ネットショップの設計・構築を請け負う契約書。民法第632条の請負を基礎に、特定商取引法第11条の広告表示の実装や決済代行連携の分界点を定める。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
ECサイト構築契約書
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。制作会社)と〇〇〇〇(以下「乙」という。発注者)とは、乙が運営するネットショップ(以下「本サイト」という。)の設計及び構築について、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は、民法第632条に定める請負契約として、乙の指示に基づき本サイトの設計、開発及びテストを行い、これを完成させて乙に引き渡す。
第2条(業務範囲) 甲が行う業務の範囲(要件定義、デザイン、フロントエンド・バックエンド開発、決済機能実装、テスト)は別紙のとおりとする。
第3条(開発スケジュール及び対価) 開発スケジュール及び請負代金は別紙のとおりとし、乙は別紙に定める支払条件に従い甲に対価を支払う。
第4条(特定商取引法上の表示の実装) 1. 甲は、本サイトが通信販売に該当することを踏まえ、特定商取引法第11条に定める広告表示事項(事業者名、住所、電話番号、返品条件、販売価格、送料等)を掲載するためのページ(以下「特定商取引法に基づく表示ページ」という。)を実装する。 2. 前項の表示ページに掲載する具体的な文言及び内容は乙が用意し、甲は乙が提供する内容をそのまま実装する。表示内容の正確性については乙が責任を負う。
第5条(決済代行連携) 1. 甲は、乙が選定するクレジットカード決済代行会社又はその他の決済手段の連携インターフェースを本サイトに実装する。 2. 決済代行会社との契約締結、審査対応及び手数料の支払は乙が行う。甲は連携作業に必要な技術的対応を行うにとどまる。 3. 決済処理そのもの(与信、資金移動)にかかる責任は決済代行会社が負うものとし、甲は連携部分の実装に瑕疵がある場合を除き責任を負わない。
第6条(検収) 1. 甲は、本サイトが完成したときは乙に引き渡し、乙は別紙に定める検収期間内に、あらかじめ合意した仕様書に従って検収を行う。 2. 検収の結果、仕様との不一致が発見された場合、乙は甲に対し修補を求めることができ、甲は合理的な期間内にこれに応じる。 3. 検収期間内に乙から異議が述べられない場合、検収に合格したものとみなす。
第7条(契約不適合責任) 引き渡された本サイトに種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態がある場合、乙は、民法第562条から第564条までの規定に従い、甲に対し履行の追完、報酬減額、損害賠償又は契約の解除を請求することができる。ただし、当該請求は、乙が契約不適合を知った時から1年以内に甲に通知しなければならない。
第8条(著作権の帰属) 1. 本サイトの構築過程で作成されたプログラム及びデザインにかかる著作権は、対価の完済を条件として乙に帰属する。 2. 甲が本サイトの構築に汎用性のあるプログラム部品(ライブラリ、フレームワーク等)を利用した場合、当該部品にかかる著作権は甲又は原著作者に留保される。
第9条(セキュリティ対策) 甲は、本サイトの構築にあたり、SQLインジェクション対策、クロスサイトスクリプティング対策その他別紙に定めるセキュリティ基準を満たす実装を行う。
第10条(保守運用への引継ぎ) 甲は、本サイトの引渡し後、乙又は乙が指定する第三者が保守運用を行うために必要なドキュメント及び環境情報を提供する。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行の過程で知り得た相手方の営業上の秘密情報を第三者に開示してはならない。
第12条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し、保証する。
第13条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 制作会社向けの修正
A-1. 表示内容確認の免責強化
修正後:「甲は、乙が提供した特定商取引法に基づく表示内容について、明白な誤記を除き独自の確認・修正を行う義務を負わない。表示内容に起因する乙の法令違反について、甲は責任を負わない。」 一言解説: 特定商取引法上の表示義務は本来販売事業者(乙)が負うものであり、制作会社が内容の実質的な適法性まで保証しないことを明確にする修正である。
A-2. 仕様変更時の追加費用条項の明記
追加条文例:「検収後又は開発途中における乙からの仕様変更の要望については、変更内容及び規模に応じて甲乙協議のうえ追加費用及び納期の見直しを行う。」 一言解説: 開発途中の仕様変更(スコープクリープ)による無償対応を避けるため、追加費用の発生を明記する修正である。
B. 発注者向けの修正
B-1. セキュリティ基準の第三者機関による検証追加
追加条文例:「甲は、本サイトの引渡し前に、乙の指定する第三者機関による脆弱性診断を受け、指摘事項について合理的な範囲で是正する。」 一言解説: 決済機能を含むECサイトはセキュリティインシデントの影響が大きいため、開発会社の自己申告だけでなく第三者検証を求める発注者側の修正である。
B-2. 検収みなし合格の削除
修正後:「乙が検収期間内に検収結果を通知しなかった場合であっても、検収に合格したものとはみなさず、乙は検収期間経過後も相当期間内に不適合を発見した場合は甲に通知することができる。」 一言解説: 検収期間内の見落としにより契約不適合責任の追及機会を失うことを避けたい発注者側の修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、ゼロから、又はECプラットフォームをベースにカスタマイズしてネットショップを新規構築する場面で用いる。他方、既存サイトの軽微な改修や保守運用のみを委託する場合には、別途保守運用契約書を用いるべきであり、本書式は初期構築(検収による完成の確認を要する請負契約)を前提とする。
根拠法令 本契約は、仕事の完成を目的とする請負契約(民法第632条)としての性質を有する。2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」の概念は「契約不適合責任」に改められ、目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合、注文者は履行の追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求及び契約の解除を請求できる(同法第559条により売買の規定である第562条から第564条までが請負にも準用される)。また、本サイトが消費者向けの通信販売に該当する場合、特定商取引法第11条は、販売価格、送料、支払時期、引渡時期、返品に関する特約その他の事項をウェブサイト上に表示することを義務付けている。この表示義務は販売事業者(発注者)が負う法的義務であるが、実装を担う制作会社としても、表示ページの実装漏れがないよう技術的に対応する必要がある点で、両者の役割分担を契約上明確にすることが重要である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、特定商取引法上の表示義務が発注者(販売事業者)に課される法的義務であることの認識が曖昧なまま、制作会社が表示内容の適法性まで保証しているかのような誤解が生じる失敗がある。第4条第2項及びA-1のように、内容の作成は発注者が行い、制作会社は実装のみを担う旨を明記することが対策となる。第二に、開発途中で発注者からの仕様変更要望が相次ぎ、当初の見積り・納期と実態が大きく乖離する、いわゆるスコープクリープが生じる失敗がある。A-2のように仕様変更時の追加費用条項を明記することが対策となる。第三に、決済機能を含むにもかかわらずセキュリティ対策の基準が曖昧で、引渡し後に脆弱性が発見され信頼失墜や情報漏えいにつながる失敗がある。第9条及びB-1のような第三者機関による脆弱性診断の実施が対策となる。
契約不適合責任の期間や範囲、セキュリティ対策の水準の妥当性は個別の取引規模やリスクによって異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 業務範囲(要件定義からテストまで)を別紙で具体的に定めたか
- [ ] 特定商取引法第11条の表示事項の作成主体を明確にしたか
- [ ] 決済代行連携における責任分界点(連携実装か決済処理そのものか)を確認したか
- [ ] 検収の手続及びみなし合格の可否を定めたか
- [ ] 契約不適合責任の通知期間及び請求内容を明記したか
- [ ] 著作権の帰属時期(対価完済時か引渡時か)を確認したか
- [ ] 利用するライブラリ・フレームワークの著作権及びライセンスを確認したか
- [ ] セキュリティ対策の基準及び第三者検証の要否を定めたか
- [ ] 保守運用への引継ぎに必要なドキュメントの範囲を定めたか
- [ ] 仕様変更時の追加費用・納期見直しのルールを定めたか