保険募集業務の委託条件を定める契約書です。募集人の管理、手数料、体制整備義務、保険業法上の禁止行為の遵守を規定します。相手方との認識のずれを防ぐ具体的な記載例を示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
保険代理店委託契約書
第1部: 書式本文
〇〇保険株式会社(以下「甲」という。)と〇〇〇〇(以下「乙」という。)とは、乙が甲の保険募集業務を受託することについて、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は乙に対し、甲を所属保険会社とする保険契約の募集に関する業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
第2条(募集人の登録) 乙及び乙の使用人その他乙のために保険募集を行う者(以下「所属募集人」という。)は、保険業法第275条に基づき、本件業務の開始前に募集人としての登録を受けなければならない。乙は、所属募集人の登録状況を常に把握し、登録を欠く者に募集を行わせてはならない。
第3条(所属保険会社の明示) 乙は、保険募集にあたり、保険業法第276条に基づき、甲を所属保険会社とする者である旨を顧客に明示する。乙が複数の保険会社の商品を取り扱う場合、当該複数の所属関係についても明示する。
第4条(情報提供義務) 乙は、保険契約の締結の勧誘に際し、保険業法第294条に基づき、契約概要、注意喚起情報その他顧客の判断に資する情報を、書面の交付その他適切な方法により提供する。
第5条(禁止行為の遵守) 乙及び所属募集人は、保険業法第300条第1項各号に定める行為(不実告知の要求・不告知の教唆、告知妨害、特別利益の提供、不利益事実を告げない乗換募集その他保険契約者等の保護に欠ける行為)を行ってはならない。
第6条(体制整備義務への協力) 乙は、甲が保険業法第100条の2に基づき整備する保険募集の業務運営に関する体制(委託先である乙の指導・管理体制を含む。)に協力し、甲が求める研修の受講、内部規程の遵守及び業務報告を行う。
第7条(手数料) 甲は乙に対し、乙が募集した保険契約について、別紙手数料規程に定める料率により算定した募集手数料を支払う。手数料の支払時期及び方法は別紙のとおりとする。
第8条(再委託の制限) 乙は、甲の事前の書面による承諾なく、本件業務の全部又は一部を第三者に再委託してはならない。
第9条(反社会的勢力の排除) 乙及び所属募集人は、自己が反社会的勢力に該当せず、将来にわたっても該当しないことを表明し、保証する。
第10条(苦情処理及び紛争解決) 乙は、本件業務に関して顧客からの苦情を受けたときは、遅滞なく甲に報告し、甲の指示に従い対応する。
第11条(教育・管理・指導) 甲は、乙及び所属募集人に対し、保険募集の適正化のために必要な教育、管理及び指導を行う権限を有し、乙はこれに応じる。
第12条(監査への協力) 乙は、甲又は甲が指定する第三者が実施する本件業務に関する監査に協力し、必要な資料を提出する。
第13条(契約解除) 甲は、乙が本契約に違反した場合、法令に違反した場合、又は募集人登録を取り消された場合、催告を要せず本契約を解除することができる。
第14条(契約期間) 本契約の有効期間は〇年間とし、期間満了の3か月前までにいずれかの当事者から書面による終了の申出がない限り、同一条件で1年間自動更新される。
第15条(秘密保持) 乙は、本件業務の遂行を通じて知り得た顧客情報及び甲の営業上の秘密情報を、本件業務の目的以外に使用し、又は第三者に開示してはならない。
第16条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 保険会社の立場での修正
A-1. 体制整備義務の履行状況の報告義務化
追加文言:「乙は、第6条に定める体制整備への協力状況について、四半期ごとに甲所定の様式により報告する。」 一言解説: 保険業法第100条の2は保険会社に対し委託先の管理を含む体制整備を求めているため、保険会社は委託先である代理店から定期報告を受ける仕組みを契約上明記し、実効的な管理体制を構築する必要がある。
A-2. 禁止行為違反時の手数料返還条項
追加文言:「乙又は所属募集人が第5条の禁止行為に該当する行為を行い、甲が保険契約者等に対し損害を賠償した場合、甲は当該契約に係る既払手数料の全部又は一部の返還を乙に請求することができる。」 一言解説: 不適正募集による損害賠償リスクを代理店にも一部負担させることで、禁止行為の抑止と損失分担の公平を図る保険会社側の修正である。
B. 代理店の立場での修正
B-1. 手数料料率変更時の事前通知期間の確保
修正後:「甲が手数料規程を変更する場合、変更内容及び適用開始日を、適用開始日の〇日前までに乙に書面で通知する。」 一言解説: 手数料は代理店の収益の根幹であるため、代理店側は一方的な料率変更による収益の急激な悪化を避けるべく、事前通知期間の確保を求める修正を行う。
B-2. 契約解除の要件の明確化
修正後:「甲が第13条に基づき本契約を解除する場合、解除の対象となる違反行為の内容及び根拠を書面で具体的に示すものとし、乙は解除通知受領後〇日以内に弁明の機会を求めることができる。」 一言解説: 保険会社による一方的・恣意的な契約解除から代理店の事業継続の利益を守るため、解除理由の明示と弁明機会の付与を求める修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、保険会社が既存の代理店(法人・個人を問わない)に対し、自社商品の保険募集業務を委託する場面で用いる。新設の代理店を一から立ち上げる場合や、乗合代理店として複数の保険会社と契約を締結する場合には、各所属保険会社ごとに個別の委託契約及び手数料規程の整合性を確認する必要があり、本書式のみで足りない場合がある点に留意する。また、募集人個人と直接雇用契約を締結する場合は、本書式ではなく雇用契約書及び募集人個人の登録手続を別途整える必要がある。
根拠法令 保険募集は保険業法上の規制対象行為であり、まず保険業法第275条により、保険募集を行おうとする者は内閣総理大臣の登録を受けなければならない。委託契約を締結する保険会社は、乙及び所属募集人がこの登録を適法に受けていることを確認する義務を負う。また同法第276条は、保険募集人が募集を行うにあたり所属保険会社等の名称を顧客に明示すべきことを定めており、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店では特に留意が必要である。同法第294条は、保険契約の締結の勧誘に際して契約概要や注意喚起情報等を顧客に提供する情報提供義務を定めており、代理店はこの義務の履行主体となる。同法第300条第1項は、不実告知の要求、告知妨害、特別利益の提供等の募集上の禁止行為を列挙しており、代理店及び所属募集人はこれらに該当する行為を行ってはならない。さらに同法第100条の2は、保険会社に対し、業務の的確な遂行のための体制整備を求めており、平成26年の同法改正以降、委託先である代理店の指導・管理体制の整備もこの体制整備義務に含まれると解されている。委託契約書は、この体制整備義務を履行するための重要な文書の一つと位置付けられる。
実務でよくある失敗と対策 第一に、所属募集人の登録状況の確認が委託時のみにとどまり、契約期間中の異動や退職による無登録者の募集行為を見落とす失敗がある。第2条のように登録状況の継続的な把握義務を明記することが対策となる。第二に、体制整備義務(保険業法第100条の2)への対応として、委託契約書上に協力義務を定めるのみで、実際の報告・監査の仕組みが機能していない失敗がある。A-1及び第12条のように定期報告と監査協力を具体的な手続として定めることが対策となる。第三に、禁止行為(保険業法第300条)への違反が発覚した際の手数料返還や解除の要件が曖昧で、実際の対応に迷う失敗がある。A-2及び第13条のように違反時の措置を条文上明確にすることが対策となる。保険業法上の規制の適用範囲や体制整備義務の具体的内容は監督指針等により更新されることがあるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 乙及び所属募集人全員が保険業法第275条の登録を受けているか確認したか
- [ ] 所属保険会社の明示方法(保険業法第276条)を委託契約及び現場運用で確認したか
- [ ] 情報提供義務(保険業法第294条)の履行方法(書面交付等)を確認したか
- [ ] 禁止行為(保険業法第300条第1項各号)の内容を乙及び所属募集人に周知しているか
- [ ] 体制整備義務(保険業法第100条の2)に基づく報告・監査の頻度と方法を定めたか
- [ ] 手数料規程の内容及び料率変更時の通知方法を確認したか
- [ ] 再委託の可否及び承諾手続を明確にしたか
- [ ] 反社会的勢力の排除条項を設けたか
- [ ] 苦情発生時の報告・対応フローを定めたか
- [ ] 契約解除の要件及び解除時の手数料清算方法を確認したか
- [ ] 秘密保持義務の対象(顧客情報を含む)を確認したか