遺言や生前贈与で遺留分を侵害された相続人が金銭請求を行う書式。民法第1046条の請求権を内容証明で行使し、第1048条の期間制限に備えます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
遺留分侵害額請求書
第1部: 書式本文
前略 突然のご連絡失礼いたします。私〇〇〇〇(以下「請求者」という。)は、被相続人〇〇〇〇(令和【 】年【 】月【 】日死亡、以下「被相続人」という。)の相続人であり、貴殿(以下「受遺者等」という。)に対し、下記のとおり遺留分侵害額請求権を行使いたします。
第1条(被相続人及び当事者の表示) 被相続人の氏名、最後の住所及び死亡日は別紙のとおりとする。請求者は被相続人の【続柄】であり、受遺者等は【遺言による受遺者又は生前贈与の受贈者である旨】に該当する。
第2条(遺留分算定の基礎財産) 遺留分算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時に有した財産の価額に、民法第1043条から第1045条までの規定に従い、相続開始前1年間にされた贈与(当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与についてはこれを超える期間のものを含む。)及び相続人に対する相続開始前10年間の特別受益に該当する贈与の価額を加え、債務の全額を控除して算定する。基礎財産の額は【基礎財産評価額】円と算定される。
第3条(遺留分割合及び遺留分額) 請求者の遺留分割合は、民法第1042条により【遺留分割合(例:法定相続分の2分の1)】である。したがって、請求者の遺留分額は【遺留分額】円である。
第4条(遺留分侵害額の算定) 請求者が【遺言又は生前贈与】により取得した財産の価額、請求者が民法第900条から第902条までにより算定される具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額及び請求者が承継する債務の額を考慮し、民法第1046条第2項に基づき算定した遺留分侵害額は【侵害額】円である。
第5条(請求の意思表示) 請求者は、受遺者等に対し、本書をもって民法第1046条第1項に基づく遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をする。
第6条(支払方法) 受遺者等は、本書到達後【支払期限(例:1か月以内)】に、請求者が指定する銀行口座に前条の遺留分侵害額を支払うものとする。
第7条(期限の許与に関する留意) 受遺者等が直ちに支払うことが困難な場合、民法第1047条第5項に基づき、家庭裁判所に対して支払期限の許与を求める余地があることを付言する。
第8条(消滅時効に関する確認) 本請求は、請求者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行うものであり、民法第1048条前段の消滅時効にかからないことを確認する。
【発送日】
請求者: 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 請求する遺留分権利者向けの修正
A-1. 内容証明郵便による確定日付の明記
追加条文例:「本書は内容証明郵便(配達証明付)により発送し、令和【 】年【 】月【 】日の配達をもって受遺者等に到達したものとする。」 一言解説: 遺留分侵害額請求権は1年の消滅時効にかかるため、意思表示の到達日を客観的に証明できる内容証明郵便を用いることが権利者側の防御となる。
A-2. 分割払いに応じる場合の担保設定
追加条文例:「請求者は、受遺者等の資力を考慮し、遺留分侵害額を【回数】回の分割払いとすることに応じるが、その場合、受遺者等は【担保物件】に担保権を設定する。」 一言解説: 遺留分侵害額請求権は金銭債権であるため一括請求が原則だが、受遺者等の資力不足に配慮しつつ回収を確実にするため権利者側が担保を求める修正である。
B. 請求を受ける受遺者・受贈者向けの修正
B-1. 支払期限の許与を求める申出
追加条文例:「受遺者等は、本書記載の侵害額の支払について、民法第1047条第5項に基づき家庭裁判所に相当の期限の許与を求める意向がある場合、請求者に対しその旨を【通知期限】までに通知する。」 一言解説: 遺贈又は贈与の目的物が不動産等の換価に時間を要する財産である場合、受遺者等側が法定の期限許与制度を利用する意思を早期に示す修正である。
B-2. 遺留分算定の基礎財産に関する異議留保
追加条文例:「受遺者等は、本書記載の基礎財産評価額及び侵害額の算定根拠について異議を留保し、別途資料の開示を求める。」 一言解説: 請求者側の一方的な評価額に対し、受遺者等側が争う余地を残すための留保条項である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、遺言又は生前贈与により法定相続人の遺留分が侵害された場合に、受遺者又は受贈者に対して金銭の支払を求める場面で用いる。令和元年7月1日施行の改正民法により、遺留分侵害額請求権は現物返還ではなく金銭債権として構成されたため、不動産等の現物の返還を求める場合には本書式ではなく別途の交渉・訴訟対応が必要となる。また、遺留分そのものが放棄されている場合(民法第1049条)や、相続放棄をした者には遺留分がそもそも認められない点にも注意する。
根拠法令 遺留分制度は民法第1042条から第1049条までに規定される。遺留分の割合は直系尊属のみが相続人である場合を除き相続財産の2分の1(第1042条)であり、遺留分算定の基礎財産は相続財産に一定期間内の贈与を加算し債務を控除して算定する(第1043条から第1045条)。遺留分侵害額請求権の行使方法及び算定方法は第1046条に定められ、受遺者等が直ちに履行できない場合の期限の許与は第1047条第5項が定める。行使期間については、第1048条前段が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、後段が相続開始の時から10年の除斥期間を定めており、いずれか早い方の経過により権利は消滅する。
実務でよくある失敗と対策 第一に、遺留分侵害額請求権の1年の消滅時効(民法第1048条前段)を徒過してしまう失敗がある。第8条及びA-1のように、内容証明郵便で到達日を明確にし、時効完成前に確実に意思表示を行うことが対策となる。第二に、遺留分算定の基礎財産に含めるべき生前贈与の範囲(相続人に対する贈与は原則10年、第三者に対する贈与は原則1年)を誤って算定し、後日算定額を巡って争いになる失敗がある。第2条のように算定根拠を明確にし、必要に応じて不動産鑑定等の資料を準備することが対策となる。第三に、受遺者等の資力不足により一括での支払が実現せず回収不能となる失敗がある。B-1のように期限の許与制度の活用や、A-2のように分割払いと担保設定を組み合わせることが対策となる。
遺留分侵害額の算定は評価の難しい財産(非上場株式・不動産等)が絡むと専門的知見を要するため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 請求者が民法第1042条の遺留分権利者(配偶者・子・直系尊属等)に該当するか確認したか
- [ ] 相続開始及び遺留分侵害の事実を知った時から1年の消滅時効(民法第1048条前段)が経過していないか確認したか
- [ ] 遺留分算定の基礎財産に含める贈与の範囲(1年・10年の期間制限)を確認したか
- [ ] 基礎財産評価額及び遺留分侵害額の算定根拠資料を準備したか
- [ ] 請求先(受遺者・受贈者)が複数いる場合の請求順序(民法第1047条第1項)を確認したか
- [ ] 内容証明郵便(配達証明付)で発送する準備をしたか
- [ ] 支払期限及び振込先口座を明記したか
- [ ] 受遺者等の資力に応じた分割払い・期限許与の可能性を検討したか
- [ ] 遺留分放棄(民法第1049条)の有無を確認したか
- [ ] 交渉が決裂した場合の調停・訴訟移行の方針を検討したか