説: 買主が早期の使用開始を希望する場合の修正であり、売主にとっては代金完済前に引渡しを行うリスクがあるため、A-2のような担保設定や期限の利益喪失条項とセットで検討される。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、不動産の売買代金を一括で用意できない買主のために、当事者間の合意により代金を分割して支払う場面で用いる。買主が金融機関から住宅ローンの融資を受けて一括で決済する取引とは異なり、あくまで売主・買主間の個人間金融としての性質を持つ。宅地建物取引業者が反復継続して分割払いによる不動産販売を行う場合、割賦販売法上の規制(頭金要件、契約解除等の制限に関する規定)の適用対象となりうるため、業として行う場合は本書式をそのまま用いるべきではない。

根拠法令 民法第587条は消費貸借契約の成立要件を定めるものであるが、分割払いの合意は消費貸借そのものではなく、売買代金債務の履行方法に関する特約(期限の許与)として構成される。民法第541条は、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は契約の解除をすることができる旨を定めており、第10条の解除条項の根拠となる。所有権移転登記の留保は、対抗要件制度(民法第177条)を前提として、代金債権の実質的な担保として機能する。

実務でよくある失敗と対策 第一に、引渡しを先行させたにもかかわらず代金完済前の所有権移転登記に関する担保(抵当権設定等)を怠り、買主が第三者に転売してしまい代金回収が困難になる失敗がある。B-2を採用する場合はA-2・第5条の担保設定を必ずセットで検討する必要がある。第二に、期限の利益喪失事由を「1回でも遅滞したとき」のように厳格にしすぎ、わずかな遅延で全額請求という重大な効果が生じることが買主にとって過度に不利益となる失敗がある。第7条のように一定回数の連続遅滞を要件とするなど、合理的なバランスを取ることが望ましい。第三に、遅延損害金の利率を利息制限法の趣旨に照らして過大に設定してしまう失敗がある。不動産の売買代金債務は消費貸借上の元本ではないため利息制限法が直接適用されるかは論点があるが、実務上は同法の制限利率(年14.6%等の実務慣行上の上限)を参考に設定することが多い。

第四に、分割払い期間中に固定資産税・都市計画税の納税義務者(登記簿上の所有者)と実質的な使用収益者(引渡しを受けた買主)が異なる状態が続くことを想定せず、税負担の帰属について取り決めをしないまま紛争化する失敗もある。B-2のように引渡しを先行させる場合は、公租公課の実質負担者及び納税義務者との関係を条項上明記しておくことが望ましい。第五に、長期の分割払いにおいて、売主が死亡し相続が発生した場合の残代金債権の承継関係を定めないまま合意書を作成し、相続人間での対応に混乱が生じる失敗もある。

分割払いの設計は当事者の資力や取引の実態によって大きく異なるため、契約締結前に専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 分割払いの回数・金額・支払期日を具体的に定めたか
  • [ ] 引渡し及び所有権移転登記の時期(完済前か完済時か)を決定したか
  • [ ] 引渡しを先行させる場合、抵当権等の担保設定を行うか検討したか
  • [ ] 遅延損害金の利率を確認したか
  • [ ] 期限の利益喪失事由(遅滞の回数、信用不安事由等)を明確にしたか
  • [ ] 宅地建物取引業者が業として行う場合、割賦販売法の適用の要否を確認したか
  • [ ] 早期完済時の取扱い(利息相当額の減額等)を検討したか
  • [ ] 危険負担の移転時期を明確にしたか
  • [ ] 引渡し先行の場合、公租公課の実質負担者を明確にしたか
  • [ ] 長期分割の場合、当事者死亡時の債権債務承継の取扱いを検討したか