イラストレーターへ制作を依頼し利用条件まで定める契約書。著作権法第27条の翻案権の扱いや修正回数、独占範囲を一体で整理します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
イラスト制作・利用許諾契約書
第1部: 書式本文
【発注企業名】(以下「甲」という。)と【イラストレーター氏名】(以下「乙」という。)とは、乙が制作するイラスト(以下「本イラスト」という。)の制作及び利用条件に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
記 制作物の内容: 【キャラクターデザイン/挿絵/パッケージイラスト等】 納品点数: 【 】点 納期: 【 年 月 日】
第1条(目的) 本契約は、甲が乙に本イラストの制作を委託し、その対価及び完成した本イラストの利用条件を定めることを目的とする。
第2条(制作内容及び納期) 1. 乙は、別紙仕様書に従い本イラストを制作し、【 年 月 日】までに甲の指定する形式(データ形式・解像度)で納品する。 2. 甲は、納品後【7】営業日以内に検収を行い、本イラストが仕様書の内容に適合するかを確認する。
第3条(修正) 1. 乙は、甲の求めに応じ、本イラストにつき合計【3】回までの修正を無償で行う。 2. 前項の回数を超える修正、又は仕様書に定めのない追加の要望に基づく修正については、甲乙協議のうえ別途対価を定める。
第4条(対価及び支払方法) 甲は乙に対し、本イラストの制作及び利用条件設定の対価として、金【 】円(消費税別)を、検収完了後【30】日以内に乙の指定する口座へ振り込む方法により支払う。
第5条(権利の帰属方式) 本契約における本イラストに係る著作権の取扱いは、次のいずれかの方式による。 (1) 譲渡型: 本イラストに係る著作権(著作権法第27条の翻案権及び第28条の二次的著作物の利用に関する権利を含む。)は、第4条の対価の支払完了時をもって乙から甲に移転する。 (2) 許諾型: 本イラストに係る著作権は乙に留保し、甲は第6条に定める範囲で本イラストを利用する許諾を得る。 本契約においては【譲渡型/許諾型】を適用するものとする。
第6条(利用範囲) 1. 許諾型による場合、甲は本イラストを【利用媒体・地域・期間】の範囲で利用できるものとする。 2. 甲による利用が前項の範囲を超える場合、甲は乙との間で別途利用許諾条件を協議するものとする。 3. 甲による本イラストの利用が【独占的/非独占的】であるかを本条に定めるものとし、独占的利用の場合、乙は同一又は類似のイラストを第三者に提供しないものとする。
第7条(著作者人格権の取扱い) 1. 乙は、甲又は甲から利用許諾若しくは著作権の譲渡を受けた第三者による本イラストの利用に関し、著作権法第20条に定める同一性保持権を行使しない。ただし、本イラストの本質的な特徴を著しく損なう改変については、乙は事前の協議を求めることができる。 2. 甲は、本イラストの利用にあたり、乙の氏名又は乙が指定するペンネームを、著作権法第19条に定める氏名表示権に基づき、慣行に従い表示する。ただし、媒体の性質上表示が困難な場合はこの限りでない。
第8条(改変及び二次利用) 甲が本イラストを基にトリミング、配色変更、キャラクターの派生デザイン作成等の改変(著作権法第27条の翻案に該当する行為を含む。)を行う場合、譲渡型による場合を除き、乙の事前の書面による承諾を要する。
第9条(再委託の制限) 乙は、甲の事前の承諾なく、本イラストの制作を第三者に再委託してはならない。ただし、乙の管理の下で行う背景作成等の補助的作業についてはこの限りでない。
第10条(権利の非侵害) 乙は、本イラストが第三者の著作権その他の権利を侵害するものでないこと、及び既存のキャラクター等を模倣したものでないことを表明し、保証する。
第11条(契約解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後も是正されない場合、本契約を解除できる。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 発注企業向け
A-1 第5条の修正例(譲渡型を選択する場合) 「本イラストに係る著作権は、著作権法第61条第2項の規定に鑑み、同項に定める第27条及び第28条の権利を含め乙から甲に移転する旨を、対価支払いの有無にかかわらず本契約締結時点で明記する。」 一言解説: 著作権法第61条第2項は、契約書に翻案権・二次的著作物の利用権が譲渡の目的として特掲されていない場合、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定する規定であるため、発注企業が完全な権利移転を望む場合は必ず第27条・第28条を明記する必要がある。
A-2 第6条第3項の修正例 「独占的利用を選択する場合、甲は乙に対し、非独占的利用の場合と比較して【 】円の追加対価を支払うものとする。」 一言解説: 独占利用は乙の営業機会を制約するため、発注企業側は独占範囲に応じた追加対価を条項化しておくことで、後日の増額交渉によるスケジュール遅延を避けやすくなる。
B節: イラストレーター向け
B-1 第3条第1項の修正例 「無償修正の対象は、仕様書に明記された要件との齟齬を是正するものに限るものとし、甲の主観的な好みの変更(色味の印象変更、構図の作り直し等)は追加対価の対象とする。」 一言解説: 修正回数の上限のみを定めると「1回の修正」の範囲を巡って争いになりやすいため、イラストレーター側は無償修正の対象を仕様との齟齬是正に限定する文言を加えておくと無償労働の拡大を防げる。
B-2 第7条第2項の修正例 「乙は、甲が乙の氏名表示を怠った場合、是正までの期間について、甲に対し不表示に相当する損害の賠償を請求できるものとする。」 一言解説: 氏名表示権(著作権法第19条)は人格権であり譲渡できないため、譲渡型で著作権自体を手放した場合でも、乙は表示に関する権利は保持していることを条項上明確にし、実効性を担保しておくとよい。
C節: 譲渡型/許諾型選択
C-1 第5条の修正例(許諾型を選択する場合の限定) 「許諾型による場合、乙は本イラストを乙自身のポートフォリオとして公開し、又は本契約で定めた利用媒体と競合しない範囲で他の媒体に提供することができるものとする。」 一言解説: 許諾型では著作権が乙に留保されるため、乙自身の実績公開や他媒体への提供可否について契約上明確にしておかないと、甲乙間で利用範囲の解釈が食い違いやすい。
C-2 第6条第1項の修正例(許諾型・期間限定利用) 「甲による本イラストの利用期間は【 年 月 日】までとし、期間満了後の継続利用には別途対価の支払いを要するものとする。」 一言解説: 許諾型を選択したにもかかわらず利用期間を定めないと、実質的に譲渡型と同様の無期限利用状態となり、乙が想定した対価体系と乖離するため、期間の明記が重要である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、企業がイラストレーターに新規のイラスト制作を発注し、完成品の権利帰属及び利用条件までを一体として定める場面に用いる。既に完成している素材を利用許諾する取引(ストックイラストの購入等)とは異なり、制作委託というプロセス(仕様策定、納期、修正対応、検収)を含む点に特徴があるため、完成品のライセンスのみを扱う取引には仕様書関連の条項が過剰となる場合がある。
本書式で特に重要なのが、著作権法第27条に定める翻案権の取扱いである。著作権法第61条第2項は、著作権譲渡契約において第27条(翻案権)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が譲渡の目的として特掲されていない場合、これらの権利は譲渡人(イラストレーター)に留保されたものと推定する旨を定めている。そのため、発注企業が完全な権利取得(派生キャラクターの作成、グッズ化等の二次利用を含む)を意図する場合、第5条のように第27条・第28条を明示的に列挙しなければ、意図に反してイラストレーター側に翻案の権利が残ってしまう。
実務上よくある失敗の一つ目は、著作権譲渡型の契約でありながら第27条・第28条の特掲を怠り、発注企業が派生デザインを作成した際にイラストレーターから翻案権侵害を主張されるケースである。前述のとおり、A-1のように第61条第2項を踏まえた明記が対策となる。二つ目は、修正回数の上限のみを定め、「修正」の範囲を限定しなかったために、イラストレーターが際限のない作り直しを無償で強いられるケースであり、B-1のように無償修正の対象を仕様との齟齬是正に限定する工夫が有効である。三つ目は、著作者人格権の不行使特約を設けずに譲渡型契約を締結し、発注企業が本イラストを大幅に改変した際、イラストレーター側から同一性保持権侵害を主張されて利用が事実上止まってしまうケースであり、第7条のような人格権の取扱いに関する条項をあらかじめ整理しておく必要がある。
譲渡型と許諾型のいずれを選択すべきか、独占範囲に応じた対価水準がどの程度が相当かについては取引の個別事情によって異なるため、契約締結前に個別事案について専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 制作内容(点数、仕様、データ形式)及び納期を具体的に定めたか
- [ ] 無償修正の回数及び対象範囲(仕様との齟齬是正に限るか)を明確にしたか
- [ ] 著作権の帰属方式(譲渡型/許諾型)をいずれか明確に選択したか
- [ ] 譲渡型の場合、著作権法第27条・第28条の権利を特掲したか(第61条第2項の推定規定への対応)
- [ ] 許諾型の場合、利用媒体・地域・期間の範囲を具体的に定めたか
- [ ] 独占的利用か非独占的利用かを明記し、対価に反映したか
- [ ] 著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)の取扱いを条項化したか
- [ ] 二次利用(派生デザイン、グッズ化等)の可否と追加対価の要否を定めたか
- [ ] 再委託の可否とその範囲を定めたか
- [ ] 既存キャラクター等の模倣でないことの表明保証を定めたか