預貯金の帰属を定める遺産分割協議書です。金融機関名、支店、口座番号の特定と、払戻手続に用いる際の留意点を示します。関連書式とあわせて使うことで手続の漏れを防げます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
遺産分割協議書(預貯金のみ)
第1部: 書式本文
本書式は、被相続人の遺産のうち預貯金債権のみを対象として、相続人全員の協議によりその帰属を定める遺産分割協議書である。民法第907条第1項に基づき共同相続人は遺産の全部又は一部について協議により分割することができ、預貯金のみを先行して分割し金融機関での払戻し・名義変更手続に用いることができる。金融機関ごとに独自の相続手続書式を用意している場合が多く、本協議書は当該書式を補完し、又はその代替として提出することを想定している。
遺産分割協議書
被相続人【氏名】(【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】死亡、最後の住所【 】、本籍【 】)の相続人全員は、被相続人の遺産のうち下記預貯金債権の分割について、次のとおり協議が成立した。
第1条(対象財産の範囲) 本協議の対象は、下記記載の預貯金債権(以下「本件預貯金」という。)に限る。本件預貯金以外の遺産(不動産その他の財産)については、別途協議するものとする。
第2条(預貯金の表示) (1) 【〇〇銀行】【〇〇支店】 【普通・定期】預金 口座番号【 】 (2) 【〇〇信用金庫】【〇〇支店】 【普通・定期】預金 口座番号【 】 (金融機関名・支店名・口座種別・口座番号は通帳又は残高証明書の記載と一致させること。)
第3条(単独取得の場合の帰属) 相続人【氏名】は、第2条(1)及び(2)記載の預貯金債権の全部を取得する。
第4条(分割取得の場合の帰属) 相続人【氏名】は第2条(1)記載の預貯金債権を、相続人【氏名】は第2条(2)記載の預貯金債権を、それぞれ単独で取得する。 (口座ごとに取得者を分ける場合はこちらを用いる。)
第5条(金額按分による取得) 相続人らは、本件預貯金の払戻し又は解約により取得する金額の合計額を、次の割合により按分して取得する。 相続人【氏名】 【 分の 】 相続人【氏名】 【 分の 】 (口座を分割せず金額割合で分ける場合に用いる。)
第6条(既に単独で払い戻した金額の精算) 相続人【氏名】は、民法第909条の2に基づき本協議成立前に単独で払戻しを受けた金【 】円については、本協議に基づく自己の取得額に充当し、超過額があるときは他の相続人に精算する。
第7条(金融機関での払戻し・解約手続への協力) 相続人全員は、本協議書及び金融機関所定の相続手続書式に必要事項を記載し、実印による押印及び印鑑証明書の提出その他払戻し・解約手続に必要な行為に協力する。
第8条(既経過利息等の帰属) 本件預貯金に係る相続開始後の既経過利息は、当該預貯金を取得する相続人に帰属する。
第9条(遺産分割の効力) 本協議による分割の効力は、民法第909条本文により相続開始の時に遡って生ずる。
第10条(後日発見された預貯金等の取扱い) 本協議書作成後に新たに預貯金その他の遺産が発見された場合は、相続人全員で別途協議する。
以上のとおり協議が成立したことを証するため、本書【 】通を作成し、相続人全員が記名押印(実印)の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
相続人 住所【 】 氏名【 】 実印 相続人 住所【 】 氏名【 】 実印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 相続人全員の立場
A-1. 葬儀費用等を賄うため既に一部相続人が単独で払戻しを受けていた場面
修正例:「相続人【氏名】が民法第909条の2に基づき【〇〇銀行】から単独で払戻しを受けた金【 】円は、同人の本協議に基づく取得額の内金として扱い、本協議書記載の金額はその残額とする。」 解説: 各相続人は遺産分割前でも法務省令で定める割合(預貯金債権の額の3分の1に法定相続分を乗じた額)の範囲内で、かつ同一金融機関に対し150万円を上限として単独で払戻しを請求できるため、既払戻額と本協議による取得額との重複・過不足を精算する条項を設けておくことが望ましい。
A-2. 複数の金融機関に口座が分散しており取得者を分けたい場面
修正例:「相続人【氏名】は【〇〇銀行】の預金を、相続人【氏名】は【〇〇信用金庫】の預金を、それぞれ単独で取得する。」 解説: 金融機関ごとに取得者を分けると各金融機関での手続がその相続人のみで完結しやすくなる一方、口座間の残高に差がある場合は代償金等で調整しないと実質的な取得額に不均衡が生じる点に留意する。
B. 金融機関の立場
B-1. 遺産分割協議書に基づき払戻し・名義変更を受け付ける場面
確認例:「本協議書に記載された口座の金融機関名・支店名・口座番号が当行の記録と一致しているかを確認し、相続人全員の実印及び印鑑証明書が添付されているかを確認する。」 解説: 金融機関は独自の相続手続書式(依頼書)への記入を求めることが多く、協議書のみで手続が完了しない場合があるため、事前に取扱金融機関へ必要書類を確認しておくことが望ましい。
B-2. 民法第909条の2に基づく単独払戻しの申出を受ける場面
確認例:「申出人の法定相続分及び当該預貯金債権の額から、単独で払戻し可能な上限額(預貯金債権の額の3分の1に法定相続分を乗じた額、ただし同一金融機関につき150万円を上限とする法務省令上の基準)を計算し、上限を超える申出には応じない。」 解説: 上限額の計算を誤ると金融機関側に過大な払戻しリスクが生じるため、複数支店に口座がある場合は同一金融機関内で合算して上限を管理する必要がある。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、遺産のうち預貯金債権のみを先行して分割し、生活費や葬儀費用の精算、相続税納税資金の確保等のため早期に払戻しを受ける必要がある場合に用いる。不動産その他の財産を含めた遺産全体の分割については別途協議書を作成するか、本書式に統合する形に修正する必要がある。また、預貯金債権は可分債権であるため理論上は相続開始と同時に法定相続分に応じて分割されるとの考え方もあるが、平成28年の最高裁判所大法廷決定以降、預貯金債権は遺産分割の対象に含まれるとされているため、相続人間の合意なく法定相続分どおりに払戻しを受けられるとは限らない点に留意する必要がある。
根拠法令の解説 民法第907条第1項は共同相続人による遺産の全部又は一部の協議分割を認める。民法第909条本文は分割の効力が相続開始時に遡ることを定める。民法第909条の2は、遺産の分割前であっても各共同相続人が単独で預貯金債権の一部を行使できることを定め、その上限は預貯金債権の額に3分の1及び当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額とし、同一の金融機関ごとの上限は法務省令で定める額(現行150万円)とされている。この制度により払戻しを受けた金額は、当該相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされるため、本協議書においても精算のための条項を設けておくことが実務上重要である。
実務でよくある失敗 第一に、口座番号や支店名を通帳の記載と照合せず記載してしまい、金融機関の窓口で口座の特定ができず手続が滞る失敗がある。作成前に通帳原本又は残高証明書を確認して記載する。第二に、民法第909条の2に基づき既に単独で払戻しを受けた相続人がいることを協議書に反映せず、後日その相続人の取得額が二重に計上されているとして紛争になる失敗がある。既払戻額を精算する条項を必ず設ける。第三に、金融機関所定の相続手続書式の提出を怠り、本協議書のみで手続が完了すると誤解し、払戻しが受けられない失敗がある。事前に各金融機関へ必要書類(協議書のほか戸籍謄本、印鑑証明書、当該金融機関所定の依頼書等)を確認しておく。個別の事案については専門家(弁護士・司法書士等)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象を預貯金債権のみに限定する旨を明記したか
- [ ] 金融機関名・支店名・口座種別・口座番号を通帳等の記載と照合したか
- [ ] 単独取得・口座ごとの分割取得・金額按分のいずれかを明確に選択したか
- [ ] 民法第909条の2に基づき既に単独で払戻しを受けた相続人がいないか確認したか
- [ ] 既払戻額がある場合、精算方法を条項化したか
- [ ] 相続開始後の既経過利息の帰属を明記したか
- [ ] 相続人全員が署名し実印で押印しているか
- [ ] 相続人全員の印鑑証明書を添付する予定があるか
- [ ] 取扱金融機関ごとの相続手続書式(依頼書等)の要否を確認したか
- [ ] 本協議書に含まれない遺産(不動産等)の扱いを別途確認したか
- [ ] 後日新たな預貯金口座が発見された場合の取扱いを定めたか