従業員を海外拠点へ長期赴任させる際に賃金・海外手当・社会保険の扱いを確認する書式。労働基準法15条の労働条件明示、社会保障協定と現地労働法の適用関係を整理します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
駐在員の海外赴任に関する労働条件確認書
第1部: 書式本文
【会社名】(以下「会社」という)は、【従業員氏名】(以下「本人」という)を【赴任先国・都市】の【現地拠点名称】へ長期赴任させるにあたり、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示を含め、以下のとおり労働条件確認書(以下「本確認書」という)を取り交わす。
第1条(記載項目一覧) 本確認書は、赴任にあたり以下の事項を確認するものとする。
- 赴任先および赴任期間 赴任先:【赴任先国・都市・拠点名】 赴任期間:【西暦年月日】から【西暦年月日】まで(会社の業務命令により延長・短縮する場合がある)
- 雇用関係の帰属 本人は赴任期間中も会社との雇用契約を維持し、会社の労働契約に基づく指揮命令に服する。現地法人への出向・転籍の別を明記する(本書式は出向を前提とする)。
- 賃金体系 基本給:従前の日本国内基本給を維持し、月額【 】円を会社が支払う。 海外赴任手当:【 】円(現地物価・治安水準等を考慮して算定) 住宅手当・子女教育手当等:【 】円(実費相当額または会社所定基準による)
- 賃金の支払方法・通貨 基本給は日本円建てで日本国内口座へ支払い、現地生活費相当分は現地通貨換算のうえ現地口座へ支払う。為替変動による調整方法(改定時期・基準レート)についても定める。
- 労働時間・休日 現地の所定労働時間・休日は現地拠点の定めによるが、時間外労働の取扱いについては会社の就業規則に準じて算定する。
- 社会保険の取扱い 健康保険・厚生年金保険については、日本国と赴任先国との間の社会保障協定の適用の有無を確認のうえ、二重加入の回避または特例的な取扱いを定める。適用がない場合の現地社会保険加入義務についても確認する。
- 税務上の取扱い 所得税の課税関係(居住者・非居住者の別)、日本と赴任先国との間の租税条約に基づく二重課税調整の要否について会社が説明し、必要に応じて税理士等の専門家への相談機会を提供する。
- 現地労働法の適用関係 現地の強行法規(最低賃金、解雇規制、休暇制度等)が本人に適用される範囲について確認する。
- 帰任時の取扱い 赴任期間終了時の帰任時期、原職相当職への復帰の原則、帰任旅費・引越費用の負担について定める。
- 緊急事態対応 赴任先の治安悪化、感染症の流行、自然災害等緊急時における一時帰国・退避の判断基準と費用負担について定める。
- 家族帯同 家族帯同の可否、帯同家族に関する手当(住居・教育)の有無について定める。
第2条(労働基準法第15条に基づく明示) 会社は、本人に対し、労働基準法第15条第1項および同法施行規則に基づき、労働契約の期間、就業の場所および従事すべき業務、始業・終業時刻、賃金の決定・計算・支払方法、退職に関する事項その他法定の事項を、赴任に伴う変更点を含めて書面(電磁的方法による場合を含む)により明示する。
第3条(労働契約法上の留意事項) 会社は、労働契約法第3条第3項の趣旨に鑑み、赴任に伴う労働条件の変更が本人の生活に与える影響に配慮し、本人との合意形成に努める。労働条件の不利益変更に該当する事項がある場合、労働契約法第9条・第10条の規律に留意し、本人の個別同意を得るよう努める。
第4条(会社への報告義務) 本人は、現地における就労状況、健康状態その他会社が求める事項について、定期的に会社へ報告するものとする。
第5条(確認) 会社および本人は、本確認書の内容を確認し、記名または電子的方法により承認したことをもって、本確認書に定める労働条件が労働契約の内容となることを確認する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 会社(使用者)向け
会社側の視点では、賃金改定や手当水準の見直しに柔軟性を持たせるため、第1条3項の海外赴任手当について「現地物価水準の変動に応じ、会社は年【1】回を目途に手当額を見直すことができる」旨の改定条項を追加する修正が有効である。また第1条10項の緊急事態対応についても、退避命令に本人が従わなかった場合の取扱い(懲戒事由該当性の有無等)を明確化しておくと、緊急時の指揮命令系統が明確になる。
B. 赴任する従業員向け
本人側の視点では、社会保険の空白期間が生じることを防ぐため、第1条6項について「社会保障協定が適用されない期間中に生じた現地社会保険料の本人負担分について、会社が一部補填する」旨の補足を求めることが考えられる。また第1条9項の帰任時の取扱いについても、「原職相当職への復帰が困難な場合、会社は本人と協議のうえ代替措置(処遇水準の維持等)を講じる」との文言を加えることで、帰任後のキャリア形成に関する予見可能性を高められる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、会社が従業員を海外拠点へ長期(概ね1年以上)出向させ、駐在員として就労させる場面での労働条件の確認を想定する。数週間程度の短期出張や、現地法人への完全な転籍(日本の会社との雇用関係が終了する場合)には適合しないため、転籍の場合は退職合意書・現地雇用契約書を別途整備する必要がある。
根拠法令としては、労働基準法第15条が中核をなす。同条は、使用者が労働契約締結に際し労働条件を明示する義務を定めており、赴任に伴い就業場所や賃金体系が変更される場合には、変更後の労働条件を改めて明示することが求められる。また、労働契約法第3条第3項および第8条から第10条までは、労働条件の変更が労働者の合意に基づくべきこと、就業規則による不利益変更の制限を定めており、海外赴任に伴う手当の新設・減額等を検討する際の枠組みとなる。社会保険については、日本が締結する社会保障協定(たとえば米国、英国、ドイツ、フランス等複数国との間で締結)により、一定期間内の赴任であれば赴任先国での社会保険料の二重負担を回避できる制度が存在するため、赴任先国が協定締結国か否かの確認が必須である。現地労働法についても、最低賃金や解雇規制等の強行法規は、雇用契約の準拠法にかかわらず現地で就労実態がある限り及ぶ可能性がある点に留意する。
実務でよくある失敗として、第一に、社会保障協定の適用有無を確認しないまま赴任させ、日本の厚生年金保険料と現地社会保険料の双方を負担させてしまう例が挙げられる。第1条6項のように、協定の適用有無をあらかじめ確認し、適用書類(適用証明書等)の取得手続を明記することで防止できる。第二に、海外赴任手当を口頭または慣行のみで運用し、労働基準法第15条が求める書面明示を欠いたまま赴任させてしまう例がある。第2条のように、赴任に伴う変更点を含めた書面明示を明確に行う運用が必要である。第三に、緊急事態時の退避基準や費用負担を定めないまま赴任させ、治安悪化時等の対応が後手に回る例があるが、第1条10項のようにあらかじめ判断基準を定めておくことが望ましい。赴任先国の労働法制・社会保障制度は国ごとに大きく異なるため、個別事案については現地法・社会保険の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト・確認事項
- [ ] 赴任期間・赴任先拠点を特定したか
- [ ] 出向か転籍かの雇用関係の帰属を明確にしたか
- [ ] 基本給・海外赴任手当・各種手当の算定基準を明記したか
- [ ] 賃金の支払通貨・為替変動時の調整方法を定めたか
- [ ] 労働基準法第15条に基づく書面明示事項を網羅したか
- [ ] 労働契約法上の不利益変更に該当する事項がないか確認したか
- [ ] 赴任先国が社会保障協定の締結国か確認したか
- [ ] 現地社会保険加入の要否と保険料負担者を明記したか
- [ ] 租税条約に基づく二重課税調整の要否について説明機会を設けたか
- [ ] 帰任時の原職相当職復帰の原則と例外時の対応を定めたか
- [ ] 緊急事態時の退避基準・費用負担を定めたか
- [ ] 家族帯同の可否と関連手当を明記したか