代表交代時に旧経営者の個人保証を解除し後継者へ整理する場面の書式。経営者保証ガイドラインと民法第446条の保証契約の要式性を踏まえます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
代表者交代に伴う個人保証の引継ぎに関する合意書
第1部: 書式本文
旧代表者〇〇〇〇(以下「甲」という。)、新代表者〇〇〇〇(以下「乙」という。)及び〇〇株式会社(以下「丙」という。)は、丙の代表取締役交代に伴う金融機関等に対する個人保証の取扱いについて、次のとおり合意(以下「本合意」という。)する。
第1条(前提事実) 甲は、丙の旧代表取締役として、丙が【金融機関名】との間で締結した【融資契約の内容】に係る債務について、連帯保証人として保証契約(以下「本件保証契約」という。)を締結している。乙は、丙の新代表取締役に就任した者である。
第2条(交代の確認) 甲は令和【 】年【 】月【 】日をもって丙の代表取締役を退任し、乙が同日付で代表取締役に就任したことを確認する。
第3条(個人保証の整理方針) 甲、乙及び丙は、経営者保証に関するガイドライン(以下「本ガイドライン」という。)の趣旨を踏まえ、次のいずれかの方針により本件保証契約を整理する。 1. 甲の保証契約を解除し、乙が新たに保証人となる(保証の引継ぎ) 2. 丙の財務状況等に照らし、甲及び乙のいずれも保証人とならない(保証解除) 3. 甲の保証契約を一定期間継続しつつ、段階的に乙へ移行する
第4条(金融機関との協議) 丙は、前条の方針に基づき、【金融機関名】に対し、本件保証契約の変更又は解除について協議を申し入れる。甲及び乙は、当該協議に必要な資料の提出その他の協力を行う。
第5条(新保証契約の締結手続) 乙が新たに保証人となる場合、乙は、民法第446条第2項に基づき書面(電磁的記録による場合を含む。)により保証契約を締結する。事業のために負担する債務についての個人保証である場合、民法第465条の6に基づき、公正証書による保証意思の確認手続の要否を確認する。
第6条(甲の保証解除の効力発生時期) 甲の保証契約の解除は、金融機関が甲に対し保証債務の解除又は保証人の交代を書面で通知した時に効力を生じるものとし、丙及び乙による本合意の締結のみをもって甲の保証債務が消滅するものではないことを甲、乙及び丙は確認する。
第7条(甲の求償に関する取り決め) 甲の保証解除が金融機関との協議の結果直ちに実現しない場合、乙及び丙は、甲が保証債務の履行を求められたときに甲に生じる損害について、丙の資産の範囲内で補償する。
第8条(経営者保証ガイドラインの活用) 丙は、本ガイドラインが定める経営者保証を不要とするための要件(法人と経営者の資産の分離、財務基盤の強化、財務状況の適時適切な情報開示)の充足に努める。
【合意日】
甲: 【住所・氏名】 印 乙: 【住所・氏名】 印 丙: 【本店所在地・商号・代表者】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 旧代表者(既存保証人)向けの修正
A-1. 保証解除完了までの丙による補償の明記
追加条文例:「丙は、甲の保証解除が完了するまでの間、甲が本件保証契約に基づき負担する可能性のあるリスクに応じた対価を甲に支払う。」 一言解説: 保証解除には金融機関との協議期間を要することが多く、その間もリスクを負い続ける旧代表者側が、リスク負担への対価を求める修正である。
A-2. 解除完了の期限設定
修正後:「丙及び乙は、本合意締結後【期限(例:6か月以内)】を目途に、甲の保証解除を完了させるよう金融機関との協議を進める。」 一言解説: 保証解除の協議が長期化し旧代表者の負担が固定化することを避けるため、目標期限を明記し進捗を管理する修正である。
B. 新代表者(後継者)向けの修正
B-1. 保証人とならないことを前提とした方針の優先
修正後:「甲、乙及び丙は、第3条第2号(保証解除)による整理を第一の目標とし、丙の財務基盤の強化状況を踏まえ、乙が保証人とならずに済むよう金融機関と協議する。」 一言解説: 経営者保証ガイドラインは後継者の個人保証を不要とすることを目指す制度であるため、新代表者側は自身が保証人とならない方針を優先させる修正を行う。
C. 会社向けの修正
C-1. 財務基盤強化に関する行動計画の付記
追加条文例:「丙は、法人と経営者の資産の明確な分離、内部留保の充実その他本ガイドラインが求める要件を充足するため、別紙の行動計画に従い財務体質の改善に取り組む。」 一言解説: 経営者保証の解除は金融機関の判断に委ねられる部分が大きいため、会社側が主体的に財務改善への取組みを示すことで交渉を有利に進める修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、中小企業の代表取締役交代に際し、旧代表者が個人保証していた金融機関からの借入について、保証人の交代又は保証解除の方針を関係者間で確認する場面で用いる。本合意はあくまで当事者間の方針確認であり、金融機関との間の保証契約自体の変更・解除には金融機関の同意が別途必要である点に注意を要する。金融機関との交渉が既に完了し、保証契約の変更・解除に関する契約書が金融機関との間で締結できる段階であれば、本書式ではなく金融機関を当事者とする保証契約変更合意書を用いるべきである。
根拠法令 保証契約は、民法第446条第2項により書面でしなければその効力を生じない要式契約とされている。事業のために負担する貸金等債務を主債務とする個人保証(経営者保証を含む場合がある)については、民法第465条の6により、保証契約締結前1か月以内に公正証書で保証人になろうとする者の保証意思を確認しなければ効力を生じない場合があるが、主債務者が法人である場合のその代表者による保証は同条の適用除外(民法第465条の9第1号)とされている点に留意が必要である。実務上の指針としては、日本商工会議所及び全国銀行協会が策定した「経営者保証に関するガイドライン」があり、法的拘束力はないものの、法人と経営者の資産の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示という3要件を充足する場合に経営者保証を求めない可能性がある旨が示されており、金融機関との交渉における重要な指針となっている。
実務でよくある失敗と対策 第一に、代表者交代の合意書を締結しただけで金融機関の保証契約も自動的に変更されると誤解し、旧代表者の保証債務が消滅しないまま放置される失敗がある。第6条のように金融機関の書面による通知を効力発生要件として明記することが対策となる。第二に、新代表者が十分な説明を受けないまま保証人となることに同意してしまい、後継者候補が事業承継自体をためらう結果につながる失敗がある。B-1のように保証解除を優先する方針を明記することが対策となる。第三に、保証解除の協議が長期化し、旧代表者が退任後も長期間リスクを負い続ける失敗がある。A-1及びA-2のように補償と期限の明記が対策となる。
経営者保証ガイドラインの適用可否は金融機関ごとの個別判断によるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 旧代表者が保証している金融機関及び契約内容を特定したか
- [ ] 保証の整理方針(引継ぎ・解除・段階的移行)を確認したか
- [ ] 金融機関との協議の進め方及び窓口を確認したか
- [ ] 新代表者が保証契約を締結する場合、民法第446条第2項の書面要件を確認したか
- [ ] 個人保証の公正証書による意思確認手続(民法第465条の6)の要否を確認したか
- [ ] 旧代表者の保証解除の効力発生時期を明確にしたか
- [ ] 保証解除完了までの旧代表者へのリスク補償を検討したか
- [ ] 経営者保証ガイドラインの3要件充足に向けた行動計画を作成したか
- [ ] 保証解除完了の目標期限を設定したか
- [ ] 会社の財務基盤強化の取組み状況を金融機関に説明する準備をしたか