株式譲渡契約に組み込む表明保証条項のひな型集です。会社組織、財務諸表、税務、労務、知的財産、訴訟等の項目を網羅しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
表明保証条項集(売主用・買主用)
第1部: 書式本文
以下は、株式譲渡契約において売主が買主に対して行う表明保証条項の項目別ひな型である。実際の契約書に組み込む際は、対象会社の事業内容に応じて項目を取捨選択し、重要性基準(【金額】円以上等)や「知る限り」等の限定文言の要否を個別に検討する。
第1条(会社の適法設立及び存続) 売主は、対象会社が日本法に基づき適法に設立され、有効に存続していること、及び対象会社の設立から現在に至るまでの登記事項に法令上の瑕疵がないことを表明し、保証する。
第2条(株式の適法な保有及び処分権限) 売主は、売主が本件株式を適法かつ完全に保有していること、本件株式には譲渡制限その他の負担が存在しないこと、及び本契約の締結及び履行について必要な会社法上の手続(取締役会承認等)を履践していることを表明し、保証する。
第3条(計算書類の適正性) 売主は、対象会社が買主に提出した直近事業年度の計算書類が、日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成され、対象会社の財政状態及び経営成績を重要な点において適正に表示していることを表明し、保証する。
第4条(簿外債務の不存在) 売主は、計算書類に注記又は計上されていない重要な債務(保証債務、係争中の損害賠償請求を含む。)が存在しないことを表明し、保証する。
第5条(税務申告の適正性) 売主は、対象会社が法令上必要な納税申告及び納付を適正な期限内に行っていること、並びに対象会社が国税通則法又は地方税法に基づく更正・決定を受けている場合はその内容を開示済みであることを表明し、保証する。
第6条(労務コンプライアンス) 売主は、対象会社が労働基準法、労働契約法その他の労働関係法令を遵守しており、未払残業代その他の重要な労務債務、及び労働基準監督署からの是正勧告で未対応のものが存在しないことを表明し、保証する。
第7条(知的財産権の帰属) 売主は、対象会社の事業に使用される特許権、商標権、著作権その他の知的財産権について、対象会社が適法にこれを保有し、又は適法な許諾を得て使用しており、第三者の知的財産権を侵害していないことを表明し、保証する。
第8条(重要な契約の有効性) 売主は、対象会社が締結する重要な契約について、対象会社に契約違反が存在せず、本件株式譲渡の実行により当該契約が解除され、又は対象会社に不利な影響を及ぼす条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)の発動事由に該当しないことを表明し、保証する。
第9条(訴訟・紛争の不存在) 売主は、対象会社を当事者とする訴訟、仲裁、調停その他の法的手続が現に係属しておらず、かつ、そのおそれがあると認識している事案が存在しないことを表明し、保証する。
第10条(許認可の保有) 売主は、対象会社の事業の遂行に必要な許認可、登録及び届出を適法に取得又は履践しており、これらの取消し又は効力停止の事由が存在しないことを表明し、保証する。
第11条(反社会的勢力との関係の不存在) 売主は、対象会社及びその役員が反社会的勢力に該当せず、これらと取引その他の関係を有していないことを表明し、保証する。
第12条(表明保証違反時の補償) 売主は、前各条の表明保証のいずれかに違反したことにより買主に損害が生じた場合、【期間】の期間内に請求を受けたものに限り、当該損害を賠償する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 売主向けの修正
A-1. 「知る限り」限定の付加
修正後:「売主が知る限り、対象会社を当事者とする訴訟、仲裁、調停その他の法的手続が現に係属していない。」 一言解説: 売主が現実に認識していない事項についてまで無限定の保証責任を負うことを避けるため、主観的認識を基準とする限定を付す修正である。
A-2. 重要性基準及び補償上限額の設定
追加条文例:「本条に基づく補償責任は、個別の損害額が【金額】円を超える場合に限り発生し、かつ売主の補償責任の総額は譲渡代金の【割合】パーセントを上限とする。」 一言解説: 軽微な違反まで無制限に補償対象とすると売主のリスクが過大になるため、金額基準と上限額(キャップ)を設ける修正である。
B. 買主向けの修正
B-1. 開示例外(ディスクロージャー・スケジュール)の限定運用
修正後:「売主が前条の表明保証の例外として開示できる事項は、買主に対して個別具体的に特定して書面により通知したものに限られ、データルームへの一般的な資料掲載のみをもって開示があったものとはみなさない。」 一言解説: データルームへの資料掲載のみで例外開示があったとみなされると、買主が個別のリスクを認識しないまま表明保証責任が縮減されるおそれがあるため、買主側は開示方法を厳格化する修正を求める。
B-2. 表明保証保険の付保を前提とした条項調整
追加条文例:「買主が表明保証保険に加入する場合、売主は保険会社によるデューデリジェンスに合理的な範囲で協力するとともに、保険約款上必要とされる開示手続に応じる。」 一言解説: 表明保証保険を利用する取引が増えていることを踏まえ、買主側は保険引受けに必要な協力義務を売主に課す修正を行う。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本条項集は、株式譲渡契約(又は事業譲渡契約)の一部として組み込み、対象会社の状態について売主が一定の事実を保証する場面で用いる。会社分割や合併など組織再編行為の対価が株式のみで構成される取引では、表明保証違反時の金銭補償の実効性が乏しくなるため、誓約事項や価格調整条項との組み合わせを別途検討する必要がある。
根拠法令 表明保証条項は会社法上の明文規定に基づくものではなく、契約自由の原則のもとで当事者が合意により創設する契約類型である。もっとも、表明保証違反による損害賠償請求権の法的性質については、民法の契約不適合責任(民法第562条以下)の類推適用の可否や、独立の契約上の合意に基づく債務不履行責任(民法第415条)として構成する見解があり、条項の文言によって適用される法理が異なりうる。また、売主が重要な事実を認識しながら告げなかった場合には、民法第96条の詐欺による取消し、又は錯誤(民法第95条)の主張と表明保証条項に基づく請求が競合する場面も想定される。税務申告の適正性に関する表明保証は国税通則法上の更正・決定(同法第24条、第26条)の可能性と関連し、労務コンプライアンスに関する表明保証は労働基準法上の是正勧告や未払賃金請求権の消滅時効(労働基準法第115条)と関連する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、表明保証の対象事項が抽象的すぎて、違反の有無を事後的に判断できない失敗がある。第3条や第9条のように「重要な点において」「係属しておらず」等、判断基準となる文言を具体化することが対策となる。第二に、補償責任の上限額や請求期間を定めずに契約を締結し、軽微な事項についても無制限の責任を負う結果となる失敗がある。A-2のような重要性基準と補償上限の設定が対策となる。第三に、開示例外の範囲があいまいで、データルームに掲載しただけの資料が開示済みとみなされるか争いになる失敗があり、B-1のような開示方法の厳格化が対策となる。
表明保証条項の効力及び違反時の損害賠償の範囲は契約全体の解釈及び個別の事実関係によって左右されるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象会社の事業内容に応じて必要な表明保証項目を過不足なく選定したか
- [ ] 「知る限り」等の主観的限定を付す項目と無限定とする項目を区別したか
- [ ] 開示例外(ディスクロージャー・スケジュール)の特定方法及び形式を定めたか
- [ ] 補償責任の重要性基準(下限額)及び上限額(キャップ)を検討したか
- [ ] 表明保証違反に基づく請求期間(存続期間)を定めたか
- [ ] 表明保証保険の利用有無を確認し、必要な協力義務を追加したか
- [ ] 税務・労務に関する表明保証と実際のDD結果との整合性を確認したか
- [ ] 反社会的勢力該当性に関する表明保証を含めたか
- [ ] 表明保証違反時の補償と価格調整条項との重複がないか確認したか