退去時に請求された修繕費が過大な場合に、国土交通省の原状回復ガイドラインと民法第621条を根拠に負担範囲の見直しを求める書面です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
原状回復費用に対する異議通知書
第1部: 書式本文
原状回復費用に対する異議通知書
【賃貸人住所】 【賃貸人氏名・名称】 御中
【作成日:西暦年月日】
【賃借人住所】 【賃借人氏名・名称】 印
件名: 原状回復費用請求に対する異議申立てについて
賃借人は、賃貸人から【請求書送付日】付で受領した原状回復費用の請求(以下「本請求」という。)につき、下記のとおり異議を述べる。
- 賃借人と賃貸人は、【物件所在地】について【契約締結日】付賃貸借契約を締結し、賃借人は【明渡日】に本物件を明け渡した。
- 賃貸人は本請求において、原状回復費用として合計金【請求金額】円を賃借人に請求している。
- 本請求の内訳は、下記のとおりである。
- 【費目1、例:クロス張替え費用】 金【金額】円
- 【費目2、例:フローリング補修費用】 金【金額】円
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、賃借人が負担すべき原状回復費用は、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用方法を超えるような使用による損耗・毀損(いわゆる特別損耗)に限られ、建物・設備等の経年変化及び通常の使用による損耗(通常損耗)は賃料に含まれるものとして賃貸人が負担すべきものとされている。
- 民法第621条ただし書きは、賃借人が原状回復義務を負う範囲から、通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化を除外している。
- 上記費目のうち、【異議対象費目】については、下記の理由により通常損耗又は経年変化に該当し、賃借人が負担すべきものではないと考える。
- クロスについては、同ガイドラインが目安として示す耐用年数(6年)を経過しており、経過年数に応じた残存価値割合を考慮すると、賃借人の負担割合は【割合】にとどまるべきである。
- フローリングの補修についても、通常の歩行による自然な損耗の範囲内であり、特別損耗を基礎づける事情は確認できない。
- よって賃借人は、本請求のうち金【異議対象金額】円について異議を述べ、原状回復費用として賃借人が負担すべき金額を金【賃借人が認める金額】円に修正するよう求める。
- 賃貸人は、本書面到達後【回答期限、例:14日】以内に、各費目の経過年数、施工範囲、損耗の発生原因を明らかにした書面又は写真資料を交付されたい。
- 賃貸人が敷金から本請求額を控除済みである場合、賃借人は、上記修正後の金額を超える控除分について返還を求める。
- 本請求のうち、【異議のない費目】については、賃借人の負担であることを認め、速やかに支払う用意がある。
- 賃借人は、入居時の状況確認書及び写真【資料名】を保有しており、必要に応じて賃貸人へ提示する用意がある。
- 上記期限までに合理的な説明又は再計算がない場合、賃借人は、消費生活センター、住宅紛争審査会等への相談を含む次の対応を検討する。
以上
本異議に対する回答送付先 【送付先住所】 【担当者名】 【電話番号・メールアドレス】
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 異議を述べる賃借人
修正文例:
賃借人は、入居時に作成された【入居時状況確認書・写真】を保有しており、当該箇所の損耗は入居前から存在していたものであることを確認している。したがって、当該費目については賃借人の負担対象から除外されるべきである。
一言解説: 入居時のチェックシートや写真は、損耗が入居後に生じたものか否かを立証するうえで最も有力な資料となるため、保有の有無を必ず確認して引用する。資料が手元にない場合でも、賃貸人・管理会社が入居時に作成した重要事項説明資料や物件状況報告書の開示を求めることで、代替資料を確保できることがある。
B. 請求した賃貸人
修正文例:
賃貸人は、賃借人からの異議を受け、各費目についてガイドラインの経過年数表に基づく再計算を行った結果、費目【費目名】の負担割合を【修正後割合】に修正する。ただし、賃借人の故意又は重過失による損傷部分については、従前どおり賃借人の全額負担を求める。
一言解説: 賃貸人側から発する場合は、ガイドラインの考え方を先に示したうえで、特別損耗にあたる部分とそうでない部分を分けて回答すると、以後のやり取りが円滑になりやすい。全額を維持する回答を送ると紛争が長期化しやすいため、経過年数表に基づく再計算の過程を数値で示し、賃借人が納得できる説明を添えることが望ましい。
第3部: 異議通知書の書き方に関する解説
使う場面・使わない場面
本書式は、退去時に賃貸人から提示された原状回復費用の請求書・見積書の内容に、賃借人が具体的に不服を感じる場合に使用する。単に金額が高いという印象だけでなく、費目ごとに通常損耗・経年変化に該当するかを検討したうえで送付する必要がある。反対に、賃借人の故意・過失による明白な破損(例: 壁への穴あけ、ペット飼育による傷)についてまで一律に異議を唱えると、かえって以後のやり取りにおける信頼を損なうため、対象を絞り込むことが重要である。
根拠法令
本書式の中心的な根拠は、民法第621条ただし書きが定める通常損耗・経年変化の賃借人負担除外である。加えて、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、法的な強制力を持つ規範ではないものの、多くの民事訴訟・調停において負担割合の判断基準として参照されており、クロスやカーペットの耐用年数を6年とみなし、経過年数に応じて賃借人の負担割合を逓減させていく考え方(経過年数と入居年数による負担割合の算定)が広く用いられている。
実務でよくある失敗と条項上の対策
第一に、請求金額全体に漠然と反論し、かえって論点が拡散する失敗がある。第3項・第6項のように費目ごとに内訳を明示し、異議対象を限定することでこれを避ける。第二に、ガイドラインの経過年数の考え方を引用せずに感覚的な反論に終始する例が多いが、第4項・第6項のように耐用年数や残存価値割合の考え方を具体的に示すことで説得力が増す。第三に、証拠資料の提出を求めずに一方的に金額を否定すると水掛け論になりやすいため、第8項のように賃貸人へ根拠資料の開示を求める条項を設けておく。第四に、賃借人の故意・過失による損傷部分まで一律に争ってしまい、かえって全体の主張の信用性を下げてしまう例がある。第10項のように、賃借人が負担を認める費目を明示して切り分けることで、異議対象の正当性を際立たせることができる。
具体的な負担割合や耐用年数の当てはめは物件・設備の種類によって異なるため、個別事案は専門家又は住宅紛争処理機関に確認することが望ましい。
第4部: 送付前チェックリスト
- [ ] 賃貸人からの請求書・見積書の内訳を費目ごとに確認したか
- [ ] 入居時の状況確認書・写真等、損耗の発生時期を示す資料を確認したか
- [ ] 各費目が通常損耗・経年変化に該当するかをガイドラインの考え方に照らして検討したか
- [ ] 経過年数・耐用年数を踏まえた負担割合の試算を行ったか
- [ ] 異議対象費目と賃借人が認める費目を明確に区分したか
- [ ] 敷金からの控除の有無及び控除額を確認したか
- [ ] 回答期限を具体的に記載したか
- [ ] 送付方法(内容証明郵便の要否)を検討したか
- [ ] 消費生活センター・住宅紛争審査会等の相談窓口を把握しているか
- [ ] 送付前に弁護士等の専門家による内容確認を経たか