双方が責任追及を行わない前提で契約を解除する書面です。相互免責の範囲、既払金の取扱い、秘密保持の存続を定めます。実務で迷いやすい記載箇所には解説コメントを付しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
合意解除書(相互免責型)
第1部: 書式本文
【当事者A商号・氏名】(以下「甲」という。)と【当事者B商号・氏名】(以下「乙」という。)は、両者間の【契約名称、締結日:令和【 】年【 】月【 】日】(以下「原契約」という。)に関して生じた紛争を解決するため、原契約を合意解除するとともに、次のとおり相互に責任を免除することに合意する(以下「本合意」という。)。
第1条(合意解除) 甲及び乙は、原契約を令和【 】年【 】月【 】日をもって合意により解除する。
第2条(紛争の背景) 本合意は、原契約に関し【紛争の概要:履行の遅延、品質に関する見解の相違等】が生じたことを踏まえ、いずれの当事者の責任であるかを確定させることなく、円満に解決することを目的とする。
第3条(相互免責) 甲及び乙は、原契約の締結、履行及び本条による解除に関し、相手方に対して有する一切の請求権(債務不履行に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権を含むがこれらに限らない。)を放棄し、以後、これを行使しない。
第4条(免責の例外) 前条の免責は、次の各号に掲げるものには及ばない。 1. 本合意締結後に新たに生じた事由に基づく請求権 2. 相手方の故意による不法行為に基づく請求権 3. 本合意自体の不履行に基づく請求権
第5条(既払金の取扱い) 原契約に基づき甲乙間で既に授受された金銭について、次のとおり取り扱う。 【返還を要しない・次のとおり精算する】:金【 】円
第6条(秘密保持) 甲及び乙は、本合意の存在及び内容並びに紛争の経緯について、法令上の開示義務がある場合を除き、第三者に開示しない。
第7条(誹謗中傷の禁止) 甲及び乙は、相手方の名誉又は信用を毀損する言動を行わない。
第8条(清算条項) 甲及び乙は、本合意に定めるもののほか、原契約及び本件紛争に関し相互に債権債務が存在しないことを確認する。
第9条(本合意の性質) 本合意は、いずれの当事者にも法的責任があることを認めるものではなく、円満な解決を図る趣旨のものであることを甲乙相互に確認する。
以上を証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
令和【 】年【 】月【 】日
甲(当事者A) 住所:【 】 商号・氏名:【 】 印 乙(当事者B) 住所:【 】 商号・氏名:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 当事者A(甲)向け
A-1 第4条の修正例 「免責の例外は、相手方の故意又は重過失による不法行為に基づく請求権に限るものとし、単純過失による請求権は本合意による免責の対象に含まれる。」 一言解説: 免責の範囲を広く確保したい当事者としては、免責の例外を「故意」のみに限定せず「重過失」まで含めてしまうと免責の実効性が下がるため、例外事由を「故意」に限定する表現の方が、免責型合意の趣旨に合致する。
A-2 第7条の修正例 「甲又は乙が本条に違反して相手方の名誉又は信用を毀損する言動を行った場合、違反当事者は相手方に対し違約金として金【 】円を支払う。」 一言解説: 相互免責を前提とする和解的な合意においては、事後に一方が対外的に相手方を非難する行為が合意の趣旨を骨抜きにしかねないため、違約金による実効性の担保を求めることが有効である。
B節: 当事者B(乙)向け
B-1 第3条の修正例 「相互免責の対象は、本合意締結時点で当事者が現に認識し、又は合理的な調査により認識し得た請求原因に基づく請求権に限るものとし、将来判明する重大な瑕疵に基づく請求権は含まれない。」 一言解説: 免責を受け入れる側としては、把握していない潜在的なリスク(将来判明する重大な欠陥等)まで無制限に放棄させられることを避けるため、免責の対象を認識可能な範囲に限定する修正が有効である。
B-2 第5条の修正例 「既払金のうち、原契約に基づく対価として合理的な対応関係がないと乙が判断する金額については、本合意締結後14日以内に乙が具体的な返還請求金額を提示し、甲乙協議のうえ確定する。」 一言解説: 既払金の取扱いを一方的に「返還を要しない」と確定させられることに懸念がある当事者は、協議による確定プロセスを残しておくことで、性急な合意による不利益を回避できる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、契約をめぐって当事者間に見解の相違や紛争が生じたものの、いずれの責任かを明確にしないまま、契約関係を解消し、以後の請求権を相互に放棄することで円満に解決したい場面で使用する。訴訟や調停に至る前の初期段階での紛争解決や、継続的取引関係を将来的に維持したい場合など、対立を先鋭化させたくない場面に適している。他方、損害の発生原因や金額について当事者間に大きな争いがあり、一方当事者に明確な責任があると考えられる場合には、責任の所在を明確にした上で解決金の支払を伴う和解契約書を用いる方が実態に即することが多い。
法的根拠としては、当事者間の合意により権利義務関係を確定させる行為は、民法第695条及び第696条に定める和解契約の性質を有する場合がある。同法第696条は、和解契約が確定効を有し、当事者の一方が和解の目的である権利を有しないことが確定した場合であっても、その当事者がその権利を有するものと認めて和解した以上、その権利を失わない旨を定めており、相互免責による解決の法的安定性を支える規定として参考になる。もっとも、和解の確定効が及ぶ範囲は当事者が争いの対象として認識していた事項に限られ、認識していなかった事項にまで当然に及ぶものではないと解されているため、第4条のような免責の例外規定を設けることが実務上重要である。相互免責を定める場合であっても、故意による不法行為に基づく損害賠償請求権をあらかじめ包括的に放棄させる条項は、公序良俗(民法第90条)に照らして無効と判断される可能性がある点にも留意が必要である。
よくある失敗の第一は、相互免責の対象を「一切の請求権」とのみ記載し、本合意締結後に新たに判明した重大な問題についてまで免責の対象に含まれるかどうかが不明確なまま紛争が再燃することである。第4条のように免責の例外を具体的に列挙することが対策となる。第二に、既払金の取扱いを曖昧にしたまま清算条項のみで処理し、後日いずれかの当事者から返還請求を受ける例がある。第5条のように既払金の取扱いを明記すべきである。第三に、秘密保持や誹謗中傷禁止の条項を欠いたまま合意し、一方当事者が事後に紛争の経緯をSNS等で公表し、円満解決の趣旨が損なわれる例がある。第6条・第7条のような条項を設け、必要に応じて違約金による担保を検討すべきである。免責範囲の設計や公序良俗との関係については、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 紛争の背景及び解決の趣旨(責任を確定させないこと)を明記した
- [ ] 相互免責の対象となる請求権の範囲を具体的に定めた
- [ ] 免責の例外(故意による不法行為、本合意自体の不履行等)を列挙した
- [ ] 既払金の取扱い(返還要否、精算額)を明記した
- [ ] 秘密保持義務の範囲及び法令上の開示義務との関係を確認した
- [ ] 誹謗中傷禁止条項及びその実効性を担保する違約金の要否を検討した
- [ ] 清算条項の対象が本合意締結時点で認識可能な事項に限られるか確認した
- [ ] 故意による不法行為に基づく請求権の包括的放棄が公序良俗に反しないか確認した
- [ ] 記名押印者が契約締結権限を有することを確認した
- [ ] 将来判明する重大な瑕疵等への対応方針を検討した