個人事業を廃業し設備・在庫・取引先を第三者へ譲る場面の書式。民法第555条の売買を基礎に、債務の承継範囲と競業避止の扱いを定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
廃業に伴う事業譲渡契約書(個人事業)
第1部: 書式本文
譲渡人〇〇〇〇(個人事業主、以下「甲」という。)と譲受人〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、甲が営む【事業の内容】(以下「本件事業」という。)の廃業に伴う事業譲渡について、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(事業の譲渡) 甲は、乙に対し、本件事業に関する別紙資産目録記載の設備、在庫、什器備品及び屋号の使用権(以下「本件資産等」という。)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。
第2条(譲渡代金) 本件資産等の譲渡代金は総額【譲渡代金】円とし、乙は甲に対し【支払方法・期限】に従って支払う。
第3条(取引先の引継ぎ) 甲は、乙に対し、本件事業に係る主要な取引先のリストを開示し、乙が円滑に取引を継続できるよう、【引継期間】の範囲で紹介その他の協力を行う。
第4条(従業員の取扱い) 甲が本件事業のために雇用していた従業員がいる場合、当該従業員の乙への転籍については、甲及び乙が個別に当該従業員との間で労働条件を確認し、当該従業員の同意を得て行う。甲は、事業譲渡が労働契約の当然承継を伴わないことを従業員に説明する。
第5条(債務の承継範囲) 本件事業に関する債務のうち、乙が承継するものは別紙debt目録記載の債務に限るものとし、それ以外の甲の債務は甲が引き続き負担する。乙は、甲の別紙記載外の債務について弁済の責任を負わない。
第6条(屋号・商号の使用) 乙は、本契約締結後、本件事業に係る屋号「【屋号】」を、【使用期間・条件】の範囲で使用することができる。甲は、乙による当該屋号の使用について異議を述べない。
第7条(競業避止義務) 甲は、本契約締結後【期間(例:2年間)】、【地理的範囲】において、本件事業と同種又は類似の事業を自ら営み、又は第三者をして営ませてはならない。
第8条(許認可の取扱い) 本件事業の実施に【業種特有の許認可】が必要な場合、当該許認可は甲に一身専属的なものであり乙に当然に承継されない。乙は、本件事業を継続するにあたり、必要な許認可を自ら取得する。
第9条(廃業手続) 甲は、本契約締結後、税務署への廃業届出書の提出その他の個人事業の廃業に必要な手続を自らの責任において行う。
第10条(表明保証) 甲は、乙に対し、本件資産等について適法かつ完全な権利を有し、担保権その他の第三者の権利が付着していないことを表明し保証する。
【契約日】
甲: 【住所・氏名】 印 乙: 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 譲渡人(廃業する個人事業主)向けの修正
A-1. 廃業後の残債務に関する免責の明確化
追加条文例:「乙は、別紙債務目録に記載のない甲の債務について、本契約締結後に乙が本件事業を承継したことを理由として弁済の請求を受けた場合、甲に対しその旨を通知し、甲は自らの責任と負担で処理する。」 一言解説: 事業譲渡後も債権者から乙に対して請求が及ぶ可能性があるため、譲渡人側は自己の残債務についての一次的な処理責任を明記する修正である。
B. 譲受人向けの修正
B-1. 在庫・設備の検収条項
追加条文例:「乙は、本契約締結日から【検収期間】以内に本件資産等を検収し、資産目録との不一致又は瑕疵を発見した場合、甲に通知の上、譲渡代金の減額又は契約の一部解除を求めることができる。」 一言解説: 個人事業の廃業に伴う譲渡では資産の状態確認が簡略化されがちであるため、譲受人側は検収と是正の機会を明記する修正を行う。
B-2. 競業避止義務の実効性確保
修正後:「甲が第7条の競業避止義務に違反した場合、乙は甲に対し違約金として金【違約金額】円を請求できるほか、差止めを求めることができる。」 一言解説: 競業避止義務違反による損害の立証は困難であるため、譲受人側はあらかじめ違約金額を定めて実効性を高める修正である。
C. 従業員・取引先窓口向けの修正
C-1. 従業員への説明機会の確保
追加条文例:「甲及び乙は、本契約締結後速やかに、本件事業に従事する従業員に対し合同で説明会を開催し、雇用契約の承継の有無、労働条件及び転籍の可否について説明する。」 一言解説: 事業譲渡による転籍は従業員の個別同意を要するため、混乱を避けるべく早期の説明機会を設ける修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、個人事業主が廃業に際して事業用資産、取引先関係及び屋号を第三者へ有償で譲渡する場面で用いる。法人の事業譲渡とは異なり会社法上の株主総会決議等の手続は不要だが、事業に用いる許認可が個人に付与されている場合はその承継ができない点で法人の場合と大きく異なる。単なる不動産や設備の売却にとどまり、取引先関係や屋号などの事業の一体性を伴わない場合には、通常の売買契約書を用いれば足り、本書式を用いる必要はない。
根拠法令 事業譲渡そのものについて個人事業主を対象とする特別の法律はなく、民法第555条の売買契約及び諸規定の組合せとして構成される。もっとも、事業に用いる許認可(飲食店営業許可、建設業許可、古物商許可等)は多くの場合申請者本人に対して付与される一身専属的な性質を持ち、食品衛生法、建設業法その他の業法により許認可の再取得が必要となることが一般的である。労働契約については、事業譲渡は合併とは異なり労働契約が当然に承継されるものではなく、個々の従業員の同意を得て転籍(民法第625条第1項の使用者の地位の譲渡に準じる取扱い)の手続を要する。競業避止義務については、事業譲渡に関する会社法第21条のような明文規定は個人事業主には直接適用されないため、本契約のように契約条項として明記しなければ、譲渡人が同種事業を再開することを制限する法的根拠がない点に留意する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、事業譲渡により許認可も当然に承継されると誤解し、譲受人が営業開始前に必要な許認可を取得しておらず無許可営業となってしまう失敗がある。第8条のように許認可が一身専属的である旨を明記し、譲受人が自ら取得手続を進めることが対策となる。第二に、譲渡人の事業に関する債務の範囲が曖昧なまま契約し、譲渡後に想定外の債務について譲受人へ請求が及ぶ失敗がある。第5条及びA-1のように承継する債務を目録で限定し、範囲外債務についての処理責任を明記することが対策となる。第三に、競業避止義務を定めたにもかかわらず違反時の効果が不明確で、実際に同種事業を再開されても差止めや損害賠償の実効性が乏しい失敗がある。B-2のように違約金と差止めの双方を明記することが対策となる。
必要な許認可の種類や事業譲渡に伴う税務上の取扱いは業種により異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 譲渡対象となる資産(設備・在庫・什器備品)の目録を作成したか
- [ ] 承継する債務の範囲を目録で明確にしたか
- [ ] 本件事業に必要な許認可の性質(一身専属性の有無)を確認したか
- [ ] 譲受人が必要な許認可の取得手続を進めているか確認したか
- [ ] 従業員がいる場合、転籍の同意取得手続を検討したか
- [ ] 屋号・商号の使用継続の可否及び期間を定めたか
- [ ] 競業避止義務の期間・地理的範囲・違反時の効果を定めたか
- [ ] 取引先への引継ぎ方法及び協力期間を定めたか
- [ ] 譲渡人による廃業届出等の税務手続の実施を確認したか
- [ ] 資産の検収及び瑕疵発見時の対応方法を定めたか