協議が調わない場合に家庭裁判所へ分割を求める申立書です。当事者目録、遺産目録、申立ての実情の記載要領を示します。相手方との認識のずれを防ぐ具体的な記載例を示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
遺産分割調停申立書
第1部: 書式本文
1. 事件名 「遺産分割調停申立事件」と記載する。付随して寄与分を主張する場合は「寄与分を定める処分調停」を併合申立てする旨を付記する。
2. 申立先の家庭裁判所 【相手方の住所地を管轄する家庭裁判所】、又は当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てる旨を明記する。合意管轄がある場合は合意書の写しを添付する。
3. 添付書類目録 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍謄本、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、相続人全員の住民票、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金・有価証券等の残高証明書を列挙する。
4. 当事者目録 申立人・相手方それぞれについて【本籍】【住所】【氏名】【生年月日】【被相続人との続柄】を記載する欄を設ける。相手方が複数いる場合は全員を記載し、脱漏がないよう相続関係説明図と照合する。
5. 被相続人の表示 被相続人の【本籍】【最後の住所】【氏名】【死亡日】を記載する。
6. 申立ての趣旨 「被相続人の遺産の分割の調停を求める。」と簡潔に記載する。分割方法についての具体的な希望は「申立ての実情」欄で述べる。
7. 申立ての実情(1) 相続開始の経緯 被相続人の死亡日、法定相続人の範囲、遺言の有無を記載する。遺言がある場合はその種類(自筆証書・公正証書等)と検認手続の有無を記す。
8. 申立ての実情(2) 協議の経過 これまでの遺産分割協議の経過、協議が調わない理由(意見の対立点、連絡が取れない相続人の存在等)を具体的に記載する。
9. 申立ての実情(3) 分割方法の希望 現物分割、代償分割、換価分割のいずれを希望するか、その理由とともに記載する。特定の不動産の取得を希望する場合はその理由(居住の実態等)も付す。
10. 遺産目録 不動産、預貯金、有価証券、動産等の種別ごとに、【所在】【種類】【数量】【評価額】を一覧化する。評価額は【固定資産評価額】【時価目安】等、算定根拠を欄外に注記する。
11. 特別受益・寄与分に関する主張 生前贈与や被相続人の療養看護等の事情がある場合、該当する相続人・時期・内容・金額を具体的に記載する欄を設ける。
12. 進行に関する上申 遠隔地在住の当事者がいる場合の電話会議利用の希望、期日調整に関する上申を記載できる欄を設ける。
13. 収入印紙・郵便切手 被相続人1人につき収入印紙1,200円分、連絡用の郵便切手(家庭裁判所の定める金額・組み合わせ)を提出する旨を注記する。
14. 申立人の署名押印欄 【申立人の記名押印】及び【申立年月日】を記載する欄を設ける。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 申立人(相続人)としての記載パターン
A-1. 代償分割を希望する場合 「申立ての実情」欄に「申立人は、被相続人の自宅不動産(【所在】)に現に居住しており、当該不動産の取得を希望する。取得と引き換えに、他の相続人に対し相続分に応じた代償金を支払う用意がある。」と記載する。居住の継続的必要性を具体的に示すことで、調停委員会の心証形成に資する。
A-2. 連絡不能な相続人がいる場合 当事者目録の【住所】欄に「不明」と記載し、上申書として「相手方○○の住所は調査したが判明しない。戸籍の附票の写しを添付する。」と付記する。所在不明者がいる場合、家庭裁判所が職権で調査を行う運用があるが、申立人側でも住民票・戸籍の附票の取得等、可能な範囲の調査を尽くしたことを示す記載が求められる。
A-3. 使途不明金の疑いがある場合 「申立ての実情」に「被相続人名義の預金口座から、死亡前後に多額の出金があり、その使途が不明である。」と記載し、別途の調査(弁護士会照会等)を要する可能性がある旨を上申する。使途不明金の問題は遺産分割調停そのものの対象ではなく、別途の不当利得返還請求等の訴訟事項となりうる点に留意が必要である。
B節 家庭裁判所(手続進行)の観点からの留意パターン
B-1. 管轄の確認 申立書には管轄の根拠(相手方の住所地又は合意管轄)を明記する。管轄違いの申立ては移送の対象となるため、複数の相手方がいる場合はいずれの住所地でも管轄が生じうる点を踏まえ、申立人にとって現実的な管轄地を選択する。
B-2. 進行に関する照会回答書の想定 家庭裁判所は第1回期日前に進行照会を行う運用が一般的であるため、申立書段階で相続人の範囲・遺産の範囲について争いがあるかどうかを整理しておくと、以後の手続がスムーズになる。
B-3. 附帯申立ての取扱い 寄与分を定める処分調停や特別受益の主張は、遺産分割調停に付随して審理されることが多いが、別途の調停申立てとして扱われる場合があるため、申立て段階でどちらの形式を取るか整理しておく必要がある。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、相続人間で遺産分割協議が調わない場合、又は協議自体を行うことができない場合に用いる。民法907条2項は、共同相続人間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求することができると定めており、本申立書はこの請求権を行使するための書式である。手続は家事事件手続法第244条及び別表第二(12)に基づく家事調停事件として扱われ、家事事件手続規則の定める様式に従って作成する。管轄は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所である(家事事件手続法245条)。
使う場面は、相続人が複数存在し、遺産の分け方について意見が一致しない場合、あるいは相続人の一部と連絡が取れず協議自体が成立しない場合である。他方、相続人が単独である場合や、相続放棄によって相続人が確定的に1人となった場合には、そもそも分割の対象がなく、本書式を用いる場面ではない。また、遺言により遺産分割方法が指定されている場合は、遺言執行の問題として整理すべきであり、直ちに調停を申し立てる前に遺言の有効性や執行状況を確認する必要がある。
よくある失敗の第一は、遺産目録の記載が不正確・不完全であることである。不動産の評価額を固定資産評価額のみに依拠して記載すると、時価との乖離が問題となり、調停の場で再評価を求められることがある。対策として、遺産目録には評価額の算定根拠を注記し、必要に応じて不動産業者の査定書等の裏付け資料を準備しておくことが望ましい。
第二の失敗は、相続人の範囲の調査が不十分なまま申立てを行うことである。被相続人に離婚歴があり前婚の子がいる場合や、認知した子がいる場合など、戸籍を丹念に遡らないと相続人が判明しないケースがある。対策として、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式を取得し、当事者目録と相続関係説明図とを突き合わせて脱漏がないか確認することが不可欠である。
第三の失敗は、申立ての実情欄に感情的な経緯説明のみを記載し、分割方法の具体的希望を示さないことである。調停は当事者の合意形成を目指す手続であるため、代償分割・換価分割・現物分割のいずれを希望するか、その理由とともに整理して記載することで、調停委員会の理解を得やすくなる。個別の事案については専門家(弁護士・司法書士等)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式を取得したか
- [ ] 相続人全員の現在の戸籍謄本・住民票を取得したか
- [ ] 相続関係説明図と当事者目録の記載内容が一致しているか
- [ ] 管轄裁判所(相手方の住所地又は合意管轄)を確認したか
- [ ] 遺産目録の評価額に算定根拠(評価証明書・残高証明書等)を付したか
- [ ] 遺言の有無及びその内容を確認し、有効性に疑義がないか確認したか
- [ ] 特別受益・寄与分に関する主張がある場合、具体的な事実関係を記載したか
- [ ] 連絡不能な相続人がいる場合、調査を尽くした経過を記載したか
- [ ] 収入印紙・郵便切手を家庭裁判所の指定どおり準備したか
- [ ] 申立人の記名押印及び申立年月日に漏れがないか