弁護士が訴訟や交渉事件を受任する際の委任契約書。弁護士法および弁護士職務基本規程の受任時説明義務に沿い、着手金・報酬金・実費と解任を規定。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
弁護士委任契約書
第1部: 書式本文
【弁護士事務所名又は弁護士法人名】(以下「甲」という。)と【依頼者氏名又は商号】(以下「乙」という。)とは、乙が甲に対し下記事件の処理を委任することに関し、次のとおり委任契約(以下「本契約」という。)を締結する。
記 事件の表示:【〇〇請求事件】 相手方:【 】
第1条(目的) 本契約は、弁護士法及び弁護士職務基本規程(以下「規程」という。)に基づき弁護士である甲が乙から前記事件に関する交渉、調停、訴訟その他の法的手続(以下「本件事件」という。)の処理を受任し、乙がその対価を支払うことに関する基本的な権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(受任時の説明) 甲は、規程第29条に基づき、本契約の締結に先立ち、乙に対し本件事件の見通し、処理の方法、弁護士報酬及び実費の概算について書面又は口頭により説明した。乙はこれを理解した上で本契約を締結する。
第3条(委任事務の範囲) 1. 甲が乙から受任する事務は、本件事件に関する【交渉・調停申立て・訴訟提起及び追行】とし、上訴の提起及び追行はこれに含まない。 2. 上訴の要否については、第一審の判断が示された後、甲乙協議の上、別途委任契約を締結するかを決定する。
第4条(弁護士報酬) 1. 乙は甲に対し、本契約締結時に着手金として金【〇〇】円(消費税別)を支払う。 2. 乙は甲に対し、本件事件が終了した場合において、その結果が乙にとって経済的利益を生じたときは、当該経済的利益の額を基準として別紙報酬基準表により算定した報酬金を支払う。 3. 報酬金の算定基準となる「経済的利益」の内容(認容額、和解成立額、請求棄却により免れた額等)は別紙報酬基準表に定めるとおりとする。
第5条(実費及び日当) 1. 乙は甲に対し、収入印紙代、郵便切手代、交通費その他本件事件の処理に要した実費を、甲からの請求に基づき支払う。 2. 期日への出頭その他甲の事務所所在地から【〇〇】キロメートルを超える出張を要する場合、乙は甲に対し別紙報酬基準表に定める日当を支払う。
第6条(預り金の管理) 甲は、乙から本件事件の処理のために預かった金員を、甲の固有財産と区分して管理し、その使途及び残額を乙に対し適時に報告する。
第7条(報告義務) 甲は、本件事件の処理状況について、乙からの求めがあったとき又は重要な進展があったときに、乙に対し報告する。
第8条(利益相反の確認) 甲は、本契約締結時点において、本件事件について規程第27条及び第28条に定める職務を行い得ない事由に該当しないことを確認している。本契約締結後にこれらの事由が判明した場合、甲は速やかに乙に通知し、辞任その他必要な措置を講じる。
第9条(解任及び辞任) 1. 乙は、いつでも本契約を解除し甲を解任することができる。この場合、乙は既にした事務処理の程度に応じた報酬及び実費を甲に支払う。 2. 甲は、規程に定める辞任事由がある場合その他委任の趣旨に照らし合理的な理由がある場合、乙に対し書面で通知の上、本契約を解除し辞任することができる。この場合も既履行部分に相当する報酬の精算を行う。
第10条(秘密保持) 甲は、規程第23条に基づき、本件事件の処理を通じて知り得た乙の秘密を正当な理由なく第三者に開示してはならない。この義務は本契約終了後も存続する。
第11条(反社会的勢力の排除) 乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第12条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 事務所又は法人名:【 】 所属弁護士会・登録番号:【 】 印
(乙) 氏名又は商号:【 】 住所:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 弁護士・弁護士法人向け書き換え
A-1. 交通事故等の個人被害者からの受任(着手金無料型)
第4条1項修正例:「着手金は無料とし、乙は甲に対し、本件事件終了時に第2項の報酬金及び回収額に対する【〇〇】パーセントの成功報酬を支払う。」 解説: 個人の被害回復事件では着手金の負担が受任の障壁となりやすいため、成功報酬型に寄せる場合は報酬割合及び算定基準を明確に定め、規程第29条の説明義務を尽くす。
A-2. 企業の継続的な債権回収案件の受任
第4条2項修正例:「本件事件が複数の同種請求案件を含む場合、報酬金は個別案件ごとの回収額を基準として算定し、着手金は案件数に応じた包括額とする。」 解説: 同種の債権回収を多数抱える企業向けには、個別事件ごとの精算ルールを明示し、包括的な着手金設定による実務負担の軽減を図る。
B. 依頼者向け書き換え
B-1. 訴訟の見通しについて特に慎重な説明を求める個人
第2条追加例:「甲は、本件事件の主張が認められる可能性、想定される反論及び手続に要する概算期間について、書面により乙に交付する。」 解説: 説明義務の履行を口頭のみとせず書面化することで、見通しに関する認識の齟齬や後日の紛議を防止する。
B-2. 途中解任の可能性を事前に想定する依頼者
第9条1項修正例:「乙が本件事件の終局的な解決前に本契約を解除した場合の報酬は、着手金の限度で精算し、報酬金は発生させない。」 解説: 依頼者側の事情による早期解任リスクを見据え、報酬精算の基準をあらかじめ明確化しておくことで解任時の紛争を予防する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、弁護士又は弁護士法人が個別の交渉、調停、訴訟その他の法的手続を受任する場合に用いる。継続的な法律顧問業務(顧問料に基づき随時の相談に応じるもの)を目的とする場合には、事件単位の着手金・報酬金体系になじまないため、別途顧問契約書を用いるべきである。
根拠法令 弁護士の報酬は、2004年の日本弁護士連合会報酬等基準規程廃止により自由化されており、弁護士法上は個々の弁護士が依頼者との合意により定める。もっとも、規程第29条は事件受任にあたり見通し、処理方法、弁護士報酬及び費用について説明する義務を、規程第30条は委任契約が成立したときに契約書を作成する義務(合理的理由がある場合を除く)を、それぞれ定めている。また、規程第27条及び第28条は職務を行い得ない場合(利益相反等)を規定しており、受任前の確認を要する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、着手金・報酬金の算定基準となる「経済的利益」の定義が曖昧なまま契約し、事件終了時に報酬額を巡って依頼者との間で紛議が生じる失敗がある。第4条3項のように算定基準を報酬基準表として明確化する。第二に、規程第29条の説明義務を口頭のみで済ませ、後に「聞いていない」との主張を招く失敗がある。B-1のように書面化することで対応する。第三に、途中解任時の報酬精算基準を定めずに契約し、解任の可否や金額を巡って規程第25条の紛議調停の対象となる失敗がある。第9条のように既履行部分の精算基準をあらかじめ明記する。これらは一般的な留意点であり、個別事件の性質に応じた条件設定は弁護士に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 受任事件の範囲(交渉・調停・訴訟、上訴の要否)を明確に特定したか
- [ ] 規程第29条に基づく受任時の説明(見通し・処理方法・費用)を行い記録したか
- [ ] 着手金及び報酬金(成功報酬)の算定基準を報酬基準表等で明確にしたか
- [ ] 「経済的利益」の定義を事件類型に応じて具体的に定めたか
- [ ] 実費及び日当の算定方法を定めたか
- [ ] 預り金の分別管理及び報告方法を定めたか
- [ ] 利益相反の有無を受任前に確認したか
- [ ] 解任・辞任時の報酬精算基準を定めたか
- [ ] 秘密保持義務の内容と存続期間を明記したか
- [ ] 反社会的勢力排除条項を設けたか