取消審判に備え使用実績を取引先と相互確認する覚書。商標法第50条の三年不使用取消に対する立証資料の保全と提出協力を定めます。
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不使用取消審判に対する使用証明の覚書
第1部: 書式本文
不使用取消審判に対する使用証明の覚書
【商標権者名】(以下「甲」という)と【使用権者又は取引先名】(以下「乙」という)は、甲が保有する商標に関し、使用実績の相互確認及び証拠保全に関し、次のとおり覚書(以下「本覚書」という)を締結する。
第1条(対象商標) 本覚書の対象は次の商標(以下「本商標」という)とする。 ・登録番号:【第◯◯◯◯◯◯号】 ・商標(標章):【商標見本を末尾別紙に添付】 ・指定商品/指定役務及び区分:【区分・商品役務名】
第2条(目的) 本覚書は、商標法第50条第1項の不使用取消審判が現に請求され、又は将来請求されるおそれがあることに鑑み、甲及び乙が本商標の使用の事実を相互に確認し、審判における証拠(以下「使用証明資料」という)を保全し、必要な場合に提出協力を行うことを目的とする。
第3条(乙による使用の位置付け) 1. 乙は、【甲との間の商標使用許諾契約に基づく通常使用権者/甲の商品を取り扱う取引先(卸売業者、小売業者、輸入代理店等)】として、本商標を付した商品又は役務の【製造、販売、輸入、広告掲載等】を行っていることを確認する。 2. 甲乙は、商標法第50条第2項により、不使用取消審判の被請求人(甲)は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによる使用の事実を証明しない限り登録取消しを免れないことを確認し、乙による使用実績が甲の防御にとって重要であることを相互に認識する。
第4条(使用の内容の確認) 甲乙は、次の各号に掲げる行為が商標法第2条第3項に定める「使用」に該当し得ることを確認し、該当する行為があった場合はその記録を保存する。 1. 商品又は商品の包装に本商標を付する行為(同項第1号) 2. 本商標を付した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(同項第2号)。輸入行為も使用に含まれる点に留意する。 3. 役務の提供に当たり、提供を受ける者の利用に供する物に本商標を付する行為(同項第3号ないし第6号) 4. 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に本商標を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に本商標を付して電磁的方法(ウェブサイト、SNS広告等)により提供する行為(同項第8号)。カタログ掲載やウェブ広告への掲載のみであっても使用と評価され得る。
第5条(使用証明資料の範囲) 使用証明資料とは、次に掲げるもののうち、本商標及びその使用日を客観的に特定できるものをいう。 ・本商標を付した商品の写真、パッケージ、ラベル ・請求書、納品書、注文書、輸入通関書類 ・カタログ、パンフレット、価格表 ・ウェブサイト・SNSの広告画面のキャプチャ及びその表示日時が確認できる記録(アーカイブサービスの保存記録等を含む) ・店舗什器、看板の設置状況を撮影した写真とその撮影日 ・取引先との間の発注・出荷記録
第6条(保存義務) 1. 乙は、第4条各号の使用の事実が生じた場合、前条の使用証明資料を、当該使用の日から少なくとも【5】年間保存する。 2. 甲は、本商標について不使用取消審判が請求されるおそれが高いと判断した指定商品又は役務については、乙に対しあらかじめ重点的な資料保存を依頼できる。
第7条(提出協力義務) 1. 甲は、本商標について不使用取消審判が請求されたとき、又は請求のおそれが具体化したときは、速やかに乙に通知する。 2. 乙は、前項の通知を受けたときは、甲の求めに応じ、保有する使用証明資料を遅滞なく甲に提供し、必要に応じて審判における陳述書(使用の事実を証する上申書等)の作成に協力する。 3. 乙が第三者(卸売先、輸入元等)を通じて使用証明資料を保有する場合、乙は当該第三者に対しても資料提供を要請するよう努める。
第8条(審査対象期間の特定) 甲は、商標法第50条第1項の要件である「継続して3年以上」の不使用の起算点(審判請求の予告登録前3年以内の期間)を乙に通知し、乙は当該期間内の使用証明資料を優先的に確認・提供する。
第9条(費用負担) 使用証明資料の収集・整理・提出協力に要する乙の実費は、甲乙協議の上、甲が負担する。
第10条(秘密保持) 甲乙は、本覚書に基づき提供された取引情報を、不使用取消審判への対応目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。
第11条(有効期間) 本覚書は締結日から本商標の登録が存続する限り効力を有する。ただし、甲乙の使用許諾関係又は取引関係が終了した場合は、その時点で保存されている資料に関する提出協力義務のみ、終了後【3】年間存続する。
第12条(準拠法及び管轄) 本覚書は日本法に準拠し、本覚書に関する紛争は【地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。
【西暦】年【月】月【日】日
甲:【住所】【会社名】【代表者名】 印 乙:【住所】【会社名】【代表者名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節:商標権者向け
第7条に「乙が正当な理由なく資料提供に応じない場合、甲は乙との取引条件見直しを検討できる」旨のインセンティブ条項を加え、第8条の審査対象期間の通知を「審判請求の予告登録日から【1か月】以内に行う」と具体化する例が多い。一言解説:不使用取消審判は請求されてから答弁までの期間が限られているため、証拠収集の初動を早める仕組みを契約上組み込むことが甲にとって重要である。
B節:使用権者・取引先向け
第6条の保存義務を「乙の通常の帳票保存期間(税法上の保存義務期間等)を超えない範囲で協力する」と現実的な範囲に限定し、第9条の費用負担を「資料検索に要する実費相当額」と明確化する例がある。一言解説:取引先である乙にとって過大な保存・提出義務は負担となるため、既存の社内保存実務と整合させた無理のない義務設定が合意形成の鍵となる。
C節:証拠保全目的(訴訟・審判対応強化型)
第5条の使用証明資料に「タイムスタンプ付き電子データ」「事実実験公正証書」等の証拠力を高める資料類型を追加し、第6条の保存期間を「登録存続中は継続保存」とする例がある。一言解説:ウェブ広告のみの使用実績は改ざん・遡及作成の疑いを持たれやすいため、表示日時を客観的に証明できる証拠を優先的に確保する設計が望ましい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、商標権者が自社の登録商標について不使用取消審判の請求を受け、又は請求されるおそれがある状況において、実際に商標を使用している使用権者や取引先との間で、使用実績の相互確認と証拠の保全・提出協力をあらかじめ取り決める場面で用いる。使用実態が全くない防護的登録のみの商標には適さず、使用実態がないまま証拠だけを事後的に作出しようとする使い方は証拠の信用性を損なうため避けるべきである。
本書式の中心的な法的ポイントは、商標法第50条が定める不使用取消審判の構造である。同条第1項は、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(社会通念上同一と認められる商標を含む)の使用をしていないときは、何人もその指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しについて審判を請求できると定める。同条第2項は、審判請求があった場合、被請求人(商標権者)が、その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについて登録商標の使用をしていることを証明しない限り取消しを免れないと定めており、立証責任が商標権者側に転換される点が実務上重要である。
もう一つの重要な論点は、「使用」の範囲である。商標法第2条第3項は使用に該当する行為を各号で列挙しており、商品の製造・販売だけでなく、輸入する行為(同項第2号)や、広告・価格表・取引書類への表示、ウェブサイト等電磁的方法による広告提供行為(同項第8号)も使用に含まれる。国内製造をしていなくても輸入品への商標付与やウェブ広告への継続掲載があれば不使用取消しを免れる余地があるが、名目的な広告掲載のみでは、真に業として使用する意思に基づく使用と認められない場合もあり、実質的な使用実態を裏付ける資料の確保が求められる。
実務でよくある失敗として、第一に、実際の使用は専ら取引先や海外の輸入代理店が行っているにもかかわらず、平時から資料保存の取り決めをしておらず、審判請求を受けてから慌てて資料を探すケースがある。第7条・第8条のような平時からの通知・協力体制の整備が有効である。第二に、ウェブ広告掲載のみを根拠とし、表示日時を客観的に証明する手段(アーカイブ保存やタイムスタンプ)を確保していなかったため、証拠として認められにくいケースがある。第5条のような証拠類型の具体化が望ましい。第三に、審判請求の予告登録前3年以内という審査対象期間を意識せず、直近の使用実績を証明できないケースがある。第8条のような対象期間の特定が重要である。
不使用取消審判における個別の使用態様の該当性判断は事案ごとに異なるため、個別事案は専門家に確認してください。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象商標の登録番号・指定商品役務・区分を確認したか
- [ ] 乙の立場(通常使用権者か、取引先か)とその使用態様を具体的に特定したか
- [ ] 商標法第50条第2項による立証責任の所在(商標権者側)を理解しているか
- [ ] 商標法第2条第3項の「使用」の定義(輸入・広告掲載を含む)を踏まえ、対象行為を洗い出したか
- [ ] 使用証明資料の類型(写真、伝票、広告キャプチャ等)を具体的にリスト化したか
- [ ] 表示日時を客観的に証明できる証拠確保の方法(アーカイブ、タイムスタンプ等)を検討したか
- [ ] 資料の保存期間と保存主体を明確にしたか
- [ ] 審判請求時の通知・提出協力の手続とスケジュールを定めたか
- [ ] 審査対象期間(予告登録前3年以内)の特定方法を確認したか
- [ ] 資料収集・提出協力に伴う費用負担を定めたか
- [ ] 提供された取引情報の秘密保持義務を定めたか
- [ ] 取引関係終了後の協力義務の存続期間を定めたか