災害や感染症発生時に事業を継続するための基本方針書です。重要業務の特定、目標復旧時間、代替拠点、発動基準を定めます。実務で迷いやすい記載箇所には解説コメントを付しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
事業継続計画(BCP)基本方針書
第1部: 書式本文
1. 基本方針の宣言
【〇〇株式会社】(以下「当社」という。)は、地震、風水害、感染症の拡大その他の緊急事態(以下「緊急事態」という。)が発生した場合においても、次の優先順位に従い事業活動を継続又は早期復旧させることを基本方針とする。 1. 人命の安全確保を最優先とする 2. 重要顧客・取引先への影響を最小化する 3. 会社の信用及び雇用の維持を図る 【解説コメント:優先順位を明記する条項は、発災直後の意思決定において何を優先するかの拠り所となる。人命第一を最上位に置くことは、労働契約法第5条の安全配慮義務の趣旨とも整合的である。】
2. 適用範囲及び発動基準
本方針書は、当社の全事業所及び全従業員に適用する。発動基準は次のとおりとする。 1. 会社所在地を含む地域で震度【6弱】以上の地震が観測された場合 2. 主要な事業拠点が使用不能となった場合 3. 感染症の拡大により、通常出社体制の維持が著しく困難と判断される場合 4. 代表取締役又は【BCP統括責任者】が発動を必要と判断した場合 【解説コメント:発動基準は客観的指標(震度等)と経営判断の余地(第4号)を併記することが実務上多い。基準を厳格にしすぎると必要な場面で発動が遅れ、緩すぎると形骸化するため、自社の事業特性に応じた閾値の検討が必要である。】
3. 重要業務の特定
当社は、緊急事態時においても継続又は早期復旧を優先すべき業務(以下「重要業務」という。)として、次を特定する。 1. 【顧客向け基幹システムの稼働維持】 2. 【既存契約に基づく製品・サービスの供給】 3. 【資金決済・給与支払等の資金繰りに関する業務】 4. 【上記に付随する最小限の管理部門機能】 【解説コメント:重要業務の特定は総花的にならないよう、真に停止させてはならない業務を絞り込むことが重要である。全部門を重要業務として列挙すると、限られた人員・資源の配分計画が機能しなくなる点に注意する。】
4. 目標復旧時間(RTO)及び目標復旧レベル(RLO)
重要業務ごとの目標復旧時間及び目標復旧レベルは、別紙【BCP詳細計画】に定めるところによるが、基本方針として次のとおりとする。 1. 重要業務1【基幹システム】:目標復旧時間【24時間】以内、目標復旧レベル【通常時の80%】 2. 重要業務2【製品・サービス供給】:目標復旧時間【72時間】以内、目標復旧レベル【通常時の50%】 【解説コメント:目標復旧時間は希望的観測ではなく、実際の代替手段(後述の代替拠点等)の準備状況と整合させる必要がある。実現可能性を伴わない目標設定は、発災時に方針書自体の信頼性を損なう。】
5. 代替拠点及び代替手段
- 主要事業拠点が使用不能となった場合、【〇〇市所在のサテライトオフィス・提携先事業所】を代替拠点として使用する。
- 在宅勤務によって代替可能な業務については、平時から在宅勤務環境(ネットワーク、業務端末)の整備を進める。
- 主要な仕入先又は外注先が被災した場合に備え、代替調達先【〇〇株式会社】をあらかじめ選定する。 【解説コメント:代替拠点は「決めているだけ」で終わらせず、実際に一定期間内に移転・稼働できるかを定期的な訓練で検証する必要がある。契約上の利用権原(賃貸借契約や提携協定の有無)も確認しておくべき事項である。】
6. 対策本部の設置及び指揮命令系統
- 発動基準に該当した場合、代表取締役を本部長とする対策本部を設置する。
- 本部長不在時の代行順位は、【専務取締役】、【〇〇部門長】の順とする。
- 対策本部は、人命安全確保、重要業務の継続、対外広報及び関係機関対応の各機能に班を編成する。 【解説コメント:代行順位を定めない方針書は、本部長が被災・不在となった場合に意思決定が停止するリスクを抱える。複数名の代行順位をあらかじめ明記することが実務上重要である。】
7. 取引先・顧客への対応方針
- 重要顧客に対しては、発災後【24時間】以内に一次連絡を行い、供給状況の見込みを伝達する。
- 取引先に対しては、代替調達先の確保状況等、事業継続に関する情報を必要な範囲で共有する。 【解説コメント:取引先との情報共有の範囲は、営業秘密や個人情報の取扱いにも関わるため、共有可能な情報の範囲をあらかじめ整理しておくとよい。】
8. 教育・訓練及び見直し
- 当社は、年【1】回以上、本方針書に基づく訓練を実施する。
- 本方針書は、訓練結果及び組織・事業環境の変化を踏まえ、年【1】回見直しを行う。 【解説コメント:BCPは策定して終わりではなく、PDCAサイクルとして運用することが中小企業庁の指針及び内閣府のガイドラインにおいても強調されている。】
9. 財務上の備え
発災時の運転資金確保のため、当社は、緊急時に利用可能な融資枠又は運転資金として【〇〇万円】程度を目安に確保するよう努める。
10. 本方針書の位置づけ
本方針書は、当社の事業継続に関する基本的な考え方を示すものであり、具体的な手順は別途定める各種マニュアル及び規程(安否確認運用規程、防災備蓄品管理規程等)による。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 経営者(策定・発動判断側)の運用場面における書き換え
- A-1(グループ会社を統括する持株会社の場合):第6条の対策本部を「グループ本部対策本部及び各社対策本部の二層構造とし、情報集約はグループ本部に一元化する。」に変更する一言解説。子会社ごとに個別の判断が乱立することを防ぐ狙いがある。
- A-2(製造業で工場が事業の中核となる場合):第3条の重要業務特定において「工場の生産ライン復旧を最優先業務と位置付け、事務系業務は復旧順位を後段に置く。」との業種特性を反映した書き換えを行う。
- A-3(資金繰りが逼迫しやすい小規模企業の場合):第9条を具体化し、「緊急時運転資金は、平時から金融機関との間で予約型融資枠(コミットメントライン)を確保する方向で協議する。」との一言を追加する。
B節: 従業員・取引先(実行・情報受領側)の運用場面における書き換え
- B-1(在宅勤務中心の企業の場合):第5条第2項を拡張し、「全従業員を対象に、年1回、在宅勤務環境からの業務継続可否を確認するテストを実施する。」との具体策を追記する一言解説。
- B-2(サプライチェーンの下流に位置し取引先からBCP整備を求められている場合):第7条に「取引先からの照会に対応するため、本方針書の要旨を記載した対外説明用資料を別途作成する。」を追加する。
- B-3(従業員の家族対応を重視する企業の場合):第1条の人命安全確保の内容に「従業員本人のみならず、その家族の安否確認への配慮を含む。」旨を明記し、安否確認運用規程との整合を図る一言解説。
第3部: 書き方と法的ポイント解説(解説)
使う場面・使ってはいけない場面
本方針書は、経営レベルで事業継続の基本的考え方を定め、従業員及び取引先に対外的に説明する場面で使用する。反対に、現場レベルの詳細な操作手順(システム復旧の具体的手順書等)を本方針書のみで代替しようとすると、実務上機能しない。基本方針書はあくまで大方針であり、詳細手順は別紙・別規程に委ねる構成とすべきである。
根拠法令・指針
事業継続計画に関する法律上の一律の作成義務は存在しないが、中小企業庁は「中小企業BCP策定運用指針」において、中小企業が取り組みやすい形でBCP策定のプロセスを示している。また、内閣府は「事業継続ガイドライン(第三版)」において、重要業務の選定、目標復旧時間の設定、対策本部の設置等、企業がBCPを策定・運用する際の考え方を整理している。これらは法的拘束力を有するものではないが、業界標準的な実務指針として参照されることが多い。加えて、労働契約法第5条の安全配慮義務との関係では、BCPにおいて人命安全確保を最優先とする方針を明記し、これを実行することが、従業員の安全確保に向けた取組みの一環として位置づけられる。
よくある失敗と条項上の対策
- 重要業務を絞り込まず、すべての業務を「重要」とした結果、資源配分の優先順位が機能しない失敗。→ 第3条のように重要業務を限定列挙し、優先順位を明示する。
- 目標復旧時間が代替拠点等の実現可能性と整合しておらず、絵に描いた餅になる失敗。→ 第4条・第5条を連動させ、代替手段の裏付けのある目標設定とする。
- 対策本部長が不在の場合の代行順位が定められておらず、意思決定が停止する失敗。→ 第6条のように複数名の代行順位を明記する。
BCPの発動基準や重要業務の選定は、業種・規模・地域特性によって最適解が異なるため、個別事案は専門家(弁護士等)に確認しながら策定することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト(チェックリスト)
- 発動基準(震度・拠点使用不能等)を客観的に定めたか
- 重要業務を絞り込んで特定したか
- 重要業務ごとの目標復旧時間・目標復旧レベルを設定したか
- 代替拠点の利用権原(契約関係)を確認したか
- 対策本部長及び代行順位を複数名定めたか
- 取引先・顧客への一次連絡の目標時間を定めたか
- 財務面での緊急時資金確保策を検討したか
- 安否確認運用規程・防災備蓄品管理規程等の関連規程との整合を確認したか
- 年間の訓練計画及び見直しサイクルを定めたか
- 従業員への周知方法(説明会、掲示等)を検討したか
- 中小企業庁及び内閣府の関連指針の最新版を参照したか
- 対外的に方針書の要旨を説明する資料の要否を確認したか