侵害警告後の交渉を終結させる場面の和解契約書。民法第695条の和解を根拠に、解決金・在庫処分・再発防止と清算条項を定めます。

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知的財産権侵害に対する和解契約書

第1部: 書式本文

【権利者名】(以下「甲」という。)と【被疑侵害者名】(以下「乙」という。)は、甲が乙に対し、乙の【製品名/サービス名】が甲の有する【特許権/商標権/著作権】(登録番号【】、以下「甲権利」という。)を侵害する旨を通知し、両者間で交渉を行ってきたところ、以下のとおり和解契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(和解の趣旨) 甲及び乙は、本件に関する見解の相違があることを踏まえ、民法第695条に基づき、互いに譲歩のうえ、本契約に定める条件により本件を解決するものとする。〔選択A: 乙は、乙製品が甲権利を侵害することを認める。/選択B: 乙は甲権利の侵害を認めないが、紛争の早期解決のため本契約を締結する。〕

第2条(対象製品の製造販売の中止) 乙は、本契約締結日以降、【対象製品名】の製造、販売、輸入及び広告を直ちに中止する。

第3条(在庫品の処分) 乙は、本契約締結日時点で保有する対象製品の在庫を、本契約締結日から【30】日以内に廃棄する。乙は、廃棄が完了した後【7】日以内に、廃棄の日時、方法及び数量を記載した廃棄証明書を甲に提出する。

第4条(取引先への通知) 乙は、対象製品を既に納入した取引先に対し、追加出荷を行わない旨を通知し、当該通知の写しを甲に提出する。

第5条(解決金) 乙は甲に対し、本件解決金として金【〇〇】円の支払義務があることを認め、これを【一括で/分割で、初回金〇〇円を〇年〇月〇日までに、残額を〇回に分割し各回金〇〇円ずつ】、甲の指定する口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

第6条(期限の利益の喪失) 乙が前条の分割金の支払を1回でも怠り、甲から【7】日の期間を定めた催告を受けたにもかかわらず当該期間内に支払をしないときは、乙は当然に期限の利益を喪失し、残額全額を直ちに一括して支払う。

第7条(遅延損害金) 乙が解決金の支払を遅滞した場合、乙は甲に対し、支払期日の翌日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金を支払う。

第8条(再発防止) 乙は、本契約締結後、甲権利を侵害する製品又はこれと実質的に同一の製品を、自ら又は第三者を通じて製造、販売してはならない。乙が本条に違反した場合、乙は甲に対し違反1件につき金【〇〇】円を違約金として支払う。

第9条(公表の制限) 甲及び乙は、本契約の内容及び本件紛争の経緯について、相手方の事前の書面同意なく、プレスリリース、SNSその他の方法で公表してはならない。ただし、法令上の開示義務がある場合はこの限りでない。

第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の締結交渉の過程で知り得た相手方の営業上の秘密情報を第三者に開示してはならない。

第11条(清算条項) 甲及び乙は、本件に関し、本契約に定めるもののほか、何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。

第12条(準拠法及び合意管轄) 本契約の準拠法は日本法とし、本契約に関する紛争は【】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。

【契約締結日】 甲(権利者):住所 名称 代表者 印 乙(被疑侵害者):住所 名称 代表者 印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 権利者(請求側)向けの修正

A-1. 在庫処分の立会権の追加

追加条文例:「甲は、乙による対象製品の廃棄作業に自ら又は代理人を立ち会わせることができ、乙はこれに協力する。立会いを行わない場合、乙は廃棄状況を撮影した写真又は動画を廃棄証明書に添付する。」 一言解説: 廃棄証明書の提出のみでは実際の廃棄が確認できないため、立会いや証拠資料の添付を求め、和解の実効性を高める修正である。

A-2. 損害賠償請求権の一部留保

追加条文例:「本契約第11条の清算条項にかかわらず、乙が本契約締結後に第8条に違反して対象製品を再製造・再販売した場合、甲は当該違反行為によって生じた損害について、違約金とは別に損害賠償を請求できる。」 一言解説: 清算条項により将来の違反行為に対する損害賠償請求まで放棄したと解釈されることを避け、再発防止の実効性を担保する修正である。

B. 被疑侵害者向けの修正

B-1. 侵害を認めない前提の明記(ノーフォールト条項)

追加条文例:「本契約は、乙が甲権利を侵害した事実を認めるものではなく、紛争の早期解決のみを目的として締結するものであり、本契約の締結又は履行は、他の事件における乙の侵害責任を基礎付ける証拠として使用されないものとする。」 一言解説: 侵害の有無に争いがある事案で和解する場合、和解の締結自体が他の紛争や訴訟において侵害を自認したものと扱われることを防ぐための修正である。

B-2. 解決金の分割払いにおける期限の利益喪失の緩和

追加条文例:「乙が支払を遅滞した場合であっても、遅滞が乙の資金繰り上の一時的な事情によるものであり、遅滞後【3】日以内に遅延損害金とともに支払を完了したときは、期限の利益を喪失しない。」 一言解説: 1回の支払遅延で直ちに残額全額の一括請求を受けるリスクを避け、被疑侵害者側に是正の機会を確保する修正である。

C. 解決金・在庫処分条項付の修正

C-1. 在庫品の限定的な販売継続を認める代替条項

追加条文例:「乙は、本契約締結日時点の在庫品のうち、甲権利を侵害する表示部分を除去又は改修したものに限り、甲の事前確認を条件として販売を継続できる。」 一言解説: 在庫の即時全廃棄が乙にとって過大な負担となる場合に、侵害部分の除去・改修を条件として在庫の有効活用を認める代替的な解決策を示す修正である。

C-2. 分割払いの担保設定

追加条文例:「乙は、第5条の解決金の支払を担保するため、乙の【資産名】について甲のために担保権を設定する。」 一言解説: 高額な解決金を長期の分割払いとする場合、乙の支払能力に懸念があるときは物的担保を設定し、甲の回収リスクを低減する修正である。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、特許権、商標権、著作権等の知的財産権侵害を理由とする警告書の送付後、当事者間の交渉により訴訟に至らず解決する場面で用いる。侵害の有無や損害額について当事者間の見解の隔たりが大きく、任意の交渉では合意形成が困難な場合や、相手方に和解内容を履行する意思・資力が乏しいと見込まれる場合には、私的な和解書のみに頼らず、訴訟上の和解、即決和解(民事訴訟法第275条)、又は仮処分手続の活用もあわせて検討すべきである。

根拠法令 民法第695条は、和解を「当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」契約と定義する。同法第696条は、当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がその権利を有していた旨の確証が得られたときであっても、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする和解の確定効を定めている。この確定効により、和解成立後に新たな証拠が見つかったとしても、原則として和解の内容を覆すことはできない。また、対象となる知的財産権の種類に応じ、著作権法第112条(差止請求権)、商標法第36条、特許法第100条等が、権利者が侵害の停止・予防を請求できる根拠となる。

実務でよくある失敗と対策 第一に、解決金の分割払いを定めたが、支払遅滞時の措置(期限の利益喪失、遅延損害金)を定めなかったため、未払いが生じた際に残額を一括請求できず、その都度督促を要する事態になった失敗がある。第6条・第7条のように期限の利益喪失条項と遅延損害金条項をあわせて定めるべきである。第二に、在庫品の処分方法を「廃棄する」とのみ抽象的に定め、廃棄の証拠を求めなかったため、和解後も密かに在庫が流通しているのではないかとの疑念が払拭できない失敗がある。第3条のように廃棄証明書の提出を義務付け、必要に応じて立会いや写真等の証拠資料を求めることが有効である。第三に、清算条項を入れずに和解したため、後日、和解書に明記されていない付随的な請求(遅延損害金の別途請求等)をめぐって再び紛争になる失敗がある。第11条のように清算条項を明記し、和解の対象となる債権債務の範囲を明確にすることが重要である。損害額の算定根拠や解決金の相当性については個別の事案ごとに専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 対象となる知的財産権(登録番号等)及び対象製品を具体的に特定したか
  • [ ] 侵害の有無について当事者間で認否を明確にしたか(認める/争うが和解する)
  • [ ] 解決金の金額、支払方法(一括/分割)及び支払期日を明記したか
  • [ ] 分割払いの場合、期限の利益喪失条項及び遅延損害金条項を定めたか
  • [ ] 在庫品の処分方法(廃棄・改修等)及び証明手段を定めたか
  • [ ] 取引先への通知義務の要否を検討したか
  • [ ] 再発防止義務及び違反時の違約金を定めたか
  • [ ] 和解内容の公表制限を定めたか
  • [ ] 清算条項により対象範囲外の債権債務がないことを確認したか
  • [ ] 乙の支払能力に懸念がある場合、担保設定の要否を検討したか
  • [ ] 訴訟上の和解や仮処分等、他の手続との比較検討を行ったか