不正アクセスやランサムウェア被害を保険会社へ報告する書式です。検知日時、影響範囲、初動対応、想定される費用を記載します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
サイバー保険事故報告書
第1部: 書式本文
サイバー保険事故報告書
【報告日】令和【 】年【 】月【 】日 【報告者(契約者)】【会社名】 【所在地】 【担当部署・氏名】 【連絡先電話】【 】 【メール】【 】 【宛先】【保険会社名】 【証券番号】【 】
下記のとおりサイバーインシデントが発生したため、保険契約に基づき報告いたします。
- インシデントの種類【不正アクセス/ランサムウェア感染/フィッシングによる不正送金/DDoS攻撃/内部不正による情報持出し/その他【 】】 記載要領:判明している範囲で該当類型を選択し、複数該当する場合は主たるものから列挙する。
- 検知日時【令和【 】年【 】月【 】日【 】時【 】分】 記載要領:システムログ等で確認できる最初の異常検知時刻を記載する。記入例「EDRアラートにより令和7年3月4日3時12分に検知」
- 発生(推定)日時【令和【 】年【 】月【 】日頃】 記載要領:検知日時と実際の侵入・攻撃開始時期が異なる場合はその推定時期も併記する。
- 発見の経緯【監視システムのアラート/外部からの指摘(取引先・警察等)/従業員からの申告/その他【 】】 記載要領:誰が・どのように異常を発見したかを具体的に記載する。
- 影響を受けたシステム・範囲【対象サーバー名/端末台数【 】台/影響を受けた業務システム名】 記載要領:影響範囲を可能な限り具体的に特定し、調査継続中の場合はその旨を明記する。
- 個人情報・機密情報への影響の有無【個人情報の漏えいの可能性あり(対象人数概算【 】名)/機密情報の漏えいの可能性あり/影響なし(調査中)】 記載要領:個人情報保護法上の報告義務の要否判断に関わるため、暫定でも記載する。
- 初動対応の内容【対象システムのネットワーク遮断、影響端末の隔離、パスワード全体変更、フォレンジック調査会社への調査依頼】 記載要領:既に実施した措置を時系列で簡潔に記載する。
- 業務への影響【システム停止時間【 】時間、代替業務の実施状況、顧客・取引先への影響】 記載要領:事業中断による損害額算定の基礎となるため、可能な限り定量的に記載する。
- 外部機関への通報・相談状況【警察(サイバー犯罪相談窓口)への相談の有無、個人情報保護委員会への報告予定の有無、IPA・JPCERT/CCへの届出状況】 記載要領:法令上の報告義務の履行状況を保険会社と共有するために記載する。
- 現在講じている調査体制【社内対策本部の設置状況、外部フォレンジック調査会社名【 】、調査開始日】 記載要領:外部専門家の関与状況は保険金支払審査の重要な判断材料となるため詳細に記載する。
- 想定される費用の内訳【フォレンジック調査費用、コールセンター設置費用、見舞金・お詫び対応費用、システム復旧費用、法律相談費用、身代金要求への対応費用(支払わない方針か検討中かを明記)】 記載要領:保険金請求の対象となりうる費用項目ごとに概算金額を記載する。
- 身代金要求の有無(ランサムウェアの場合)【要求あり(要求額【 】、要求手段【 】)/要求なし】 記載要領:支払方針は経営判断・法令遵守の観点から慎重に検討する必要があり、保険会社・専門家と協議のうえ決定する旨を付記する。
- 保険金請求(予定)額【現時点での概算【 】円、確定次第追って報告】 記載要領:最終確定額でなくてよい旨を明記し、暫定額として提出する。
- 添付資料【システムログ、フォレンジック調査中間報告書、外部通報の受理票の写し】 記載要領:保険会社の初期審査に必要な資料を列挙する。
- 社内報告体制・今後の連絡窓口【リスク管理部門 担当者名【 】、以後の追加報告予定日【 】】 記載要領:継続的な情報更新の連絡窓口と次回報告予定を明記する。
以上
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 契約企業(被害企業)の立場からの書き換え
A-1. ランサムウェアによる暗号化被害の場合 「令和【 】年【 】月【 】日未明、基幹業務サーバー内のファイルが暗号化され、身代金を要求する画面が表示されていることを担当部署が確認した。直ちに対象サーバーをネットワークから切り離し、被害範囲の特定のため外部フォレンジック調査会社に調査を依頼した。身代金の支払については警察への相談結果を踏まえ、支払わない方針で検討している。」 一言解説:暗号化被害の特徴である「即時遮断」と「身代金対応方針の明示」を盛り込み、支払をしない方向性であることを保険会社に伝える構成にしている。
A-2. フィッシングによる不正送金被害の場合 「経理担当者が取引先を装った偽の請求メールに基づき、令和【 】年【 】月【 】日に金【 】円を誤送金したことが判明した。判明後直ちに送金銀行へ組戻し依頼を行うとともに、警察に被害届を提出した。現在、組戻しの成否について銀行からの回答待ちである。」 一言解説:ビジネスメール詐欺(BEC)型の被害は暗号化被害と異なり、初動対応の中心が「銀行への組戻し依頼」と「警察届出」になる点を反映している。
A-3. 個人情報漏えいを伴う不正アクセスの場合 「顧客管理システムへの不正アクセスにより、氏名・メールアドレスを含む顧客情報約【 】名分が外部に流出した可能性があることが判明した。個人情報保護法第26条に基づく報告の要否について現在確認中であり、確認でき次第、個人情報保護委員会への報告及び本人への通知の要否を判断する。」 一言解説:個人情報保護法上の報告義務検討に着手していることを保険会社に示す文言とし、報告の要否は「確認中」である旨を正直に記載している。
B節: 保険会社の立場からの書き換え
B-1. 追加資料の提出を求める場合 「貴社ご報告の内容につき、被害範囲の確定および保険金支払対象費用の査定のため、フォレンジック調査会社作成の中間報告書及び影響を受けた端末一覧のご提出をお願いいたします。」 一言解説:保険会社側から契約企業へ追加資料を求める定型文言。査定に必要な根拠資料を具体的に指定している。
B-2. 身代金支払費用の担保可否を留保する場合 「身代金の支払いに関する費用については、法令遵守及び反社会的勢力への利益供与に該当しないことの確認が取れるまで、保険金支払の可否を留保させていただきます。」 一言解説:身代金支払は法的リスクを伴うため、保険会社側が支払可否を保留する典型的な留保文言として使う。
B-3. 通知遅延が疑われる場合の確認文言 「貴社の検知日時から本報告までに相当の期間が経過していることが確認されましたので、遅延の経緯についてご説明をお願いいたします。」 一言解説:保険約款上の遅滞なき通知義務との関係で、通知の遅延理由を確認する場面を想定した文言。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、契約企業がサイバーインシデントを検知した後、保険契約に基づき速やかに保険会社へ報告する場面で使用する。他方で、被害の全容が未確定な段階でも一次報告としての利用は可能であるが、確定的な事実として断定できない情報を断定表現で記載することは避け、調査中である旨を明記すべきである。また、身代金支払の可否など、法令適合性の判断を要する事項について本書式のみで最終方針を決定づける記載をしてはならない。
法的な観点では、個人情報の漏えいまたはそのおそれが生じた場合、個人情報保護法第26条に基づき個人情報保護委員会への報告及び本人への通知が義務付けられる場合があり、報告期限(速報は概ね知った後速やかに、確報は一定期間内)にも留意する必要がある。また、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反が疑われる場合は警察への通報が検討事項となる。保険金請求に関する権利義務は保険法の規律に服し、契約者には保険約款上、事故発生を知った後遅滞なく保険会社に通知する義務が課されるのが一般的である。
よくある失敗として、第一に、被害拡大防止を急ぐあまり保険会社への通知が遅れ、約款上の通知義務違反を理由に保険金が減額されるケースがある。対策として、初動対応と並行して仮報告のフォーマット(本書式の項目2・4・7)を用い、詳細確定前でも一次報告を行う運用を徹底する。第二に、身代金の支払いについて社内の一部判断のみで決定し、後に法的リスクが顕在化する例がある。対策として、第12項目のように支払方針を「検討中」として明記し、警察・保険会社・弁護士との協議を経てから最終決定する体制を条項化する。第三に、個人情報保護法上の報告義務の判断が遅れ、報告期限を徒過する例がある。対策として、第6項目・第9項目で個人情報への影響の有無と報告予定を早期に記載欄として設け、法務部門への即時エスカレーションを促す。
なお、報告義務の有無や保険金支払の対象範囲は個別の約款条項や事案の事実関係によって異なるため、個別事案は専門家(弁護士・フォレンジック調査会社・保険代理店等)に確認のうえで対応することが望ましい。本書式の使用が特定の法令適合性や保険金支払を保証するものではない。
第4部: 使用前チェックリスト
- 検知日時・発生推定日時を裏付けるログ等の一次資料を確保したか
- 影響範囲(システム・端末数・個人情報の有無)を暫定でも具体的に記載したか
- 初動対応(遮断・隔離・調査依頼)の実施状況を時系列で整理したか
- 個人情報保護法第26条に基づく報告要否の検討に着手したか
- 警察への相談・被害届提出の要否を検討し、状況を記載したか
- 身代金要求がある場合、支払方針を独断で確定させず社内外の関係者と協議しているか
- 保険会社への通知が約款上の期限内に行われているか確認したか
- フォレンジック調査会社等の外部専門家の関与状況を明記したか
- 想定費用の内訳を保険金請求対象項目に沿って整理したか
- 次回の追加報告予定日と社内連絡窓口を明確にしたか
- 添付資料(ログ・中間報告書等)に機密情報保護の観点から不要な情報が含まれていないか確認したか
- 発行前に法務・情報システム部門および可能であれば専門家の確認を経たか