一定期間内なら返品できる条件付売買の特約条項。下請法第4条第1項第4号の不当な返品の禁止と大規模小売業告示を踏まえ、返品可能事由を限定します。
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返品条件付売買に関する特約
第1部: 書式本文
返品条件付売買に関する特約
【甲】(以下「甲」という。買主)と【乙】(以下「乙」という。売主)は、甲乙間で別途締結する取引基本契約(以下「基本契約」という。)に基づき甲が乙から購入する商品について、一定の条件のもとで甲が乙に商品を返品できることを次のとおり合意する。
第1条(適用範囲) 本特約は、基本契約に基づき甲乙間で成立する個別売買契約のうち、別紙「返品対象商品リスト」に掲げる商品(以下「対象商品」という。)についてのみ適用する。
第2条(返品可能事由の限定列挙) 甲は、次の各号のいずれかに該当する場合に限り、対象商品を乙に返品することができる。 一 納品された対象商品に品質不良、数量不足その他契約内容と適合しない瑕疵があった場合 二 甲が事前に発注していない商品又は発注内容と異なる商品が誤納品された場合 三 対象商品のうち、乙があらかじめ書面で返品を承諾した季節商品又は催事限定商品であって、販売期間終了後【14】日以内に返品する場合 四 その他甲乙が個別に書面で合意した場合 前項各号に該当しない理由による返品(単なる売れ残り、甲の発注過多、甲の在庫調整を理由とする返品を含むがこれらに限られない。)は、乙の事前の書面による同意がない限り行うことができない。
第3条(返品可能期間) 前条第1項第1号及び第2号の返品は、甲が対象商品を受領した日から【7】営業日以内に乙に通知しなければならない。同項第3号の返品は当該号所定の期間内に行うものとし、期間経過後の返品は原則として認めない。
第4条(返品の手続) 甲は返品を行う場合、返品理由、返品数量及び返品対象商品の識別番号を記載した返品通知書を乙に交付し、乙の指定する方法により対象商品を返送する。返送費用は、第2条第1項第1号及び第2号に基づく返品の場合は乙が負担し、同項第3号及び第4号に基づく返品の場合は甲乙別途合意した割合により負担する。
第5条(返品代金の精算) 乙は、返品を受理した日から【30】日以内に、当該対象商品に係る売買代金相当額を甲に返還し、又は次回以降の甲からの支払債務と相殺する。
第6条(返品に伴う不利益取扱いの禁止) 乙は、甲が本特約に基づき適法に返品を行ったことを理由として、甲との今後の取引数量の削減、取引条件の不利益変更その他甲に対する不利益な取扱いを行ってはならない。
第7条(在庫リスクの原則帰属) 対象商品の在庫リスクは、本特約第2条に定める返品可能事由に該当する場合を除き、甲が商品を受領した時点で甲に帰属するものとし、乙は無制限の返品義務を負わない。
第8条(返品率の上限に関する努力目標) 甲は、対象商品の年間返品率が【5】パーセントを著しく超えないよう発注数量の適正化に努めるものとする。返品率が著しく高い状態が継続する場合、甲乙は取引条件の見直しについて協議する。
第9条(記録の保存) 甲及び乙は、返品に関する通知書、受領書その他の記録を返品完了日から【3】年間保存するものとする。
第10条(有効期間) 本特約の有効期間は基本契約の有効期間と同一とする。基本契約が終了した場合、本特約も同時に終了する。ただし、終了前に生じた返品に関する権利義務は存続する。
第11条(協議事項) 本特約に定めのない事項については、甲乙誠実に協議のうえ定める。
以上、本特約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
【締結日】 甲:【住所・商号・代表者名】(印) 乙:【住所・商号・代表者名】(印)
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 返品する買主(小売業者等)向け
A-1. 催事・季節商品の返品事由を追加する修正 修正後: 「第2条第1項に次の1号を追加する。五 対象商品のうち、乙が甲に対し事前に返品前提での納品であることを書面で明示したPB(プライベートブランド)企画品又は限定企画品について、企画終了後【21】日以内に返品する場合」 一言解説: 通常の返品可能事由だけでは季節性の強い企画商品の在庫調整ニーズに対応できないため、乙の事前承諾を条件に返品事由を追加し、単なる売れ残りリスクの一方的転嫁との誤解を避ける形で明文化する。
A-2. 返品送料の按分ルールの明確化 修正後: 「第4条の返品費用について、第2条第1項第3号による返品の送料は甲乙が均等に負担し、返品数量が甲の直近発注数量の【10】パーセントを超える部分については甲が全額負担する。」 一言解説: 送料負担の割合を数量に応じて逓増させることで、甲が安易に大量返品を行う誘因を抑制し、乙との継続的な取引関係の安定に資する趣旨である。
B. 引き取る売主(納入業者・メーカー)向け
B-1. 返品事由該当性の疎明義務を課す条項 追加条文例: 「甲は、第2条第1項第1号に基づき返品を行う場合、瑕疵の内容が確認できる写真その他の資料を返品通知書に添付しなければならない。乙は、疎明資料が不十分な場合、返品の受理を留保することができる。」 一言解説: 品質不良を理由とする返品は乙による事後検証が困難になりがちであるため、疎明資料の提出を義務付けることで恣意的な返品主張を抑止する。
B-2. 返品拒否権及び違約金条項の追加 追加条文例: 「甲が第2条に定める事由に該当しない返品を強行した場合、乙はこれを受理する義務を負わず、また甲に対し当該不当返品に相当する代金額の【20】パーセントに相当する違約金を請求できるものとする。」 一言解説: 下請法が禁止する不当返品を甲が行った場合の実効的な抑止力を持たせるため、受理拒否権に加えて違約金という経済的ペナルティを設ける方式である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本特約は、小売業者・卸売業者等の買主が納入業者・メーカー等の売主から仕入れた商品について、瑕疵や誤納品、季節商品の販売期間終了など限定的な事由に基づき返品を認める場合に用いる。売主が下請法上の「下請事業者」に該当し得る中小規模の製造業者・卸業者である場合には、返品条件の設計に特に慎重さが求められる。逆に、単に「気に入らなければ何でも返品できる」という無制限の返品を認める趣旨で用いることは、売主の経営を不安定化させ、後述する法令違反のリスクを高めるため避けるべきである。
根拠法令 下請代金支払遅延等防止法(下請法)第4条第1項第4号は、親事業者が下請事業者に責めに帰すべき理由がないのに給付を受領した物を返品することを禁止している。同号にいう「返品」は、瑕疵がある場合や発注内容と異なる場合など下請事業者に責任のある事由を除き、原則として認められないと解されており、本特約第2条の限定列挙方式はこの規律に沿ったものである。また、百貨店・スーパー等の大規模小売業者が納入業者から商品を購入する場合には、大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(大規模小売業告示)第4項が、納入業者の責めに帰すべき事由がない返品を不公正な取引方法として禁止しており、独占禁止法第19条の優越的地位の濫用規制とあわせて留意する必要がある。売買契約の一般原則としては、民法第562条以下の契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の規律も返品事由の設計にあたり参照すべきである。
実務でよくある失敗と対策 第一に、返品事由を「その他甲が必要と認めた場合」のような包括条項のみで定め、実質的に無制限の返品を認めてしまう例が多い。返品事由は本書式のように号立てで限定列挙し、包括条項を設けるとしても乙の事前書面同意を要件とすべきである。第二に、返品期限を定めずに長期間経過後の返品を認めてしまい、乙側で在庫管理や次の販路確保が困難になるケースがある。受領後の通知期限を具体的日数で明記することが有効である。第三に、返品率の異常な高止まりを放置し、実質的に委託販売と変わらない取引実態になっているにもかかわらず買取仕入契約を維持し続け、下請法違反や実態と契約の乖離を指摘されるリスクがある。返品率の定期的なモニタリングと取引条件見直しの協議条項を設けておくことが望ましい。
個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象商品の範囲をリスト等で具体的に特定したか
- [ ] 返品可能事由を号立てで限定列挙し、包括条項の濫用を防ぐ設計にしたか
- [ ] 返品通知の期限(受領後何営業日以内か)を明記したか
- [ ] 返品送料・費用の負担者及び按分ルールを定めたか
- [ ] 返品代金の返還又は相殺の方法・期限を明記したか
- [ ] 返品を理由とする不利益取扱いの禁止条項を設けたか
- [ ] 下請法上の親事業者・下請事業者に該当するか資本金区分を確認したか
- [ ] 大規模小売業告示の適用対象取引に該当するか確認したか
- [ ] 返品事由該当性の疎明資料提出義務を定めたか
- [ ] 返品記録の保存期間を定めたか
- [ ] 基本契約との適用関係・優先関係を明記したか