特定地域や販路について独占的販売権を与える覚書。独占禁止法一般指定第11条の排他条件付取引に配慮し、権利範囲・最低販売数量・独占解除条件を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
独占的販売権付与に関する覚書
第1部: 書式本文
〇〇株式会社(以下「甲」といい、権利を付与するメーカー・供給者を指す。)と△△株式会社(以下「乙」といい、独占的販売権の付与を受ける販売者を指す。)は、甲乙間の【原契約名称】に基づく取引に関し、乙に対する独占的販売権の付与について次のとおり合意する(以下「本覚書」という。)。
第1条(目的) 本覚書は、甲が乙に対し、下記に定める地域又は販路において対象製品を独占的に販売する権利(以下「独占的販売権」という。)を付与する条件を定めることを目的とする。
第2条(対象製品) 本覚書における対象製品は、【製品名・型番・仕様】とする。
第3条(独占的販売権の範囲) 1. 甲は、乙に対し、【地域名(例:関東地方一円)】(以下「対象地域」という。)における対象製品の独占的販売権を付与する。 2. 甲は、対象地域において、乙以外の第三者に対し対象製品を直接又は間接に販売しない。ただし、甲自らが対象地域において直接消費者向けに販売する行為は、別紙に定める範囲を除き制限しない。
第4条(乙の最低販売数量) 乙は、独占的販売権の存続要件として、【期間】ごとに対象製品を【 】単位以上販売するものとする(以下「最低販売数量」という。)。
第5条(最低販売数量未達成時の取扱い) 1. 乙が2期連続して最低販売数量を達成できなかった場合、甲は、乙に対する書面通知により、独占的販売権の全部又は一部(対象地域の限定・非独占化)を解除することができる。 2. 前項の解除に先立ち、甲は乙に対し、【 】日間の是正猶予期間を与えるものとする。
第6条(独占的販売権の対価) 乙は、独占的販売権の付与に対する対価として、【一時金・年間ロイヤリティ等】を甲に支払う。
第7条(競合品の取扱い制限) 乙は、対象地域における対象製品の販売活動において、甲の書面による事前の承諾なく、対象製品と競合する製品を取り扱ってはならない。
第8条(販売促進義務) 乙は、対象地域における対象製品の販売促進のため、甲乙合意した販売計画に基づき、広告宣伝、在庫確保、販売網の維持等に努めるものとする。
第9条(甲の情報提供・支援) 甲は、乙の販売活動を支援するため、製品情報、販売資料、技術サポート等を適時に提供する。
第10条(独占権の解除条件) 次の各号のいずれかに該当する場合、甲は独占的販売権を解除し、対象地域における販売を非独占化することができる。 (1) 乙が最低販売数量を継続的に達成できない場合(第5条) (2) 乙が対象地域外での販売(いわゆる越境販売)を繰り返し、甲の是正勧告に従わない場合 (3) 乙が本覚書上の重要な義務に違反し、是正されない場合
第11条(契約期間) 本覚書の有効期間は、【西暦年月日】から【 年間】とする。期間満了の【 】か月前までにいずれの当事者からも異議のない場合、同一条件でさらに【 年間】更新されるものとする。
第12条(競業避止義務の終了後の取扱い) 本覚書終了後、乙は速やかに在庫品の取扱いに関する甲の指示に従うものとし、独占的販売権は将来に向かって消滅する。
第13条(準拠法及び管轄裁判所) 本覚書は日本法に準拠し、本覚書に関する紛争については【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第14条(協議) 本覚書に定めのない事項については、甲乙誠実に協議の上、解決を図るものとする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 権利を付与するメーカー(甲)向け
メーカー側は、独占権を付与する代わりに、販売実績が伴わない場合の権利縮小メカニズムを明確にしておくことが重要です。
第5条第1項を次のように差し替える例: 「1. 乙が四半期ごとの最低販売数量を1期でも下回った場合、甲は、次期の最低販売数量を見直すとともに、対象地域の一部を非独占化することができる。ただし、正当な理由がある未達については、この限りでない。」
一言解説:2期連続要件を1期でも発動可能にすることで、メーカー側の是正権限を強化する例です。もっとも、発動基準を緩めすぎると、乙の事業予見可能性を害し、後述の排他条件付取引の評価においても「一方的・恣意的な運用」と受け取られるリスクが高まるため、是正猶予期間(第5条第2項)とのバランスが重要です。
B. 独占権を得る販売者(乙)向け
販売者側は、独占権を得る対価として過度な競合品取扱制限や最低販売数量を課されないよう、範囲の明確化と免責事由を厚くすることが望ましいです。
第7条を次のように差し替える例: 「乙は、対象製品と直接競合する製品(別紙に列挙する品目に限る。)について、甲の事前の書面による承諾なく取り扱ってはならない。ただし、乙が本覚書締結前から取り扱っている既存製品については、この限りでない。」
一言解説:競合品の範囲を別紙で限定列挙し、既存取扱品を適用除外とすることで、乙の事業活動の自由を必要以上に制約しないようにする工夫です。競合品制限の範囲が不明確なまま広範に及ぶと、乙の事業展開が過度に縛られるだけでなく、独占禁止法上の評価においても不利に働く可能性があります。
第3部: 独占的販売権付与覚書の書き方と法的ポイントの解説
使う場面 メーカーが特定の地域又は販路について、一社の販売者に集中的に販売を委ねることで、販売網の重複投資を避け、販売者側の販売促進インセンティブを高めたい場合に用います。新規市場参入時や、既存の複数販売代理店を整理し専属化する場面での利用が想定されます。
使ってはいけない場面 対象地域におけるメーカーの市場シェアが高く、独占的販売権の付与が当該市場における競争を実質的に排除する効果を持つ場合や、乙以外の販売者が対象製品と代替性のある競合品を取り扱うことを事実上不可能にする場合には、独占禁止法上のリスクが高いため、独占権の範囲を限定するか、本書式の採用自体を再検討すべきです。
根拠法令 独占的販売権の付与、特に第7条のような競合品取扱制限を伴う場合、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条第9項第6号及び公正取引委員会の一般指定第11項が定める「排他条件付取引」に該当するかどうかが問題となります。排他条件付取引は、相手方(乙)が競争者(甲の競合メーカー)の商品を取り扱わないことを条件として取引する行為であり、市場における甲の地位、対象地域の競争状況、乙以外の販売経路の有無等を総合的に考慮し、公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかが判断されます。また、独占的販売権と併せて再販売価格の指定を行う場合には、独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束)にも抵触するおそれがあるため、価格に関する取り決めは別途慎重な検討が必要です。公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」も実務上の参考となります。個別の取引が排他条件付取引に該当するかどうかは市場画定や市場シェアの評価に依存するため、専門家への確認を推奨する。
実務でよくある失敗 1. 対象地域や独占権の及ぶ範囲(店舗販売のみか通販も含むか等)を曖昧にしたまま覚書を締結し、越境販売や並行輸入の扱いを巡って紛争化するケース。第3条・第10条で対象地域・販路を具体的に定義することが対策となります。 2. 最低販売数量の未達成時の手続を定めず、メーカー側が突然独占権を打ち切り、販売者側の投資回収機会を奪う結果となるケース。第5条で是正猶予期間を設けることが対策です。 3. 競合品取扱制限の範囲を無限定に広げ、販売者の事業活動を過度に拘束するとともに、排他条件付取引としての評価リスクを高めるケース。第7条で対象品目を別紙により限定することが対策となります。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 独占的販売権の対象製品・対象地域・販路を具体的に特定したか
- [ ] 最低販売数量の水準と算定期間を明確にしたか
- [ ] 最低販売数量未達成時の是正猶予期間及び解除手続を定めたか
- [ ] 独占的販売権の対価(一時金・ロイヤリティ等)を明記したか
- [ ] 競合品取扱制限の対象品目を別紙等で限定したか
- [ ] 対象地域における甲の市場シェア・競争状況を踏まえ、排他条件付取引に該当するリスクを確認したか
- [ ] 再販売価格の指定に該当する条項が混在していないか確認したか
- [ ] 契約期間及び更新条件を明記したか
- [ ] 越境販売・並行輸入への対応方針を定めたか
- [ ] 契約終了時の在庫品の取扱いを定めたか