賃料の増額または減額を当事者の合意により改定する書面。借地借家法第32条の賃料増減額請求権を前提に、改定後賃料の適用開始時期と差額の精算方法を定める。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
賃料改定合意書
第1部: 書式本文
賃料改定合意書
貸主【貸主氏名・名称】(以下「甲」という。)と、借主【借主氏名・名称】(以下「乙」という。)は、甲乙間の下記賃貸借契約(以下「原契約」という。)における賃料の改定について、次のとおり合意する(以下「本合意」という。)。
第1条(原契約の特定) - 物件所在地: 【物件所在地】 - 物件名称・号室: 【建物名称・号室】 - 原契約締結日: 【原契約締結日】 - 現行賃料: 月額金【現行賃料】円
第2条(改定の理由) 甲及び乙は、【公租公課の増減・近隣相場の変動・建物の経年劣化・借地借家法第32条に基づく増減額請求等】を理由として、原契約に定める賃料を下記のとおり改定することに合意する。
第3条(改定後の賃料) 1. 原契約の賃料は、【改定適用開始日】以降、月額金【改定後賃料】円に改定する。 2. 共益費、駐車場使用料その他の付随費用については、【変更しない・下記のとおり改定する】。
第4条(差額の精算) 1. 改定適用開始日が本合意締結日より前に遡る場合、甲及び乙は、既払賃料と改定後賃料との差額を次のとおり精算する。 - 差額: 金【 】円(【増額分・減額分】) - 精算方法: 【一括返還・次回以降の賃料への充当・分割返還等】 - 精算期限: 【精算期限】 2. 前項の差額精算は、原契約に基づく敷金の額には影響しないものとする。
第5条(改定後の賃料の適用範囲) 本合意による賃料改定は、【改定適用開始日】以降に発生する賃料債務に適用し、これより前に既に発生し弁済期が到来した賃料債務には影響しない。
第6条(更新後の取扱い) 本合意による改定後の賃料は、原契約が更新された場合、更新後の契約における賃料の基準額として引き継がれるものとする。
第7条(将来の再改定) 本合意は、将来における賃料の再改定を妨げるものではなく、甲又は乙は、借地借家法第32条に基づき、事情変更があったときは改めて賃料改定を協議することができる。
第8条(協議事項) 本合意に定めのない事項は、甲乙誠実に協議して定める。
以上、本合意締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【締結日】
甲: 【住所】 【氏名・名称】 印 乙: 【住所】 【氏名・名称】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 貸主向け(増額改定を行う場合)
A-1 第2条・第3条の修正例 「甲は、近隣同種物件の賃料相場の上昇及び固定資産税評価額の改定を理由として、乙に対し賃料の増額を求め、乙はこれに合意する。改定後賃料は、現行賃料の【 】パーセント増となる月額金【改定後賃料】円とする。」 一言解説: 貸主が増額改定を求める場合、借地借家法第32条の増減額請求権の考慮要素(公租公課の増減、近隣相場、経済事情の変動、従前賃料が定められた経緯)に対応する具体的根拠を示すことで、合意形成が円滑になる。
B節: 借主向け(近隣相場との比較資料を添付したい場合)
B-1 第2条への追加確認 「乙は、本合意締結にあたり、近隣同種物件の賃料相場を示す不動産業者作成の査定資料を甲に提示し、甲はこれを改定理由の裏付けとして確認する。」 一言解説: 借主が減額を求める場合、単に「相場が下がった」と主張するだけでなく、具体的な査定資料を提示することで協議が円滑に進みやすくなる。
C節: 借主向け(減額改定を求める場合)
C-1 第2条・第3条の修正例 「乙は、近隣同種物件の賃料相場の下落及び【建物の老朽化・周辺環境の変化等】を理由として、甲に対し賃料の減額を求め、甲はこれに合意する。改定後賃料は、現行賃料の【 】パーセント減となる月額金【改定後賃料】円とする。」 一言解説: 借主が減額改定を求める場合も、近隣相場との比較資料(不動産業者の査定書等)を提示することで、貸主との協議を円滑に進めやすくなる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、既存の賃貸借契約における賃料を、当事者双方の合意により改定する場面で使用する。当事者間で合意に至らず、一方が調停や訴訟によって賃料額の確定を求める場合には、本書式(合意書)ではなく調停調書や判決による解決を要するため、本書式の適用場面は「合意ができた場合の合意内容の書面化」に限られる。
根拠法令は借地借家法第32条である。同条第1項は、建物の賃料が土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の賃料に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって賃料の額の増減を請求することができると定める。ただし、一定の期間賃料を増額しない旨の特約がある場合には、その特約が優先する(同条第1項但書)。増減額請求権は形成権であり、請求の意思表示が相手方に到達した時点から将来に向かって効力を生じるとされるが、当事者間の協議が調わない場合は、まず民事調停(借地非訟事件ではなく民事調停)を経ることが望ましいとされる場合が多い。本書式は、増減額請求権の行使を前提とした協議の結果、当事者双方が合意に至った内容を書面化するものである。
実務でよくある失敗の一つ目は、賃料改定の合意はしたものの、改定の適用開始日を明確にせず、既払賃料との差額精算方法をめぐって後日紛争になることである。第4条・第5条のように、適用開始日と差額精算の方法・期限を具体的に定めておくことが重要である。
二つ目の失敗は、賃料改定に伴い敷金の額も当然に変動すると誤解し、明確な合意なく敷金の追加預託や返還を行ってしまうことである。敷金は賃料とは別個の性質を持つ金銭であるため、改定の影響が及ぶかどうかを第4条第2項のように明記しておく必要がある。
三つ目の失敗は、賃料改定合意が更新後の契約にどのように引き継がれるかを定めておらず、更新時に旧賃料に戻って再交渉が必要になることである。第6条のように、改定後賃料が更新後の基準額となる旨を明記しておくことで、無用な再交渉を避けられる。
四つ目の失敗は、賃料改定合意書を締結する際、消費税の課税・非課税の区分(住宅の貸付けは原則非課税、事業用building貸付けは課税)を確認せず、改定後賃料に消費税を上乗せすべきかどうかで経理処理上の誤りが生じることである。事業用物件の賃料改定を行う場合は、第3条の改定後賃料が税込みか税抜きかを明記し、消費税の取扱いについても甲乙で認識を一致させておくことが望ましい。
賃料増減額請求権の行使時期や、協議が調わない場合の調停手続の要否については、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 現行賃料と改定後賃料を明記したか
- [ ] 改定理由(借地借家法第32条の考慮要素との対応関係)を明記したか
- [ ] 改定適用開始日を明確にしたか
- [ ] 適用開始日が遡及する場合、既払賃料との差額精算方法・期限を定めたか
- [ ] 敷金の額に影響が及ぶか否かを明記したか
- [ ] 共益費その他付随費用の取扱いを明記したか
- [ ] 更新後の契約に改定後賃料が引き継がれる旨を明記したか
- [ ] 将来の再改定協議を妨げない旨を確認したか
- [ ] 賃料減額しない特約(借地借家法第32条但書)の有無を確認したか
- [ ] 改定の根拠資料(近隣相場・固定資産税評価額等)を保管しているか
- [ ] 事業用物件の場合、改定後賃料が税込みか税抜きかを明記したか