国際売買契約においてウィーン売買条約(CISG)の適用を全部または一部排除する特約。同条約6条に基づく合意と、通則法7条による日本法の準拠法指定をあわせて定めます。

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CISG適用排除に関する特約

第1部: 書式本文

売主〇〇(以下「甲」という。)と買主〇〇(以下「乙」という。)は、〇年〇月〇日付売買契約(以下「原契約」という。)に関し、国際物品売買契約に関する国際連合条約(以下「CISG」という。)の適用関係につき、次のとおり特約(以下「本特約」という。)を締結する。

第1条(目的) 本特約は、原契約に基づく甲乙間の商品売買取引について、CISG第6条の規定に基づき、CISGの適用の全部又は一部を排除し、又はその効果を変更することを目的とする。

第2条(CISGの適用排除) 甲及び乙は、原契約及びこれに基づく個別契約について、CISGの規定の全部の適用を排除し、これに代えて日本法(民法及び商法を含む。)を適用することに合意する。

第3条(一部排除とする場合の定め) 前条にかかわらず、甲乙が特定の条項についてのみCISGの適用を排除しようとするときは、排除する条項番号及びその理由を別紙に特定して合意する。

第4条(準拠法の指定) 1. 原契約及び個別契約は、法の適用に関する通則法第7条に基づき、日本法を準拠法とする。 2. 前項の準拠法の選択には、日本の国際私法規定を含まないものとし、実体法としての民法及び商法の規定を適用する趣旨であることを確認する。

第5条(排除の効力発生時期) 本特約は、原契約の締結日に遡って効力を生じるものとし、原契約締結後に本特約を締結する場合であっても、原契約の全期間にわたって適用されるものとする。

第6条(既存の個別契約への適用) 本特約締結前に成立した個別契約についても、当事者が別段の合意をしない限り、本特約の定めるところによる。

第7条(原契約との関係) 本特約は原契約と一体をなすものとし、原契約の内容のうちCISGの適用排除に関する事項について本特約と抵触する部分は、本特約が優先する。

第8条(紛争解決) 本特約及び原契約に関する紛争については、〔東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする/〇〇商事仲裁協会の仲裁規則に従った仲裁により終局的に解決する〕。

第9条(使用言語との関係) 原契約が日本語及び外国語の双方で作成されている場合において、CISGの適用排除に関する条項の解釈に相違が生じたときは、本特約の日本語版を優先するものとする。

第10条(表明保証) 甲及び乙は、本特約の締結にあたり、自らCISGの適用排除の法的効果について検討し、又は専門家の助言を得たうえで本特約に署名するものであることを相互に確認する。

第11条(分離可能性) 本特約のいずれかの条項が管轄裁判所又は仲裁廷により無効又は執行不能と判断された場合であっても、その他の条項の効力には影響を及ぼさない。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 売主向け 第2条を次のとおり修正し、売主に有利な国内法の適用を明確化する。 「甲及び乙は、CISGの適用を全部排除し、原契約には甲の本店所在地が属する国の法を適用することに合意する。」 一言解説: 売主にとって使い慣れた自国法を準拠法とすることで、契約不適合責任の期間や範囲についての予測可能性を高める。

B. 買主向け 第3条を次のとおり修正し、買主に有利な条項のみCISGの適用を維持する一部排除方式とする。 「甲及び乙は、CISG第39条(契約不適合の通知期間)の適用のみを排除し、その他の条項については原則としてCISGを適用する。」 一言解説: 買主の検査体制が未整備な場合、CISG第39条の厳格な通知期間のみを個別に排除し、その他はCISGの柔軟な規定を活用する。

C. 一部排除の対象を危険負担に限定したい場合 第3条に基づく別紙において、次のように排除対象を特定する記載例を用いる。 「排除条項:CISG第67条から第69条まで(危険の移転)。理由:インコタームズ2020の適用建値による危険移転の基準を優先させるため。」 一言解説: 危険移転の基準はインコタームズと重複しやすく、CISGの規定とインコタームズの規定が矛盾すると解釈上の混乱を招くため、この部分のみを排除してインコタームズの基準に一元化する実務がある。

第3部: 書き方と法的ポイントの解説

使う場面は、売主・買主のいずれかが、CISGの規定内容(契約不適合の通知期間、危険の移転時期、解除要件等)が自国の民法と異なることによる予見可能性の低下を避けたい場合である。反対に、当事者の一方がCISGの非締約国に営業所を有し、そもそもCISGが適用されない取引に本特約を用いても意味がない。適用の有無はCISG第1条に基づき事前に確認する必要がある。

根拠法令等としては、CISG第6条(当事者による適用排除の許容)、CISG第1条(適用範囲)、法の適用に関する通則法第7条(当事者による準拠法選択)及び第9条(準拠法の変更)、民法(契約不適合責任・危険負担等の国内法規定)が中心となる。

実務でよくある失敗として、次の3点が挙げられる。第一に、「日本法を準拠法とする」とのみ定め、CISGの適用排除を明示しないことである。日本もCISG締約国であるため、通則法で日本法が指定されてもCISGは当然に排除されない。第2条のように明示的な排除の合意を要する。第二に、一部排除の対象条項を特定しないことである。どの条項が排除されたか不明確となり、紛争時に解釈が分かれるため、第3条のように排除条項を個別に列挙すべきである。第三に、既存の個別契約への遡及適用を定めないことである。基本契約締結後に本特約を追加した場合、既存の個別契約にはCISGが適用されたままとなるおそれがあるため、第6条のように遡及適用を明記しておくべきである。

さらに、CISGを排除して民法を適用する場合には、危険負担(民法第567条)や契約不適合責任の期間制限(民法第566条)がCISG第67条以下や第39条と異なる規律を持つことを理解したうえで排除の当否を判断する必要がある。単に「CISGは複雑だから排除する」という理由だけで漫然と全部排除を選択すると、かえって当事者にとって不利な国内法の規律が適用される結果になることもあるため、排除によって生じる法的効果の変化を具体的に比較検討することが重要である。

CISGの適用排除の有効性及びその範囲の解釈は各国の裁判実務によって異なる場合があるため、締結前に個別事案について専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 原契約及び対象となる個別契約を特定しているか
  • [ ] CISGの適用排除が全部か一部かを明確にしているか
  • [ ] 一部排除の場合、排除する条項番号を具体的に特定しているか
  • [ ] 排除後に適用される準拠法(具体的な国名)を明記しているか
  • [ ] 通則法第7条による準拠法選択と実体法適用の関係を整理しているか
  • [ ] 本特約の効力発生時期(遡及適用の有無)を定めているか
  • [ ] 既存の個別契約への適用関係を定めているか
  • [ ] 紛争解決条項(裁判管轄又は仲裁)を定めているか
  • [ ] 相手方がCISG締約国に営業所を有するか事前に確認しているか
  • [ ] 排除によって適用される国内法上の規律(危険負担・通知期間等)を比較検討しているか
  • [ ] 原契約が複数言語で作成されている場合の優先言語を定めているか
  • [ ] 表明保証条項により当事者双方の理解を確認しているか