音源のマスター権利をレーベルや制作会社へ移転する場面の契約書。著作権法第96条以下のレコード製作者の権利の帰属範囲を明確化します。

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原盤権譲渡契約書

第1部: 書式本文

【制作者名】(以下「甲」という。)と【レコード会社・音楽制作会社名】(以下「乙」という。)とは、甲が製作した下記音源の原盤(以下「本原盤」という。)に係る権利の譲渡に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。

記 楽曲名: 【楽曲名】 録音日・録音場所: 【日付・場所】 実演者: 【実演者名】 音源データ形式: 【WAV等】

第1条(目的) 本契約は、甲が製作したレコード製作者としての本原盤に係る権利を乙に譲渡し、乙が対価を支払うことを目的とする。

第2条(譲渡の対象) 甲は乙に対し、本原盤について甲が有する著作権法第96条以下に定めるレコード製作者の権利、すなわち複製権(第96条)、送信可能化権(第96条の2)、譲渡権(第97条の2)及び貸与権等報酬請求権(第97条の3)を含む一切の権利を譲渡する。

第3条(譲渡の範囲) 1. 前条の譲渡は、本原盤の全部について、地域及び期間の限定なく行うものとする。 2. 本原盤を利用した二次的制作物(リミックス、サンプリング等)に係る権利の帰属は、別途甲乙協議のうえ定める。

第4条(対価) 乙は甲に対し、本契約締結及び本原盤に係る権利の譲渡の対価として、金【 】円(消費税別)を、【本契約締結日から30日以内】に、甲の指定する銀行口座へ振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

第5条(実演家の権利との関係) 1. 本原盤に収録された実演について、実演家人格権(著作権法第90条の2、第90条の3)は実演家に帰属し、本契約による譲渡の対象に含まれない。 2. 甲は、本原盤の製作にあたり、実演を行った実演家から著作権法第91条ないし第95条に定める録音権、放送権、送信可能化権及び報酬請求権等について、乙による本原盤の利用に必要な範囲の許諾又は権利処理を完了していることを表明し、保証する。 3. 前項の表明保証に反し、実演家との間で権利処理未了が判明し乙に損害が生じた場合、甲はこれを賠償する責任を負う。

第6条(権利の非侵害の保証) 甲は、本原盤が第三者の著作権、著作隣接権その他の権利を侵害するものでないこと、及び本原盤に関して第三者との間で権利紛争が存在しないことを表明し、保証する。

第7条(著作者人格権の不行使) 甲は、本原盤の製作過程で甲が著作者人格権を有する場合には、乙及び乙から権利を承継し又は許諾を受けた第三者による本原盤の利用に関し、当該著作者人格権を行使しない。

第8条(クレジット表記) 乙は、本原盤を利用した商品又はサービスにおいて、甲及び実演家の氏名又は名称を、業界の慣行に従い適切な方法で表示する。

第9条(著作権登録協力) 本契約に基づく権利の移転につき著作権法上の登録手続を要する場合、甲は乙の求めに応じて必要な書類の作成等に協力する。

第10条(契約不適合責任) 本原盤の音源データに滅失、破損その他契約の内容に適合しない事由が判明した場合、乙は甲に対し、相当の期間を定めて修補又は代替物の引渡しを請求できる。

第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の締結及び履行を通じて知り得た相手方の営業上・技術上の秘密を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。

第12条(契約解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後も是正されない場合、本契約を解除できる。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節: レコード会社向け

A-1 第3条第2項の修正例 「本原盤を利用した二次的制作物に係る権利は、乙に独占的に帰属するものとし、甲は乙の事前の書面による承諾なく本原盤を第三者に提供してはならない。」 一言解説: レコード会社としては、買い取った原盤を将来のリミックスやサブスクリプション向け再編集に自由に活用できるよう、二次利用の権利帰属を明確に自社側へ寄せておくことが望ましい。

A-2 第6条の修正例 「甲は、本原盤の製作に使用した楽器演奏、サンプリング音源等について、第三者の著作権又は著作隣接権を侵害していないことを個別に確認したリストを乙に提出するものとする。」 一言解説: 原盤には複数の権利者が関与しうるため、会社側は抽象的な保証条項に加え、権利処理状況を可視化した資料の提出を求めておくと後日の紛争予防に資する。

B節: アーティスト・制作者向け

B-1 第4条の修正例 「対価の支払いに加え、乙が本原盤を利用して得た売上のうち年間【100万円】を超える部分については、甲に対し別途【 】パーセントの追加報酬を支払うものとする。」 一言解説: 買取型の原盤譲渡は一括対価で権利が完全に移転するため、将来大きく売れた場合の還元がない点をアーティスト側は認識し、成功時のアップサイド条項を交渉しておく余地がある。

B-2 第8条の修正例 「乙は、本原盤を利用したすべての媒体において、甲を製作者(プロデューサー)として表示するものとし、表示を怠った場合は速やかに是正措置を講じる。」 一言解説: 原盤権自体を譲渡してもクレジット表示は別問題であり、制作者としての実績表示を確保する条項を独立して定めておくことが重要である。

C節: 音源買取型

C-1 第4条の修正例 「本条の対価をもって、甲は本原盤に係る一切の権利及び将来発生しうる請求権を放棄し、乙に対しその後の利用について一切の異議を申し立てないものとする。」 一言解説: 買取型では対価と権利移転の範囲を一回の取引で確定させる必要があるため、対価条項に権利放棄の趣旨を明記し、後日の追加請求リスクを遮断しておく。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

本書式は、音源のマスター(原盤)そのものに関する権利、すなわち著作権法上のレコード製作者の権利(著作隣接権の一種、第96条以下)を、制作者からレコード会社等へ買取り等の形で移転させる場面に用いる。作詞・作曲に係る音楽著作権(著作権法第2章の著作権)の移転や利用許諾とは法的性質も権利者も異なるため、本書式のみで楽曲の著作権処理が完了するわけではない点に注意を要する。実演家(ボーカリスト、演奏者)の権利は原盤製作者とは別個の著作隣接権(第89条第1項、第90条の2、第90条の3、第91条ないし第95条)であるため、原盤権の譲渡人が実演家自身でない場合、実演家からの許諾取得状況を必ず確認する必要がある。

実務上よくある失敗の一つ目は、原盤権の譲渡人(甲)が実演家との間で録音・利用に関する許諾を得ていないにもかかわらず原盤権のみを譲渡し、譲受人(乙)が後日実演家から利用差止めを受けるケースである。第5条第2項及び第3項のように、実演家との権利処理完了を表明保証事項として明記し、違反時の責任の所在を条項上明確にしておくことが対策となる。二つ目は、譲渡対象となる原盤の範囲(マスター音源のどのバージョン、ミックス違いを含むか等)を曖昧にしたまま契約し、後日追加のバージョンについて別途対価を求められるトラブルである。第2条・第3条のように、譲渡対象を録音日・実演者・データ形式まで具体的に特定しておく必要がある。三つ目は、買取型で一括対価を支払ったにもかかわらず著作権法上の登録・移転手続を怠り、対抗要件の不備により第三者に対抗できなくなるケースであり、第9条のような登録協力条項を設けておくことが望ましい。

原盤権の評価額や実演家への配分割合の相場観は業界慣行や個別契約の積み重ねによって大きく異なるため、契約締結前に個別事案について専門家に確認することを推奨する。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 譲渡対象の原盤を録音日・実演者・データ形式まで具体的に特定したか
  • [ ] 実演家からの録音権・利用許諾の権利処理が完了していることを確認したか
  • [ ] 実演家人格権が譲渡対象外である旨を明記したか
  • [ ] 二次的制作物(リミックス、サンプリング等)の権利帰属を定めたか
  • [ ] 対価の金額・支払期日・支払方法を明記したか
  • [ ] 権利非侵害の表明保証及び違反時の責任分担を定めたか
  • [ ] クレジット表記の方法及び媒体範囲を定めたか
  • [ ] 著作権法上の移転登録手続への協力義務を定めたか
  • [ ] 音源データの契約不適合(破損・欠落等)への対応方法を定めたか
  • [ ] 買取型か将来収益連動型かを対価条項で明確に選択したか