不動産売買契約に付する土壌汚染の責任分担特約です。調査義務、浄化費用の負担上限、期間制限、免責の範囲を明確にします。後日の紛争を防ぐための確認欄をあらかじめ設けています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
土壌汚染に関する責任分担特約
第1部: 書式本文
【売主】(以下「甲」という。)と【買主】(以下「乙」という。)は、【年月日】付土地売買契約書(以下「原契約」という。)【対象土地の表示】に関し、土壌汚染に係る責任分担について、次のとおり特約を締結する(以下「本特約」という。)。
第1条(適用関係) 本特約は原契約の一部を構成し、原契約の条項と本特約の条項が抵触する場合は、土壌汚染に関する事項に限り本特約を優先して適用する。
第2条(調査の実施及び開示) 1. 甲は、原契約締結時までに、対象土地について土壌汚染対策法第3条又は第4条に基づく調査命令若しくは区域指定の有無を調査し、乙に書面で開示する。 2. 甲は、対象土地が要措置区域又は形質変更時要届出区域に指定されている場合、宅地建物取引業法第35条第1項に基づく重要事項説明の対象となることを乙に確認する。 3. 乙は、引渡し前に自己の費用負担で追加の土壌汚染状況調査を実施することができる。この場合、甲は調査への立入りに協力する。
第3条(契約不適合責任の内容) 対象土地の引渡し後に、引渡し時点で既に土壌汚染対策法施行令別表第一に定める特定有害物質が基準値を超えて存在していたことが判明した場合、これを民法第562条にいう種類又は品質に関する契約不適合とみなし、乙は甲に対し、民法第562条(追完請求)、第563条(代金減額請求)及び第564条(損害賠償請求・解除)に基づく請求をすることができる。
第4条(浄化費用の負担上限) 1. 前条の契約不適合に起因して乙が支出する調査・浄化・搬出処分費用のうち、甲が負担する金額は金【〇〇】円を上限とする。 2. 前項の上限額を超える費用については、甲乙協議のうえ負担割合を定める。ただし、甲が汚染の存在を知りながら乙に告知しなかった場合は、上限を適用せず甲が全額を負担する。
第5条(責任期間の制限) 1. 乙は、引渡しの日から【2/3】年以内に甲に対し前条の請求をしない限り、当該請求をすることができない。 2. 前項にかかわらず、甲が汚染の存在を知り、又は重大な過失により知らなかった場合は、前項の期間制限を適用しない。
第6条(免責の範囲) 次の各号に該当する汚染については、甲は責任を負わない。 (1) 引渡し後に乙又は乙の関係者の行為に起因して生じた汚染 (2) 乙が引渡し前の調査により認識し、又は容易に認識し得た汚染であって、乙が異議を留めず引渡しを受けたもの (3) 法令の改正により新たに規制対象となった物質に係る汚染であって、引渡し時点の法令上基準値内であったもの
第7条(行政対応) 1. 対象土地が土壌汚染対策法第6条に基づき要措置区域に指定された場合、都道府県知事等に対する措置の実施義務は、指定時点における土地所有者である乙が負う。 2. 前項の措置に要した費用のうち、原因が甲の所有期間中の汚染に起因すると認められる部分については、甲乙間の求償関係は第4条及び第5条の定めるところによる。
第8条(告知義務違反時の特則) 甲が対象土地の汚染又はそのおそれを知りながら乙に告知せず、又は虚偽の説明を行っていたことが判明した場合、乙は第5条の期間制限にかかわらず、発覚時から【〇】年以内に限り請求することができる。
第9条(第三者への通知) 甲及び乙は、行政機関から本特約に関連する調査命令、区域指定その他の処分を受けたときは、遅滞なく相手方に通知する。
第10条(協議事項) 本特約に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議のうえ解決する。
【年月日】
甲(売主) 【住所】【氏名又は名称】 印 乙(買主) 【住所】【氏名又は名称】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:売主(甲)の視点
売主は、浄化費用の負担が青天井になることと、引渡し後長期間にわたり請求を受け続けることを最も警戒する。
Before(乙提示の原案・第4条1項): 「甲が負担する浄化費用に上限を設けない。」
After(甲修正案): 「甲が負担する浄化費用は、対象土地の売買代金の【20】%又は金【〇〇】円のいずれか低い額を上限とする。ただし、甲に故意又は重過失があった場合はこの限りでない。」 一言解説:代金の一定割合を上限とすることで、売買規模に見合った合理的なリスク配分を示しやすい。全部免責は消費者契約法・民法の公序良俗規制に抵触するおそれがあるため避ける。
Before(第5条1項の原案): 「乙は、引渡しの日から10年以内に請求できる。」
After(甲修正案): 「乙は、引渡しの日から【2】年以内に、かつ契約不適合を知った時から【6】か月以内に甲に通知しない限り、請求することができない。」 一言解説:民法第566条の考え方(種類・品質の契約不適合について通知期間を1年とする任意規定)も参考にしつつ、宅地取引の実務慣行に沿った合理的期間を設定する。
B節:買主(乙)の視点
買主は、免責範囲が広すぎることや、行政上の措置義務が実質的に乙に転嫁されるにもかかわらず求償ができない構成を警戒する。
Before(甲提示の原案・第6条2号): 「乙が調査により認識し得た汚染は、甲は一切責任を負わない。」
After(乙修正案): 「乙が引渡し前の調査により現に認識していた汚染に限り、甲は責任を負わない。乙が認識可能であったが現に認識していなかった汚染については、第3条から第5条の規定を適用する。」 一言解説:「認識し得た」という抽象的な基準は事後的な争いを招きやすいため、「現に認識していた」という客観的事実に基づく基準に修正することが望ましい。
また、乙は第7条について、要措置区域指定に伴う措置費用の求償権が時効消滅しないよう、次の追記を検討する。 「甲は、乙が支出した措置費用について、支出の都度、乙からの請求に応じて速やかに精算する。」
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面:土地・建物付き土地の売買契約に付随して、土壌汚染に関するリスク配分を契約当事者間で明確化したい場合に使用する。特に工場跡地、旧クリーニング所、ガソリンスタンド跡地等、特定有害物質の使用履歴がある土地の取引で有用である。
使ってはいけない場面:本特約は私人間の責任分担を定めるものであり、都道府県知事等の行政機関に対する調査命令・措置命令の名宛人としての義務を排除する効力はない。土壌汚染対策法第4条に基づく調査命令や区域指定に基づく義務は特約で免れることができない点に注意する。
根拠法令:民法第562条〜第564条(契約不適合責任、2020年改正)、土壌汚染対策法第3条〜第6条(調査義務・区域指定・措置命令)、宅地建物取引業法第35条第1項(重要事項説明義務)。
よくある失敗と対策: 1. 免責条項を包括的に定め、後に公序良俗違反や消費者保護の観点から無効と判断されるおそれがある。→免責範囲を具体的事由に限定し(第6条)、甲の故意・重過失がある場合は適用除外とする。 2. 責任期間の起算点・通知要件を曖昧にし、期間徒過の有無で紛争になる。→引渡日を起算点とし、通知期限も併せて定める(第5条)。 3. 行政上の措置義務者(所有者)と費用負担者(特約上の責任者)が食い違い、実際の費用回収に支障が出る。→第7条で行政対応と私人間求償を分離して整理する。
対象土地の使用履歴や取引金額によって適切な負担上限・期間設定は大きく異なるため、個別の事案については弁護士・行政書士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 原契約との適用関係(優先順位)を明記したか
- [ ] 引渡し前調査の実施主体・費用負担・立入協力について定めたか
- [ ] 重要事項説明(宅建業法第35条)との整合を確認したか
- [ ] 浄化費用の負担上限額を具体的に記載したか
- [ ] 責任期間(起算点・通知期限)を明記したか
- [ ] 免責事由を具体的かつ限定的に列挙したか
- [ ] 告知義務違反があった場合の特則を設けたか
- [ ] 要措置区域指定時の行政対応と私人間求償の関係を整理したか
- [ ] 甲乙間の通知義務(行政処分を受けた場合)を定めたか
- [ ] 売買代金額との整合性(上限額の妥当性)を確認したか