医療機関が非常勤医師へ外来や健診、当直業務を委託する際の契約書。医師法の名義貸し禁止と偽装請負の回避に配慮し、勤務日・報酬・医師賠償責任保険の負担を定める。

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非常勤医師業務委託契約書

第1部: 書式本文

医療法人【 】(以下「甲」という。)と医師【 】(以下「乙」という。)は、乙が甲の運営する【医療機関名】において非常勤の医師として外来診療等の業務を行うに当たり、次のとおり業務委託契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(委託業務) 甲は乙に対し、次の各号に掲げる業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。 (1) 【曜日・時間帯】における外来診療業務 (2) 健康診断業務 (3) 当直業務(甲乙間で別途合意した場合に限る。)

第2条(業務遂行の裁量) 乙は、本業務の遂行方法(診療の順序、診断及び治療方針の決定等)について、医師としての専門的知見及び裁量に基づき自らの判断で行うものとし、甲は、乙の個別の診療内容について、具体的な指揮命令を行わない。

第3条(指揮命令の不存在の確認) 甲及び乙は、本契約が業務委託契約であり、乙が甲の指揮命令下で労働に従事する雇用契約ではないことを相互に確認する。ただし、勤務日時の調整、診療のための院内設備の利用ルールその他業務遂行上必要最小限の調整については、甲が乙と協議のうえ行うことができる。

第4条(報酬) 1. 乙の報酬は、【日当【 】円/時間単価【 】円】に、乙が実際に本業務に従事した日数又は時間数を乗じて算定する。 2. 甲は、乙に対し、前項の報酬を毎月末日締め、翌月【 】日までに乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。

第5条(業務日程の調整) 乙が本業務に従事する日時は、甲乙協議のうえ、月単位でシフトを調整するものとし、乙は、あらかじめ合意した日時以外について本業務への従事を義務付けられない。

第6条(医師賠償責任保険) 1. 乙は、自らの診療行為に起因する医療過誤に備え、自己の負担により医師賠償責任保険に加入するものとする。 2. 甲は、甲が付保する医療機関総合保険等の適用範囲に乙の診療行為が含まれるか否かを乙に事前に開示し、含まれない場合は前項の乙の付保状況を確認する。

第7条(管理者及び名義貸しに関する確認) 1. 乙は、医療法上の管理者(院長等)として届け出られる者ではなく、名義のみを甲の管理者として提供するものではないことを確認する。 2. 甲は、乙を管理者として医療機関の開設許可等の届出を行う場合、乙が実際に管理者としての業務(医療安全管理、職員の監督等)を遂行することを前提とし、実態を伴わない名義貸しに該当する届出を行わない。

第8条(偽装請負の防止) 甲及び乙は、本契約に基づく業務の遂行が、労働者派遣法上の労働者派遣に該当する態様(甲が乙に対し始業・終業時刻や具体的作業方法を逐一指示する等)とならないよう留意するものとし、疑義が生じた場合は速やかに協議する。

第9条(秘密保持) 乙は、本業務を通じて知り得た患者の診療情報その他甲の業務上の秘密を、本契約の期間中及び終了後も第三者に漏らしてはならない。

第10条(契約期間) 本契約の期間は、令和【 】年【 】月【 】日から令和【 】年【 】月【 】日までとする。ただし、期間満了の【 】か月前までに甲乙いずれからも別段の意思表示がないときは、同一条件で更新するものとする。

第11条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後もこれが是正されない場合、本契約を解除することができる。

第12条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が反社会的勢力に該当しないことを表明し、保証する。

令和【 】年【 】月【 】日

甲(医療機関): 【名称・所在地・代表者】 印 乙(医師): 【住所・氏名・医籍登録番号】 印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 医療機関(甲)向けの修正

A-1. 複数の非常勤医師でシフトを組む場合の調整規定

追加条文例:「甲は、複数の非常勤医師との間で本契約と同様の契約を締結する場合、乙の従事日時が他の非常勤医師と重複しないよう、月次のシフト表を作成し乙に共有する。」 解説: 非常勤医師を複数確保して外来を回す運用では、シフトの重複や欠員を防ぐため、シフト表の共有方法をあらかじめ契約に落とし込むことが望ましい。

A-2. 健診業務に特化した報酬体系への変更

修正後:「乙が健康診断業務にのみ従事する場合の報酬は、受診者1名当たり【 】円の出来高制とし、甲は毎月の受診者数に基づき報酬を精算する。」 解説: 健診業務は診療時間よりも受診者数に応じた出来高制になじみやすく、時間単価制と使い分けることで実態に即した報酬設計ができる。

B. 非常勤医師(乙)向けの修正

B-1. 労働者性を否定する事情を明確化したい医師向けの修正

追加条文例:「乙は、本業務の遂行に当たり、甲が指定する勤務時間以外の時間帯についても他の医療機関での稼働を制限されないものとし、甲は乙に対し兼業を禁止しない。」 解説: 兼業の自由を制限しないことを明記することは、乙の事業者性(労働者性の否定要素)を裏付ける事情の一つとなり得ると考えられる。

B-2. 医師賠償責任保険の負担を甲に求める修正

修正後:「甲は、乙の診療行為に起因する損害賠償責任について、甲が付保する医療機関総合保険の被保険者の範囲に乙を含めるものとし、乙による個別の保険加入を不要とする。」 解説: 保険料負担を回避したい非常勤医師の立場からは、甲の包括保険の適用範囲に自らが含まれることを契約上確認しておくことが望ましい。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面・使ってはいけない場面の解説 本書式は、医療機関が非常勤医師に外来診療、健診又は当直業務を委託する場面で用いる。実態として甲が乙の勤務時間・診療手順を細かく指示し、乙が甲の指揮命令下で稼働する実質が強い場合には、業務委託契約という形式を用いても労働契約と評価されるおそれがあるため、その場合は雇用契約書を用いるべきである。

根拠法令の解説 医療法は、病院又は診療所の管理者につき実際に管理業務を行う医師を充てることを前提としており、実態のない名義のみの管理者選任(いわゆる名義貸し)は医師法及び医療法の趣旨に反すると解される。労働者性の判断は、昭和60年労働基準法研究会報告が示す業務遂行上の指揮監督の有無、報酬の労務対償性、時間的場所的拘束の程度等の考慮要素に照らして実態に即して行われる。また、労働者派遣法は、請負・委託の形式をとりながら実質的に労働者派遣に該当する、いわゆる偽装請負を規制している。

実務でよくある失敗と対策の解説 第一に、実質的に甲の指揮命令下で乙を稼働させることで労働者性が認定され、後日残業代等の請求リスクが顕在化する失敗がある。第2条及び第3条のように、業務遂行方法の裁量及び指揮命令の不存在を明記し、実態としても指示の程度を必要最小限にとどめることが対策となる。第二に、医師賠償責任保険の付保主体(病院側か医師個人か)が契約書上不明確なまま診療が開始される失敗がある。第6条のように、甲の包括保険の適用範囲を開示し、含まれない場合の乙の個別加入義務を明記することが対策となる。第三に、非常勤医師が名義上の管理者として扱われ、実態のない名義貸しに該当するリスクを整理していない失敗がある。第7条のように、管理者としての実質的な職務遂行を前提とする旨を確認することが対策となる。労働者性の判断や名義貸しの該当性は個別の実態に左右されるため、個別の事案については顧問弁護士等の専門家に確認しておくことが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 委託業務の内容(外来診療・健診・当直等)を具体的に特定したか
  • [ ] 乙の業務遂行方法に裁量があることを条文上明記したか
  • [ ] 指揮命令が存在しないことを確認する条項を設けたか
  • [ ] 報酬の算定方法(日当・時間単価・出来高)を明確にしたか
  • [ ] 医師賠償責任保険の付保主体を確認したか
  • [ ] 乙を管理者として届け出る場合、実態を伴う職務遂行が前提となっているか確認したか
  • [ ] 偽装請負に該当しないよう業務遂行上の調整範囲を限定したか
  • [ ] 兼業制限の有無を確認したか
  • [ ] 契約解除事由及び更新手続を明記したか
  • [ ] 反社会的勢力排除条項を設けたか