賃貸借契約を期間途中で当事者双方の合意により終了させる書面。民法第540条以下の一方的解除と異なる合意解約として、解約日、鍵返還、敷金精算を確定する。
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賃貸借解約合意書
第1部: 書式本文
【貸主商号・氏名】(以下「甲」という。)と【借主商号・氏名】(以下「乙」という。)は、甲乙間で令和【 】年【 】月【 】日付で締結した下記物件に係る賃貸借契約(以下「原契約」という。)につき、期間の途中で双方合意のうえ終了させることとし、民法第540条に基づく合意解約として、次のとおり合意する(以下「本合意書」という。)。
第1条(対象物件) 本合意書の対象物件は【所在地】【建物名・号室】(以下「本物件」という。)とする。
第2条(合意解約) 甲及び乙は、原契約を令和【 】年【 】月【 】日(以下「解約日」という。)をもって、両者の合意により終了させる。
第3条(解約の性質) 本合意による原契約の終了は、民法第541条に基づく催告解除その他の債務不履行を理由とする解除ではなく、甲乙双方の合意に基づく解約であることを相互に確認する。
第4条(明渡し) 1. 乙は、解約日までに、本物件内の乙の所有物一切を撤去し、原契約に定める原状回復を行ったうえで、本物件を甲に明け渡す。 2. 乙は、解約日当日までに、本物件の鍵【 】本を甲又は甲の指定する管理会社に返還する。
第5条(賃料の日割精算) 解約日を含む月の賃料は、解約日までの日数に応じて日割計算し、乙が甲に支払う。既払賃料に過納分がある場合、甲は乙にこれを返還する。
第6条(敷金の精算) 1. 甲は、乙から預託を受けた敷金金【 】円から、原契約及び本合意書に基づき乙が負担すべき原状回復費用その他の債務を控除した残額を、解約日から【 】日以内に乙が指定する口座に振り込む方法により返還する。 2. 甲は、前項の控除内容を明らかにした精算明細書を乙に交付する。
第7条(中途解約違約金) 1. 原契約に中途解約違約金の定めがある場合、乙は当該定めに従い金【 】円を甲に支払う。 2. 本合意書締結をもって前項の違約金の額を確定し、甲及び乙はこれと異なる金額を別途請求しない。
第8条(原状回復の範囲) 原状回復の範囲は、原契約及び国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方を参考としつつ、通常損耗及び経年変化を除く乙の故意・過失又は通常の使用を超える使用による損耗を対象とする。
第9条(残置物の取扱い) 乙が解約日までに撤去しなかった残置物は、乙が所有権を放棄したものとみなし、甲が任意に処分できるものとする。ただし、甲は処分に要した費用を乙に請求できる。
第10条(公租公課等の精算) 本物件に関する水道光熱費等のうち乙の使用期間に対応する分は、解約日を基準として乙が負担する。
第11条(債権債務の清算) 甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、原契約に関し相互に債権債務が存在しないことを確認する。ただし、本合意書締結後に判明した事項については、この限りでない。
第12条(秘密保持) 甲及び乙は、本合意書の内容及び解約に至る経緯を、正当な理由なく第三者に開示しない。
第13条(合意管轄) 本合意書に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
令和【 】年【 】月【 】日
甲(貸主) 住所:【 】 氏名:【 】 印 乙(借主) 住所:【 】 氏名:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 貸主向け
A-1 第7条の修正例 「乙が解約日までに本物件からの退去及び鍵の返還を完了しない場合、甲は乙に対し、原契約所定の賃料相当額の【 】倍に相当する損害金を、明渡し完了日まで日割りで請求できる。」 一言解説: 貸主にとっては、次の入居者募集のスケジュールが解約日を基準に組まれるため、明渡し遅延が生じた場合の損害填補手段を確保しておくことが重要である。違約金とは別に明渡遅延損害金を明記しておくと実効性が高い。
A-2 第9条の修正例 「乙は、残置物の処分について、甲があらかじめ定める期限までに乙に対して通知を行うことなく処分することに同意する。」 一言解説: 貸主が残置物を処分する際、乙の事前同意を得ずに処分すると後日「勝手に処分された」との主張を受けるリスクがある。合意解約の時点で処分方法についての事前同意を取り付けておくことで、明渡し後の紛争を予防できる。
B節: 借主向け
B-1 第6条の修正例 「甲は、敷金の返還にあたり、控除項目ごとの単価及び数量を記載した見積書又は請求書の写しを乙に提示し、乙が異議を述べたときは、双方協議のうえ金額を確定する。」 一言解説: 借主にとって最大の懸念は敷金からの過大な控除である。単なる「明細書の交付」ではなく、根拠資料の提示と異議申立ての機会を明記することで、借主側の交渉力を担保できる。
B-2 第7条の修正例 「乙は、原契約締結から解約日までの入居期間が【 】年を超える場合、原契約に定める中途解約違約金は発生しないことを甲との間で確認する。」 一言解説: 賃貸借契約の多くは、一定期間経過後は違約金が発生しない旨の特約を置いていることがある。借主側で解約合意を取り交わす際は、原契約の違約金免除条件を確認し、該当する場合はその旨を明記して不要な支払を避ける。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、賃貸借契約の期間途中において、貸主・借主の双方が契約継続を望まず、任意に契約を終了させたい場面で用いる。民法第540条以下が定める合意解除(解約)は、同法第541条の催告解除のように相手方の債務不履行を要件としない点に本質的な違いがある。すなわち、賃料滞納や用法違反といった契約違反を理由に一方的に契約関係を終わらせる場面では本書式は適合せず、そのような場面では債務不履行解除ないし後続の明渡し合意を前提とした書式(明渡し合意書等)を検討すべきである。本書式が適合するのは、借主の転勤・住み替え、貸主の建替え計画への協力要請など、双方に契約違反がない状態での円満な契約終了の場面である。
実務でよくある失敗の第一は、解約の法的性質を明記しないまま合意書を作成し、後日、乙が「実質的には貸主都合の解除であり、借地借家法上の正当事由や立退料が必要ではないか」と主張する紛争に発展することである。第3条のように、本合意が民法第540条に基づく双方合意による解約であって、一方的解除ではないことを明記しておくことが重要である。第二に、中途解約違約金の金額や算定根拠が曖昧なまま合意書に金額のみを記載し、後日、乙から「原契約上の算定方法と異なる」との異議を受ける例がある。原契約の違約金条項を精査したうえで金額を確定し、確定額に異議を述べない旨を明記する第7条のような手当てが必要である。第三に、敷金精算の完了時期を明記せず、明渡し後長期間にわたり敷金が返還されないという苦情が生じる例がある。返還期限と精算明細の交付義務をセットで定めることが望ましい。
原状回復の範囲については、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方が実務上の目安として広く参照されているが、法的拘束力を有するものではなく、個別の契約内容や損耗の実態によって結論が異なり得る。中途解約違約金の有効性や敷金精算の適法性など、個別事案における具体的な判断については、契約内容や事実関係を踏まえて専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 原契約書に中途解約違約金・予告期間に関する特約があるか確認した
- [ ] 解約日を、原契約上の予告期間(通知から解約までの猶予期間)を踏まえて設定した
- [ ] 本合意が債務不履行解除ではなく合意解約であることを条項上明記した
- [ ] 敷金の預り額及び原契約上の控除条件を確認した
- [ ] 原状回復費用の見積り根拠資料を準備し、借主への提示方法を確認した
- [ ] 鍵の本数・種類(合鍵含む)と返還方法を具体的に記載した
- [ ] 残置物の処分方法及び処分費用の負担者を明記した
- [ ] 水道光熱費等の公租公課の精算基準日を明記した
- [ ] 連帯保証人がいる場合、保証人への通知又は同意取得の要否を確認した
- [ ] 合意管轄裁判所の記載が当事者の住所地・物件所在地との関係で妥当か確認した