新旧の債務者が連帯して支払義務を負う形で信用を補完する契約書。民法第470条の併存的債務引受と連帯債務の絶対的効力事由の取扱いを整理します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
併存的(重畳的)債務引受契約書
第1部: 書式本文
【債権者商号】(以下「甲」という。)、【原債務者商号】(以下「乙」という。)及び【引受人商号】(以下「丙」という。)は、乙の甲に対する債務を丙が引き受け、乙丙が連帯して負担することに関し、次のとおり併存的債務引受契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(対象債務の確認) 甲乙丙は、【〇〇年〇〇月〇〇日】付【契約名】に基づく乙の甲に対する債務(元本金【 】円及びこれに付帯する利息・遅延損害金。以下「本件債務」という。)が存在することを相互に確認する。
第2条(併存的債務引受) 丙は、本件債務と同一内容の債務を負担し、乙の債務と併存させる。乙及び丙は、本件債務について連帯債務者としてこれを負担する。本契約は民法第470条第1項に定める併存的債務引受として締結する。
第3条(契約の成立) 本契約は、甲乙丙の三者間の合意により成立するものとし、民法第470条第2項(債権者・引受人間の契約による成立)又は同条第3項(債務者・引受人間の契約に債権者が承諾する方式)のいずれによる場合であっても、甲の関与を明確にするため三者契約の形式を採用する。
第4条(連帯債務の内容) 乙及び丙が負担する債務は、民法第436条以下に定める連帯債務とし、甲は乙又は丙のいずれに対しても、又は両者に対して同時若しくは順次に、本件債務の全部又は一部の履行を請求することができる。
第5条(絶対的効力事由) 乙丙間における弁済、相殺その他債務を消滅させる事由は、民法第438条から第440条までに定める絶対的効力事由に該当する場合を除き、他の連帯債務者に対してその効力を生じない(民法第441条・相対的効力の原則)。
第6条(丙の表明保証) 丙は、本契約締結日において、本件債務の引受けが丙の内部手続上適法に決議されたことを表明し保証する。
第7条(乙丙間の負担部分) 乙及び丙は、乙丙間における本件債務の負担部分を、乙【 】割、丙【 】割とする。当該負担部分は甲乙丙間の関係には影響せず、甲は乙丙いずれに対しても全額の履行を請求できる。
第8条(求償権) 乙又は丙が自己の負担部分を超えて本件債務を弁済したときは、民法第442条に基づき、他方に対しその超過額について求償することができる。
第9条(担保及び保証への影響) 本件債務に付されていた担保及び保証は、乙の債務を担保する範囲でその効力を存続する。丙が新たに負担する債務について担保又は保証を付す場合は、別途これを定める。
第10条(反社会的勢力の排除) 甲、乙及び丙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当しないことを表明し保証する。
第11条(協議及び合意管轄) 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上を証するため本書3通を作成し、甲乙丙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印 (乙) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印 (丙) 住所:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 債権者向け書き換え
A-1. 親会社が子会社の債務に信用補完として加わる場面
第4条追加例:「甲は、本件債務の履行遅滞が生じた場合、まず丙に対して履行を請求し、丙が支払わないときに限り乙に請求することができる。」 解説: 通常の連帯債務は請求順序の制限がないが、親会社の信用補完を主目的とする場合、実務上の請求フローを明記して回収の効率化を図ることがある(ただし丙の連帯債務者としての地位自体は変わらない)。
A-2. 事業譲渡に伴い譲受会社を追加的に債務者とする場面
第7条修正例:「乙丙間の負担部分は、事業譲渡契約における譲渡対象事業の収益比率に応じ、乙【3】割、丙【7】割とする。」 解説: 事業譲渡の実態に即した負担割合を設定することで、乙丙間の求償関係を合理的に整理する。
B. 引受人向け書き換え
B-1. 引受人が将来的に乙の免責(免責的引受への切替え)を予定する場面
第2条追加例:「甲、乙及び丙は、丙が【〇〇年〇〇月〇〇日】までに本件債務の履行実績を積んだ場合、別途免責的債務引受契約への切替えについて協議する。」 解説: 当初は併存的引受としつつ、将来的に旧債務者を完全に免責する段階的な信用移行のスキームを示す。
B-2. 引受人の負担部分を限定したい場面
第7条修正例:「乙丙間の負担部分は、乙【10】割、丙【0】割とし、丙は名目上の連帯債務者として信用補完のみを目的とする。」 解説: 実質的な負担を負わない信用補完目的の引受けであることを乙丙間で明確化し、求償トラブルを防止する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、既存債務者の信用力を補完するため、別の者が加わって連帯債務者となる場面で用いる。原債務者を完全に免責させる場合は免責的債務引受契約書を用いるべきであり、本書式はなじまない。信用補完の実質を持たせつつ免責までは行わないという中間的な信用強化策として位置づけられる。
根拠法令 併存的債務引受は民法第470条第1項に基づき、引受人が債務者と連帯して同一内容の債務を負担する契約である。同条第2項により債権者と引受人の契約のみでも成立し(この場合債務者の意思に反しても可能)、同条第3項により債務者と引受人の契約に債権者が承諾する方式でも成立するが、本書式では紛争予防のため三者契約の形式をとる。引受け後の乙丙の債務は連帯債務(民法第436条以下)として扱われ、弁済・相殺・混同等の絶対的効力事由(民法第438条から第440条)を除き、原則として相対的効力(第441条)にとどまる。求償権は民法第442条に基づく。
実務でよくある失敗と対策 第一に、併存的債務引受と免責的債務引受を混同し、丙が加わったことで乙が当然に免責されると誤解する失敗がある。第2条のように乙丙が連帯して負担することを明記する。第二に、乙丙間の負担部分を定めずに契約し、後日どちらがどれだけ負担すべきか求償で争いになる失敗がある。第7条のように負担割合を明記する。第三に、連帯債務の絶対的効力事由と相対的効力事由を理解せず、乙に対する時効の完成猶予等が丙にも当然に及ぶと誤解する失敗がある。第5条のように相対的効力の原則を明記し、個別の効力事由については民法の規定を確認する必要がある旨を付記する。連帯債務の効力範囲の判断は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象となる本件債務の発生原因・金額を具体的に特定したか
- [ ] 併存的債務引受であり乙が免責されないことを明確に規定したか
- [ ] 甲の承諾又は契約への関与の方式を明記したか
- [ ] 乙丙が連帯債務者となることを明記したか
- [ ] 乙丙間の負担部分(割合)を定めたか
- [ ] 絶対的効力事由・相対的効力事由の考え方を確認したか
- [ ] 求償権の発生要件・範囲を確認したか
- [ ] 既存の担保・保証の存続範囲を確認したか
- [ ] 将来的な免責的債務引受への切替えの可能性を検討したか