納品物の改変や氏名表示をめぐる紛争を防ぐ合意書。著作権法第18条から第20条の公表権・氏名表示権・同一性保持権の不行使を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
著作者人格権不行使に関する合意書
第1部: 書式本文
【甲:発注者(委託者)の氏名又は名称】(以下「甲」という。)と【乙:クリエイター(受託者・著作者)の氏名又は名称】(以下「乙」という。)は、乙が甲に対して納品する成果物に係る著作者人格権の取扱いに関し、次のとおり合意する(以下「本合意」という。)。
第1条(目的) 本合意は、甲乙間の【業務委託契約(締結日:【 】)】(以下「原契約」という。)に基づき乙が制作し甲に納品する成果物(以下「本件成果物」という。)につき、著作者人格権の行使及び不行使の範囲を明確にすることを目的とする。
第2条(定義) 本合意において「本件成果物」とは、次のものをいう。 名称:【成果物の名称】/種別:【デザイン・原稿・映像・写真等】/特定方法:【納品データファイル名、納品日等】
第3条(著作者人格権の帰属) 著作権法第59条の規定により、本件成果物に係る著作者人格権は乙に一身専属し、原契約に基づく著作権(財産権)の譲渡又は利用許諾の有無にかかわらず、乙から甲に移転しない。
第4条(公表権の不行使) 乙は、甲が本件成果物を公表するにあたり、著作権法第18条に規定する公表権を行使しない。ただし、公表の時期及び方法が、乙の名誉又は社会的信用を著しく損なうと客観的に認められる場合は、この限りでない。
第5条(氏名表示権の取扱い) 1. 甲が本件成果物を利用するにあたり、乙の氏名(又は乙の指定するペンネーム等)を表示する場合の表示方法は、【本文末尾・クレジット欄等】に「【表示例】」と記載する方法による。 2. 甲が媒体の性質上、氏名表示を行わないことが相当と認められる利用を行う場合、乙は著作権法第19条に規定する氏名表示権を行使しない。
第6条(同一性保持権の不行使) 1. 乙は、甲又は甲の指定する第三者が本件成果物につき次の各号に定める範囲内で行う改変について、著作権法第20条に規定する同一性保持権を行使しない。 一 誤字脱字の修正、レイアウトの調整その他の軽微な修正 二 掲載媒体の仕様に合わせるための色調・サイズ・ファイル形式の変更 三 【その他、甲乙間で合意した具体的な改変態様】 2. 前項の規定にかかわらず、本件成果物の本質的な特徴を損なう改変であって、乙の創作意図を著しく害するものについては、甲は事前に乙の承諾を得るものとする。
第7条(不行使の例外) 前3条の不行使特約にかかわらず、甲又は甲の指定する第三者による本件成果物の利用が、乙の名誉声望を著しく害する態様で行われた場合、乙は当該利用の中止を求めることができる。
第8条(著作権(財産権)との関係) 本合意は著作者人格権の行使及び不行使に関する取決めであり、本件成果物に係る著作権(財産権)の帰属及び利用条件については、原契約の定めるところによる。
第9条(第三者への利用許諾時の適用) 甲が本件成果物の利用を第三者に許諾する場合、甲は当該第三者に対しても本合意第4条から第6条までと同様の取扱いを遵守させるよう努めるものとする。
第10条(有効期間) 本合意は、原契約の効力が存続する限り効力を有し、原契約終了後も本件成果物が利用され続ける限りにおいてなお効力を有する。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本合意の締結及び履行を通じて知り得た相手方の秘密を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第12条(準拠法及び管轄) 1. 本合意は日本法に準拠し、これに従って解釈される。 2. 本合意に関する紛争については、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本合意締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【合意締結日】 甲:【住所・氏名又は名称】㊞ 乙:【住所・氏名又は名称】㊞
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 発注者向け
A-1 第6条の修正例(改変の許容範囲を業種特性に合わせて拡張)
「乙は、甲が本件成果物を広告用に加工・トリミング・配色変更する行為、及び複数の広告媒体向けにサイズ違いの派生物を作成する行為について、同一性保持権を行使しない。」 一言解説:発注者の立場では、広告展開のように媒体ごとの加工が業務上不可欠な場合、第6条第1項の列挙を実際の利用態様に即して具体化しないと、想定していた加工のたびに乙の承諾を要する事態になりかねない。
A-2 第4条の修正例(公表時期の裁量を確保)
「乙は、甲が本件成果物の公表時期を自らの事業計画に応じて決定することにつき異議を述べない。ただし、甲は乙に対し、公表の【 】日前までにその予定を通知する。」 一言解説:公表権不行使の原則を定めるだけでなく、公表時期の決定権が甲にあることを明記し、事後の「無断公表」トラブルを避ける。
B節: クリエイター向け
B-1 第5条の修正例(氏名表示の確保を優先する条項)
「甲は、本件成果物を利用するあらゆる媒体において、乙の氏名又は乙の指定するペンネームを表示するものとし、氏名表示を省略できるのは、媒体の性質上表示が技術的に不可能な場合に限る。」 一言解説:クリエイターの立場では、実績・信用の維持のため氏名表示の原則化を強く求め、省略が認められる場合を技術的制約等に限定しておくことが望ましい。
B-2 第7条の修正例(改変内容の事前確認権)
「甲は、第6条第1項各号に該当する改変を行う場合であっても、当該改変後の本件成果物を乙に事前に提示し、乙が意見を述べる機会を与える。」 一言解説:軽微な改変であっても事前提示を受ける権利を確保しておくことで、乙は自らの作風やブランドイメージに反する改変を早期に把握できる。
C節: 業務委託契約の付属書面として組み込む場合
C-1 原契約への引用条項の修正例
「甲及び乙は、本件成果物に係る著作者人格権の取扱いについて、原契約とは別途、著作者人格権不行使に関する合意書(以下「本合意」という。)を締結するものとし、本合意は原契約の一部を構成する。」 一言解説:業務委託契約書本体に人格権条項を簡潔に置いたうえで、詳細は付属の本合意書に委ねる構成にすると、案件ごとに改変範囲や氏名表示方法が異なる場合でも本体契約の雛形を汎用的に保てる。
C-2 原契約との優先関係を定める修正例
「本合意と原契約の内容に矛盾又は抵触が生じた場合、著作者人格権に関する事項については本合意を優先して適用する。」 一言解説:付属書面という位置づけ上、原契約の包括的な権利条項と本合意の個別条項が矛盾する場合の優先関係を明記しておかないと、解釈上の争いが生じやすい。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本書式は、業務委託により制作されたデザイン・原稿・映像等の成果物について、発注者が納品後に改変・編集・トリミング等を行う必要がある場面や、氏名表示の要否・方法をめぐる紛争を未然に防ぎたい場面で用いるものである。著作権(財産権)の帰属や利用条件そのものを定める場面では、本書式単独ではなく著作権譲渡契約書又は著作物利用許諾契約書と組み合わせて使用する必要があり、本書式はあくまで人格権の不行使に特化した書面である点に留意する。
根拠法令は、著作権法第18条(公表権)、第19条(氏名表示権)、第20条(同一性保持権)、及び第59条(著作者人格権の一身専属性)である。第59条により著作者人格権は著作者本人に専属し譲渡できないため、財産権を譲渡又は許諾する契約を締結しても人格権は当然には発注者側に移らない。改変や無表示での利用を行う自由を確保するには、本書式のような不行使特約を別途取り交わす必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に、不行使の範囲を「一切の著作者人格権を行使しない」という包括的な文言のみで定め、改変の限度を全く示さないケースがある。範囲が無限定に近い特約は、公序良俗(民法第90条)に反し無効と評価されるおそれがあるとの指摘もあり、第6条第1項のように許容される改変態様を具体的に列挙する方が望ましい。第二に、著しく名誉声望を害する改変については、不行使特約があっても著作者人格権とは別に名誉感情の侵害を理由とする不法行為責任(民法第709条)が残り得ることを説明しないまま合意を締結し、発注者が「特約があるから何をしても問題ない」と誤解するケースがある。第7条のような例外規定を置くことが対策となる。第三に、氏名表示の要否・方法を口頭の合意にとどめ書面化しなかったため、媒体ごとにクレジット表記の有無が食い違い紛争化するケースがある。
改変の許容範囲や名誉声望の判断は事案の性質によって大きく異なるため、個別事案については専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象となる本件成果物を名称・データファイル名等で具体的に特定したか
- [ ] 公表権(第18条)の不行使及びその例外(名誉声望を著しく害する場合)を定めたか
- [ ] 氏名表示権(第19条)について、表示の要否・方法・省略が許される場合を具体的に定めたか
- [ ] 同一性保持権(第20条)について、許容される改変態様を包括的でなく具体的に列挙したか
- [ ] 不行使の範囲が無限定になっておらず、著しい改変への歯止め(例外規定)を置いたか
- [ ] 本合意と原契約(業務委託契約等)との優先関係を明記したか
- [ ] 著作権(財産権)の帰属・利用条件は本合意ではなく原契約側で別途定められているか確認したか
- [ ] 第三者への利用許諾時に本合意の趣旨を遵守させる仕組みを設けたか
- [ ] 本合意の有効期間(原契約終了後の取扱いを含む)を定めたか
- [ ] 秘密保持及び準拠法・管轄裁判所を定めたか