外部デザイナーへ製品意匠の開発を委託する場面の契約書。意匠法第3条の新規性喪失を避ける秘密保持と成果物の権利帰属を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
デザイン開発委託における権利帰属条項付契約書
第1部: 書式本文
デザイン開発業務委託契約書
【委託企業】(以下「甲」という。)と【デザイン事務所】(以下「乙」という。)は、甲が乙に委託する製品デザインの開発業務に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(委託業務) 甲は乙に対し、次の製品に係る意匠の開発業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。 対象製品:【対象製品名】 納期:【納期】 成果物:デザイン画、3Dモデルデータ、試作品図面その他別紙記載の成果物一式(以下「本成果物」という。)
第2条(業務の遂行) 乙は、善良な管理者の注意をもって本業務を遂行し、甲の指示及び別紙仕様書に従ってデザイン開発を行う。
第3条(委託料及び支払方法) 1. 甲は乙に対し、本業務の委託料として金【委託料の額】円(消費税別)を支払う。 2. 支払時期及び方法は、【着手金/中間金/検収後残金】の区分に応じ別紙のとおりとする。
第4条(検収) 甲は、乙から本成果物の納入を受けた日から【10】営業日以内に検査を行い、合格又は不合格を乙に通知する。甲が期間内に通知しない場合、検収完了とみなす。
第5条(成果物の範囲及び権利帰属) 1. 本成果物に関する意匠登録を受ける権利、著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)及びノウハウその他一切の知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、検収完了と同時に乙から甲に移転する。ただし、乙が本契約締結前から保有していた汎用的な技法、ツール及び素材(以下「乙既存資産」という。)に関する権利は乙に留保される。 2. 乙は、甲及び甲が指定する第三者に対し、本知的財産権の行使につき著作者人格権(著作権法第18条から第20条まで)を行使しない。 3. 本成果物のうち、乙既存資産を含む部分について甲が利用する場合、甲乙間で別途利用許諾条件を協議する。
第6条(意匠登録出願への協力) 1. 甲が本成果物に基づき意匠登録出願を行う場合、乙は出願人名義を甲とすることに同意し、意匠登録を受ける権利の帰属を証する書面への署名その他必要な協力を行う。 2. 乙は、創作者として意匠法上の創作者名誉権に配慮し、甲の求めに応じて創作者情報を提供する。
第7条(新規性喪失防止のための秘密保持) 1. 乙は、本業務を通じて知り得た本成果物の内容及び甲の営業上・技術上の秘密情報を、本契約及び甲の意匠登録出願手続が完了するまでの間、第三者に開示又は公表してはならない。 2. 乙は、本成果物をポートフォリオ、展示会その他の媒体で公表しようとする場合、事前に甲の書面による承諾を得るものとし、承諾なき公表は意匠法第3条第1項の新規性を喪失させ、甲の意匠登録出願に重大な支障を生じさせる行為として、乙は甲に生じた損害を賠償する。 3. 前項にかかわらず、甲の事業上の事情によりやむを得ず本成果物の一部を意匠登録出願前に公表する必要が生じた場合、甲及び乙は、意匠法第4条に定める新規性喪失の例外規定の適用を受けるために必要な証明書類の作成に協力する。
第8条(第三者権利の非侵害) 乙は、本成果物が第三者の意匠権、著作権、商標権その他の権利を侵害しないことを甲に対して表明し、万一侵害が判明した場合には自己の責任と費用において解決する。
第9条(再委託の制限) 乙は、甲の事前の書面による承諾なく、本業務の全部又は主要な部分を第三者に再委託してはならない。
第10条(契約不適合責任) 本成果物が本契約又は仕様書の内容に適合しない場合、甲は乙に対し、修補、代替物の引渡し又は代金減額を請求できる。
第11条(契約の解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、催告後【14】日以内に是正されない場合、本契約を解除できる。
第12条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争については【管轄裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
【契約締結日】
甲(委託企業) 住所: 名称: 代表者: 印 乙(デザイン事務所) 住所: 名称: 代表者: 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 委託企業(メーカー)向け
甲が量産化を前提に複数バリエーション(関連意匠)の開発を委託する場面では、第5条の権利移転範囲をバリエーション案・不採用案にも及ぶよう拡張する。 before:「本成果物に関する意匠登録を受ける権利、著作権…は、検収完了と同時に乙から甲に移転する。」 after:「本成果物には、最終採用案のほか、開発過程で乙が作成した全てのバリエーション案及び不採用案(以下「派生成果物」という。)を含むものとし、派生成果物に関する意匠登録を受ける権利及び著作権も検収完了と同時に乙から甲に移転する。」 不採用案が将来的に関連意匠として活用される可能性があるため、成果物の範囲を最終稿のみに限定すると、後日乙が派生デザインを他社に流用するリスクが残る。
B節 デザイン事務所向け
乙が複数クライアントを抱えるスタジオとして、汎用ノウハウやツールまで権利移転の対象とされることを避けたい場面では、乙既存資産の範囲を具体的に列挙する。 before:「乙が本契約締結前から保有していた汎用的な技法、ツール及び素材(以下「乙既存資産」という。)に関する権利は乙に留保される。」 after:「乙既存資産とは、別紙記載のデザインテンプレート、標準パーツライブラリ及び乙が独自に開発した3Dモデリング手法をいい、本成果物に組み込まれた場合であっても、乙既存資産それ自体の権利は乙に留保される。甲は、乙既存資産について本成果物との一体的な利用に必要な範囲でのみ無償の利用権を取得する。」 権利帰属条項を包括的な文言のみで定めると、乙が他案件でも汎用的に使う手法まで甲に独占されるおそれがあるため、留保範囲を具体化することが乙の利益保護につながる。
C節 出願権の帰属明記
甲が乙の名義ではなく確実に甲名義で意匠登録出願を行いたい場面では、第6条を強化し、出願前の権利帰属の疑義を排除する。 before:「甲が本成果物に基づき意匠登録出願を行う場合、乙は出願人名義を甲とすることに同意し…」 after:「乙は、本成果物について意匠登録を受ける権利が検収完了時に甲に原始的に帰属することを確認し、乙が自ら又は第三者をして本成果物又はこれに類似する意匠について意匠登録出願を行わないことを保証する。乙が本条に違反して出願した場合、乙は当該出願に係る一切の権利を無償で甲に譲渡する。」 デザイン事務所が創作者として先に出願してしまうと、意匠法第9条の先願主義により甲が同一意匠を出願できなくなるおそれがあるため、出願禁止と違反時の譲渡義務をあらかじめ明記しておくことが重要である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、製品の外観デザイン(意匠)の創作そのものを外部のデザイン事務所やフリーランスデザイナーに委託する場面で使用する。既に完成した意匠権を譲り受ける場面や、完成品の実施許諾を受けるだけの場面には適用できず、それぞれ譲渡契約書又は実施許諾契約書を用いるべきである。また、成果物が主として文章や画像コンテンツであり意匠性を伴わない場合も本書式の対象外である。
根拠法令は、意匠登録の要件を定める意匠法第3条(新規性)、新規性喪失の例外を定める意匠法第4条、先願主義を定める意匠法第9条である。加えて、デザインの多くは著作権法上の著作物(応用美術)としても保護されうるため、著作権法第2条第1項第1号の著作物該当性、著作者人格権に関する同法第18条から第20条までの規律も併せて考慮する必要がある。
実務でよくある失敗として、第一に、乙が公表・展示会出品を目的にデザイン画をSNS等で公開してしまい、甲の意匠登録出願前に新規性を喪失させてしまうケースがある。対策として第7条のように公表前の甲の承諾取得を義務付け、違反時の損害賠償を明記する。第二に、権利帰属条項が最終採用案のみを対象としており、開発過程のバリエーション案・不採用案の権利が乙に残ってしまい、乙が類似デザインを競合他社に転用するケースがある。対策として第2部A節のとおり派生成果物まで含めて権利移転の対象を明確化する。第三に、著作権の移転条項はあるが著作者人格権の不行使特約(第5条第2項)を欠き、乙が納品後にデザインの改変に異議を述べて量産化の支障となるケースがある。対策として著作権法第59条により著作者人格権自体は譲渡できないため、不行使特約を明記して実務上の支障を防止する。
デザインの新規性喪失の例外規定の適用可否や、応用美術としての著作物性の判断は事案の性質により大きく異なるため、個別事案は専門家に確認の上で公表時期や条項の運用を判断することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 委託業務の対象製品・成果物の範囲(データ形式・試作品の有無等)を具体的に特定しているか
- [ ] 最終採用案だけでなくバリエーション案・不採用案の権利帰属を明記しているか
- [ ] 乙既存資産(汎用ツール・テンプレート等)の留保範囲を具体的に列挙しているか
- [ ] 意匠登録を受ける権利の帰属時期(検収完了時等)を明確にしているか
- [ ] 著作者人格権の不行使特約を設けているか
- [ ] 乙による成果物の対外公表・ポートフォリオ掲載について事前承諾制としているか
- [ ] 意匠登録出願前の公表による新規性喪失リスクを防ぐ条項を設けているか
- [ ] やむを得ず公表する場合の新規性喪失の例外規定適用のための協力義務を定めているか
- [ ] 乙が自ら又は第三者名義で類似意匠を出願しないことを保証させているか
- [ ] 第三者権利の非侵害保証及び侵害判明時の乙の責任を定めているか
- [ ] 再委託の可否及び事前承諾の要否を定めているか
- [ ] 検収の手続・期間及びみなし検収の規定を設けているか