海外書籍を日本語版として刊行する場面の翻訳許諾契約書。著作権法第27条の翻訳権と第28条の二次的著作物の利用に関する権利を規定。

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翻訳権許諾契約書

第1部: 書式本文

翻訳権許諾契約書

【原著作者又は海外版元名】(以下「甲」という)と【翻訳出版社名】(以下「乙」という)は、甲が著作権を有する著作物「【原著作物名】」(以下「原著作物」という)の日本語への翻訳及び出版に関し、次のとおり契約を締結する。

第1条(定義) 「本翻訳物」とは、原著作物を乙が日本語に翻訳して作成する二次的著作物をいう。

第2条(許諾の内容) 甲は乙に対し、原著作物を日本語に翻訳し、これを書籍として複製・頒布する権利(著作権法第27条の翻訳権に基づく利用の許諾)を許諾する。

第3条(独占的許諾/非独占的許諾) 本許諾は【独占的/非独占的】とする。独占的許諾の場合、甲は本契約期間中、乙以外の第三者に対し日本語への翻訳出版を許諾しない。

第4条(許諾地域) 本許諾の地域的範囲は【日本国内/日本語が主として使用される地域】とし、乙は当該地域外における本翻訳物の頒布について、甲の書面による事前の承諾を要する。

第5条(翻訳の方法) 1. 乙は、原著作物の原語版から直接翻訳するものとし、既存の他言語訳を経由するいわゆる重訳(じゅうやく)は、甲の書面による事前の承諾がある場合に限り行うことができる。 2. 乙が重訳による場合、乙は使用する媒介言語版の書誌情報及び翻訳者名を甲に開示する。

第6条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利) 乙が本翻訳物を利用するにあたっては、著作権法第28条により原著作物の著作者である甲が本翻訳物の利用に関し原著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を有することを確認する。乙が本翻訳物について第三者に利用許諾する場合(電子書籍化、他媒体への翻案等を含む)は、事前に甲の書面による承諾を要する。

第7条(翻訳者の選定及び翻訳の質) 1. 乙は、原著作物の内容及び文体を適切に反映できる翻訳者を選定し、翻訳完了後、翻訳原稿を甲又は甲の指定する者に確認のため提出する。 2. 甲は、翻訳原稿の内容が原著作物の趣旨を著しく損なうと認める場合、修正を求めることができる。

第8条(出版部数・刷数の報告及び印税) 1. 乙は甲に対し、本翻訳物の初版発行部数を【 】部とし、印税として本翻訳物の【定価/実売部数】の【 】%を支払う。 2. 乙は増刷の都度、甲に対し部数及び印税額を報告し、【四半期/半期】ごとに精算する。

第9条(改変・削除の制限) 乙は、翻訳にあたり甲の事前の書面による承諾なく原著作物の内容を要約、削除又は改変してはならない。ただし、日本語表現として自然な訳出のための語順変更等の通常の翻訳作業上の調整はこの限りでない。

第10条(著作者名及び原題の表示) 乙は、本翻訳物の奥付及び表紙に原著作者名、原題及び翻訳者名を表示する。

第11条(契約期間) 本契約の有効期間は本契約締結日から【 】年間とし、期間満了の【 】か月前までに書面による終了の申出がない限り同一条件で更新する。

第12条(契約終了後の在庫処理) 契約終了時に乙が保有する本翻訳物の在庫については、契約終了後【 】か月間に限り頒布を継続できるものとし、当該期間経過後は絶版として扱う。

第13条(解除) 甲又は乙が本契約に違反し、相当の期間を定めた催告後も是正されない場合、相手方は本契約を解除することができる。

第14条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A節: 原著作者・海外版元向け

原著作者・海外版元の立場では、翻訳内容が原著の意図を損なわないことの確認権と、翻訳完了後の二次利用(電子化・映像化等)への関与権を確保することが重要である。

書き換え例(第6条に追加): 「乙は、本翻訳物を原作の抄訳、要約版又は児童向け平易版として二次的に翻案する場合、その都度甲の書面による事前の承諾を得るものとし、当該承諾には別途条件を定めることができる。」

一言解説: 著作権法第28条により、二次的著作物である翻訳物のさらなる利用に関しても原著作者の権利が及ぶため、翻訳物からの再度の翻案を想定し得る場合は契約上明記しておくことで、権利行使の実効性を高められる。

B節: 翻訳出版社向け

翻訳出版社の立場では、投下した翻訳・編集コストを回収するための独占期間の確保と、原著作者側の都合による契約終了リスクへの備えが論点となる。

書き換え例(第3条に追加): 「独占的許諾の期間中、甲が本契約に違反して第三者に日本語への翻訳出版を許諾した場合、乙は甲に対し既に投じた翻訳費用及び編集費用相当額を損害として請求できるものとする。」

一言解説: 独占許諾は債権的な地位に過ぎず、著作権法上当然に第三者への対抗力を持つものではないため、違反時の損害賠償を契約上具体的に定めておくことが実務上の防御策となる。

C節: 独占翻訳権/非独占

独占翻訳権と非独占翻訳権のいずれを選択するかは、原著作物の市場性や翻訳出版社の投資規模により異なる。非独占の場合は複数の翻訳版が併存し得るため、識別のための工夫が必要となる。

書き換え例(非独占許諾の場合、第10条に追加): 「乙は、本翻訳物の書名又は帯において、他の翻訳版と識別可能な形で乙独自の付加価値(訳者解説、監修者名等)を表示することができる。」

一言解説: 非独占許諾では複数の日本語訳が市場に併存する可能性があるため、混同を避け読者の選択に資する表示上の工夫を契約上許容しておくことが望ましい。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

この書式を使う場面/使ってはいけない場面

本書式は、海外で発行された書籍・論文等を日本語版として翻訳出版する場面を想定している。既に日本語版の翻訳権が別の出版社に独占的に許諾されている著作物や、著作権保護期間が満了しパブリックドメインとなっている著作物(この場合は翻訳権許諾自体が不要な場合がある)には適さない。また、学術論文の抄録程度の短文翻訳など、そもそも著作物性や二次的著作物性が問題となりにくい利用には過剰な書式となる可能性がある。

根拠法令の解説

翻訳は著作権法第27条により著作者の専有する権利(翻案権等と並ぶ翻訳権)の対象であり、無許諾での翻訳は原則として著作権侵害となる。また、翻訳によって創作された本翻訳物自体は原著作物とは別の二次的著作物として保護されるが、著作権法第28条により、原著作物の著作者は当該二次的著作物の利用に関し、二次的著作物の著作者(翻訳者又は翻訳出版社)が有するものと同一の種類の権利を有する。このため、翻訳出版社が本翻訳物をさらに電子書籍化・映像化する際には、翻訳者側の権利処理に加え、原著作者側の許諾も別途必要となる点に留意が必要である。

実務でよくある失敗と対策

第一に、重訳(英語訳等の媒介言語からの翻訳)を行う場合に原著作者への開示・承諾を怠り、翻訳の正確性や権利関係をめぐるトラブルに発展するケースがある。対策として第5条のように重訳の可否と開示義務を明記する。

第二に、独占的許諾の地理的範囲(日本国内限定か、海外の日本語話者コミュニティを含むか)を曖昧にしたまま契約し、電子書籍の越境販売時に紛争となるケースがある。対策として第4条のように許諾地域を具体的に定める。

第三に、印税の算定基準(定価ベースか実売部数ベースか)を明記せず、返品や電子版割引販売時の精算で認識の齟齬が生じるケースがある。対策として第8条のように算定基準を明記し、報告頻度も定める。

個別事案は専門家に確認してください。特に重訳の可否や二次的著作物の利用範囲は原著作物の性質・原契約の条件により大きく左右される。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 翻訳権の許諾が独占的か非独占的かを明確にしたか
  • [ ] 許諾地域(日本国内限定か越境販売を含むか)を定めたか
  • [ ] 重訳の可否と媒介言語・開示義務を定めたか
  • [ ] 原著作物の内容を要約・削除・改変する場合の承諾手続を定めたか
  • [ ] 翻訳原稿の事前確認プロセスと修正要求の可否を定めたか
  • [ ] 印税算定基準(定価/実売部数)と報告頻度を明記したか
  • [ ] 本翻訳物のさらなる二次利用(電子化・翻案・映像化)に関する承諾手続を定めたか
  • [ ] 原著作者名・原題・翻訳者名の表示方法を確認したか
  • [ ] 契約終了後の在庫頒布期間と絶版時期を定めたか
  • [ ] 契約期間及び更新条件を確認したか