紛争を仲裁で解決することを定める合意書です。仲裁機関、仲裁地、仲裁人の数、使用言語、費用負担を明確にします。ひな型をもとに数分で自社仕様に調整できます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
仲裁合意書(国内取引)
第1部: 書式本文
仲裁合意書
【当事者A】(以下「甲」という。)と【当事者B】(以下「乙」という。)は、甲乙間の【原契約名称】(以下「原契約」という。)に関して生じる紛争の解決方法について、以下のとおり合意する。
第1条(仲裁による解決) 甲及び乙は、原契約に関して生じる一切の紛争(原契約の成立、効力、履行及び終了に関するものを含む。)を、訴訟によらず、本合意書に定めるところにより仲裁により解決するものとする。
第2条(仲裁機関) 本合意書に基づく仲裁は、【仲裁機関名、例:一般社団法人日本商事仲裁協会】の仲裁規則に従って行う。
第3条(仲裁地) 仲裁地は【 】とする。
第4条(仲裁人の数) 仲裁人の数は【 】名とする。仲裁人の選任手続は、前条の仲裁機関の仲裁規則に従う。
第5条(使用言語) 仲裁手続で使用する言語は日本語とする。
第6条(準拠法) 仲裁における実体的な判断の準拠法は日本法とする。
第7条(仲裁判断の終局性) 仲裁判断は終局的なものであり、甲及び乙はこれに拘束される。甲及び乙は、仲裁判断の取消しの訴え等、仲裁法上認められる場合を除き、仲裁判断の内容について不服を申し立てない。
第8条(費用負担) 仲裁手続に要する費用(仲裁機関に支払う手数料、仲裁人の報酬等)の負担については、仲裁判断において定めるところによる。各当事者の代理人費用は、原則として各自の負担とする。
第9条(秘密保持) 甲及び乙は、仲裁手続の内容及び仲裁判断の内容を、法令上の開示義務がある場合又は相手方の書面による同意がある場合を除き、第三者に開示してはならない。
第10条(保全処分との関係) 本合意書は、甲及び乙が裁判所に対し保全処分(仮差押え、仮処分等)を申し立てることを妨げない。
第11条(仲裁合意の独立性) 本合意書は原契約とは独立した合意として、原契約の存否、効力又は終了にかかわらず効力を有する。
第12条(仲裁合意の可分性) 原契約の一部の条項が無効又は取り消された場合であっても、本合意書の効力には影響しない。
第13条(協議) 本合意書に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
以上の合意を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する。
【年】年【月】月【日】日
甲 住所: 氏名又は名称: 印 乙 住所: 氏名又は名称: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:迅速な解決を重視する当事者側の視点
迅速性を重視する当事者は、仲裁人数を1名とし、簡易な手続を選択します。
第4条(修正例) 仲裁人の数は1名とし、簡易仲裁手続(仲裁機関が定める簡易な規則)によることができる場合はこれによる。
一言解説:仲裁人が1名であれば手続の迅速化とコスト抑制が期待できますが、専門性の高い紛争では3名の方が適切な場合もあり、紛争の性質に応じた選択が必要です。
B節:専門性の高い紛争を想定する当事者側の視点
技術的に専門性の高い分野の紛争を想定する場合、仲裁人の専門性を確保する条項を加えます。
第4条(修正例) 仲裁人の数は3名とし、少なくとも1名は【専門分野、例:建築工事】に関する専門知識を有する者とする。
一言解説:専門性の高い紛争では、当該分野に精通した仲裁人を選任できるよう条件を付す修正が有効です。
C節:国内複数拠点の当事者間の場合
当事者双方が国内に複数の拠点を持つ場合、仲裁地の選定理由を明確にします。
第3条(修正例) 仲裁地は、甲乙いずれの本店所在地でもない中立的な地である【 】とする。
一言解説:仲裁地は手続法の適用に影響するため、双方にとって中立的な地を選ぶことで公平感を確保します。
D節:仲裁と調停を組み合わせる場合(調停前置)
訴訟に至る前に調停による解決を試みることを義務付ける修正です。
第1条(修正例) 甲及び乙は、原契約に関して紛争が生じた場合、まず【仲裁機関名】の調停規則に基づく調停による解決を試み、調停開始から【 】日以内に解決に至らないときは、本合意書に基づく仲裁により解決する。
一言解説:調停を前置することで、必ずしも仲裁手続まで進まずに柔軟な解決を図る余地を残せます。
E節:仲裁費用の負担を明確化する場合
費用負担のルールをより具体的に定めます。
第8条(修正例) 仲裁手続に要する費用は、原則として敗れた当事者が負担するものとし、一部敗訴の場合は仲裁廷が定める割合による。ただし、仲裁廷が別段の判断をした場合はこれに従う。
一言解説:費用負担の原則(敗訴者負担か各自負担か)をあらかじめ明記することで、手続選択時の予測可能性を高めます。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面
紛争解決手段として訴訟ではなく仲裁を選択したい場合に使用します。仲裁は非公開で手続が進行すること、専門性の高い仲裁人を選任できること、仲裁判断が原則として一審限りで終局的であることなどの特徴があり、企業間の秘密性の高い紛争や専門技術的な紛争の解決に適しているとされます。
使ってはいけない場面
消費者契約や個別労働関係紛争については、仲裁合意に関する特則(仲裁法附則第3条、第4条)により、消費者や労働者が仲裁合意を解除できる場合があるなど、通常の事業者間取引とは異なる規律が適用されます。これらの取引に事業者間取引と同様の仲裁条項をそのまま用いることは適切ではありません。また、仲裁判断は原則として不服申立てができないため、判断内容に強い不満があっても是正手段が限られる点を十分理解しないまま導入することも避けるべきです。
根拠法令
仲裁手続については仲裁法(平成15年法律第138号)が規律します。仲裁合意の書面性については同法第13条が定めており、電磁的記録による場合も書面性の要件を満たすとされています(同条第4項)。仲裁判断の効力については同法第45条が確定判決と同一の効力を有する旨を定め、取消しの訴えについては同法第44条が要件を限定的に定めています。消費者契約及び個別労働関係紛争に関する仲裁合意の特則は仲裁法附則第3条及び第4条に規定されています。
よくある失敗と条項上の対策
- 仲裁機関を明記せず「仲裁により解決する」とだけ定め、いずれの機関のどの規則によるか不明確なまま紛争が生じ、手続の開始自体が滞る失敗があります。対策として第2条で仲裁機関を具体的に特定します。
- 訴訟提起も仲裁申立ても行わないまま時間が経過し、消滅時効の完成猶予の機会を逃す失敗があります。仲裁申立ても時効の完成猶予事由となり得るため(民法第147条第1項第2号に準ずる規律)、仲裁合意があっても放置しないよう注意が必要です。
- 仲裁合意と保全処分の関係を整理せず、緊急を要する事態でも仲裁手続の完了を待たなければならないと誤解する失敗があります。対策として第10条のように保全処分の申立てが妨げられないことを明記します。
仲裁による紛争解決が訴訟に比して有利かどうかは紛争の性質や当事者の状況によって異なるため、個別事案は専門家に確認のうえ、仲裁条項導入の可否を判断してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- 対象となる紛争の範囲を明確にしたか
- 仲裁機関及び適用される仲裁規則を特定したか
- 仲裁地を明記したか
- 仲裁人の数及び選任手続を確認したか
- 使用言語及び準拠法を明記したか
- 仲裁判断の終局性について理解し合意したか
- 費用負担の原則を明記したか
- 秘密保持義務を明記したか
- 保全処分の申立てが妨げられないことを明記したか
- 消費者契約・労働契約に該当しないか確認したか
- 仲裁合意の独立性・可分性を明記したか
- 記名押印者の代表権限を確認したか