モデル学習のためにデータを提供する契約書。著作権法第30条の4の情報解析目的の利用と個人情報保護法第18条の利用目的の範囲を踏まえ用途を限定する。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
学習用データ提供契約書
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。データ提供者)と〇〇〇〇(以下「乙」という。AI開発者)とは、乙が行うAIモデルの開発のため、甲が保有するデータ(以下「本データ」という。)を提供することについて、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は乙に対し、乙が行うAIモデルの学習(以下「本学習」という。)の目的のために、別紙に定める本データを提供する。
第2条(本データの内容及び提供方法) 本データの内容、形式及び提供方法(記録媒体、API経由等)は別紙のとおりとする。
第3条(利用目的の限定) 1. 乙は、本データを別紙に定める本学習の目的以外に利用してはならない。 2. 乙は、本データを用いて開発したAIモデルを、別紙に定める用途以外に利用し、又は第三者に提供してはならない。
第4条(著作権法上の位置づけ) 1. 甲及び乙は、乙による本データの複製その他の利用行為が、著作権法第30条の4に定める著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(情報解析の用に供する場合等)に該当する限度において、甲の著作権者としての許諾を要しないことを相互に確認する。 2. 前項の規定にかかわらず、甲及び乙は、本データの提供及び利用の条件について、本契約により別段の合意をすることを妨げない。 3. 乙は、本データの利用が、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当しないよう、本データを学習以外の目的で流通させる等の行為を行わない。
第5条(個人情報が含まれる場合の取扱い) 1. 本データに個人情報が含まれる場合、甲は、当該個人情報を取得した際の利用目的の範囲内で本データを提供するものとし、個人情報保護法第18条に照らして本提供が目的外利用に該当しないことをあらかじめ確認する。 2. 本データの提供が個人データの第三者提供に該当する場合、甲は同法第27条に定める手続(本人の同意取得又は同条各項の除外事由への該当性の確認)を履行する。 3. 乙は、提供を受けた本データに個人情報が含まれる場合、自らも個人情報保護法上の取扱い(安全管理措置等)を遵守する。
第6条(データの正確性等の不保証) 甲は、本データの正確性、完全性又は特定の学習目的への適合性について保証しない。
第7条(対価) 乙は、本データの提供の対価として、別紙に定める金額を甲に支払う。
第8条(再提供及び再配布の禁止) 乙は、甲の事前の書面による承諾なく、本データそのものを第三者に再提供し、又は再配布してはならない。
第9条(セキュリティ管理) 乙は、本データを自己の管理する環境において、不正アクセス防止その他の合理的なセキュリティ対策を講じたうえで保管する。
第10条(利用期間及び返還・廃棄) 1. 本データの利用期間は別紙のとおりとする。 2. 利用期間の満了又は本契約の終了時、乙は本データを甲に返還し、又は甲の指示に従い廃棄し、その旨を証する報告書を甲に提出する。ただし、本データを用いて既に学習を終えた学習済みモデルのパラメータについては、廃棄の対象としない。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行の過程で知り得た相手方の営業上の秘密情報を第三者に開示してはならない。
第12条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. データ提供者向けの修正
A-1. 学習済みモデルの用途制限強化
修正後:「乙は、本データを用いて開発したAIモデルを、甲の書面による事前の承諾なく、甲と競合する事業において利用し、又は競合他社に提供してはならない。」 一言解説: 提供したデータが競合他社の製品開発に間接的に利用されることを防ぐため、学習済みモデルの用途を制限するデータ提供者側の修正である。
A-2. データ由来性の識別困難性を踏まえた誓約の追加
追加条文例:「乙は、本データの学習により生成されたAIモデルの出力が、甲の本データの複製又は翻案と評価されうる内容を含まないよう、技術的に合理的な措置を講じる。」 一言解説: 学習済みモデルの出力が元データの内容を再現してしまう、いわゆる過学習によるリスクを低減する措置を求める修正である。
B. AI開発者向けの修正
B-1. データの品質保証の追加
修正後:「甲は、本データについて、別紙に定める仕様(欠損値の割合、ラベル付けの正確性等)を満たすことを表明し、保証する。仕様に適合しない場合、乙は代替データの提供又は対価の減額を求めることができる。」 一言解説: 学習用データの品質は成果物の精度に直結するため、開発者側は一定の品質保証を求める傾向がある。
B-2. 学習済みモデルのパラメータの継続利用権の明確化
修正後:「第10条の規定にかかわらず、本データを用いて学習した結果得られた学習済みパラメータは、本契約終了後も乙が継続して利用することができる。」 一言解説: 契約終了時に元データを返還・廃棄したとしても、既に学習によって得られたモデルのパラメータ自体は開発者が継続利用できることを明確化する修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、AIモデルの学習を目的として、データ保有者から開発者に対し画像、テキスト、音声等のデータセットを提供する場面で用いる。他方、開発済みの学習済みモデルそのものの利用許諾を行う場面には適さず、AIモデル利用許諾契約書を別途用いるべきである。
根拠法令 本契約の中核となる法令は著作権法第30条の4である。同条は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について、情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。)の用に供する場合を含め、必要と認められる限度において、著作権者の許諾を得ることなく利用できる旨を定めている。もっとも、同条ただし書は、著作権者の利益を不当に害することとなる場合にはこの限りでない旨を定めており、学習用データベースとして販売されている著作物を、その市場と競合する形で利用する場合等には、ただし書の適用により権利制限が及ばない可能性がある点に注意が必要である。また、本データに個人情報が含まれる場合には、著作権法上の議論とは別に、個人情報保護法上の規律(利用目的の制限、第三者提供の制限)が適用される。同法第18条は個人情報を取得した際の利用目的の範囲内での取扱いを求め、同法第27条は個人データの第三者提供にあたり原則として本人の同意を要する旨を定めている。著作権法第30条の4により著作権者の許諾が不要とされる場合であっても、個人情報保護法上の義務は別途独立して課される点に留意すべきである。
実務でよくある失敗と対策 第一に、著作権法第30条の4により権利制限が及ぶと安易に判断し、当該データが著作権者の利益を不当に害する態様(市場で販売されているデータベースの無断複製等)で利用されていないかの検討が不十分な失敗がある。第4条第3項のように、ただし書の該当性を踏まえた利用制限を明記することが対策となる。第二に、著作権法上の整理のみに注意が向き、個人情報保護法上の利用目的の範囲や第三者提供規制への対応が抜け落ちる失敗がある。第5条のように両者を書き分けて確認することが対策となる。第三に、契約終了時のデータ廃棄義務を定めたものの、既に学習済みのモデルのパラメータまで廃棄対象に含めるかどうかが曖昧で、開発者が今後の事業継続に不安を抱える失敗がある。第10条第2項及びB-2のように、元データと学習済みパラメータを区別して取扱いを定めることが対策となる。
情報解析目的の利用の範囲及び個人情報保護法上の手続の要否は、データの性質や取得経緯によって個別に判断されるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 本データの内容・形式・提供方法を別紙で具体的に定めたか
- [ ] 利用目的(本学習の内容)を明確に限定したか
- [ ] 著作権法第30条の4の適用範囲及びただし書該当性を確認したか
- [ ] 個人情報が含まれる場合の利用目的の範囲(個人情報保護法第18条)を確認したか
- [ ] 個人データの第三者提供に該当する場合の同意取得手続(同法第27条)を確認したか
- [ ] データの品質保証の有無及び範囲を確認したか
- [ ] 学習済みモデルの用途制限(競合利用の禁止等)を検討したか
- [ ] 再提供・再配布の禁止を明記したか
- [ ] 契約終了時の返還・廃棄義務と学習済みパラメータの扱いを区別したか
- [ ] セキュリティ管理の水準を確認したか