金銭の代わりに不動産や在庫を引き渡して債務を消滅させる契約書。民法第482条の代物弁済に基づき、所有権の移転時期と対抗要件の具備を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
代物弁済契約書
第1部: 書式本文
【債権者商号】(以下「甲」という。)と【債務者商号】(以下「乙」という。)とは、乙の甲に対する金銭債務の弁済に代えて物の給付を行うことに関し、次のとおり代物弁済契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(対象債務の確認) 甲乙は、【〇〇年〇〇月〇〇日】付金銭消費貸借契約に基づく乙の甲に対する債務(元本、利息及び遅延損害金を含む。以下「本件債務」という。)の残高が金【 】円であることを相互に確認する。
第2条(代物弁済の合意) 1. 乙は、本件債務の弁済に代えて、乙の所有する下記物件(以下「本件目的物」という。)の所有権を甲に移転し、甲はこれを承諾する。本合意は民法第482条に定める代物弁済に該当する。 記 【物件の表示:所在・地番・種類・数量等】 2. 本件目的物の評価額は金【 】円とし、本件債務の額と同額(又は差額を第3条により精算)であることを甲乙確認する。
第3条(差額の精算) 本件目的物の評価額が本件債務の額を上回る場合、甲は当該差額を乙に対し【〇〇年〇〇月〇〇日】限り支払う。評価額が本件債務の額を下回る場合、乙は当該差額を甲に対し同期日限り支払う。
第4条(所有権移転時期及び引渡し) 1. 本件目的物の所有権は、本契約締結と同時に乙から甲に移転する。 2. 乙は、甲に対し、本契約締結日から【 】日以内に本件目的物を引き渡し、不動産については所有権移転登記手続に協力する。
第5条(弁済の効力) 本件目的物の給付が完了したときに、本件債務は消滅する。ただし、不動産については所有権移転登記が完了した時点をもって弁済の効力が生じるものとする。
第6条(契約不適合責任) 本件目的物に種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない事情があった場合の甲乙間の責任の分担については、民法第562条以下の契約不適合責任の規定に準じて別途協議する。
第7条(第三者の権利) 乙は、本件目的物について、甲に移転する所有権を阻害する担保権その他の第三者の権利が存在しないことを表明し保証する。当該権利が存在した場合、乙はこれを乙の費用と責任において消滅させる。
第8条(公租公課の負担) 本件目的物に係る固定資産税その他の公租公課は、引渡日(所有権移転登記完了日)の前日までの期間に対応する分を乙が、当日以降の期間に対応する分を甲が、それぞれ日割りで負担する。
第9条(清算条項) 甲及び乙は、本件債務及び本件目的物の授受に関し、本契約に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。
第10条(協議及び合意管轄) 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印 (乙) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 債権者向け書き換え
A-1. 不動産を目的物とし早期の登記完了を確保したい場面
第4条修正例:「乙は、本契約締結と同時に所有権移転登記に必要な一切の書類を甲に交付し、甲は自らの費用で登記申請手続を行う。」 解説: 弁済の効力発生時期を登記完了時とする以上、登記手続の遅延は甲にとって不利益となるため、必要書類の即時交付を義務付ける。
A-2. 評価額の適正性を担保したい場面
第2条2項追加例:「本件目的物の評価額は、甲乙合意の上で選任した不動産鑑定士による鑑定評価額を基準とする。」 解説: 評価額が不当に低く算定されると後日詐害行為として否認されるリスクがあるため、第三者評価を組み込み公正性を確保する。
B. 債務者向け書き換え
B-1. 目的物の評価額が債務額を上回る場合の清算を確実にしたい場面
第3条修正例:「甲は、差額の支払を本契約締結日から【7】日以内に行うものとし、遅延した場合は年【 】パーセントの遅延損害金を付す。」 解説: 差額精算が長期化すると乙の資金繰りに支障が生じるため、支払期限と遅延時の損害金を明記し履行を促す。
B-2. 目的物を事業用資産とし引渡し後も一定期間使用を継続したい場面
第4条2項追加例:「甲は、乙に対し、本件目的物について引渡し後【3】か月間、無償で使用を許諾する。」 解説: 事業継続に必要な設備等を目的物とする場合、円滑な移行のため一時的な使用継続を認める設計とする。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、金銭による弁済が困難な債務者が不動産、在庫、機械設備等の物を給付することで金銭債務を消滅させる場面で用いる。単に物を担保として提供するにとどまり、所有権を確定的に移転させる意図がない場合は、担保設定契約(抵当権設定契約書、動産譲渡担保契約書等)を用いるべきであり、本書式はなじまない。また、既に倒産手続開始の申立てが予見される状況での代物弁済は、破産法第162条の否認対象行為(偏頗行為の否認)に該当するリスクがあるため、実行時期には特に注意が必要である。
根拠法令 代物弁済は民法第482条に基づき、債権者が本来の給付に代えて他の給付を受領したときに、その給付が弁済と同一の効力を有する契約である。不動産の代物弁済においては、所有権移転の対抗要件として不動産登記法に基づく登記が必要であり、本契約では登記完了時をもって弁済の効力発生時期とする構成をとっている(最高裁判例上、代物弁済による所有権移転の効力発生時期は当事者の合意によって定まるとされる)。目的物に契約不適合がある場合の責任は民法第562条以下の契約不適合責任の規定に準じて処理される。
実務でよくある失敗と対策 第一に、目的物の評価額を当事者の一方的な判断で決定し、後日評価額が不当であるとして紛争になる失敗がある。第2条2項修正例のように第三者評価を活用し公正性を確保する。第二に、目的物に第三者の担保権が付着していることに気づかず契約し、甲が完全な所有権を取得できない失敗がある。第7条のように第三者の権利不存在の表明保証と乙の除去義務を明記する。第三に、危機時期(支払不能に近い状況)での代物弁済が後日破産管財人等から否認される失敗がある。実行時期については資金繰りの状況を踏まえ慎重に判断する必要があり、この点は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本件債務の発生原因及び残高を正確に確認したか
- [ ] 本件目的物を具体的に特定(所在・地番・種類・数量等)したか
- [ ] 目的物の評価額の算定根拠(鑑定評価等)を明確にしたか
- [ ] 評価額と債務額の差額精算の方法・期限を定めたか
- [ ] 所有権移転時期及び弁済の効力発生時期を明記したか
- [ ] 不動産の場合、登記手続への協力義務を定めたか
- [ ] 目的物に第三者の権利(担保権等)が存在しないことを確認したか
- [ ] 契約不適合責任の分担について定めたか
- [ ] 危機時期における否認リスク(破産法第162条等)を検討したか