整備工場が車両の修理・点検を受託する際の契約書。道路運送車両法の認証工場要件と分解整備記録簿、見積承認や部品交換後の保証範囲を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
自動車修理・整備の受託契約書
第1部: 書式本文
【整備事業者商号】(以下「甲」という。)と【車両所有者氏名又は商号】(以下「乙」という。)とは、乙が所有し又は使用する自動車の修理・整備業務の委託に関し、次のとおり自動車修理・整備受託契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 本契約は、乙が甲に対し、後記対象車両の点検、整備又は修理(以下「本件整備」という。)を委託し、甲がこれを受託することについて、甲乙間の権利義務関係を定めることを目的とする。
第2条(対象車両) 対象車両は、車名【 】、登録番号【 】、車台番号【 】の自動車(以下「本件車両」という。)とする。
第3条(甲の認証) 甲は、本件整備の内容が道路運送車両法第49条に定める分解整備に該当する場合、同法第78条に基づく分解整備事業(認証工場)の認証を受けていることを表明し、認証番号を乙に通知する。認証の取消しその他認証に影響する事由が生じたときは、甲は直ちに乙に通知する。
第4条(見積り及び承認) 1. 甲は、本件整備の着手に先立ち、作業内容、部品交換の要否及び費用の見積書(以下「本件見積書」という。)を作成し、乙に提示する。 2. 甲は、乙が本件見積書の内容を書面又は電磁的方法により承認した後に本件整備に着手する。ただし、乙があらかじめ緊急の追加作業について事前承認する旨を書面で表示した場合はこの限りでない。 3. 作業の過程で本件見積書に記載のない追加作業の必要が判明したときは、甲は速やかに乙に連絡し、追加費用について改めて承認を得るものとする。
第5条(整備の実施) 甲は、善良な管理者の注意をもって本件整備を実施し、道路運送車両法及び関係法令に定める保安基準に適合する状態に本件車両を整備する。
第6条(分解整備記録簿の作成) 甲は、本件整備が道路運送車両法第49条に定める分解整備に該当する場合、同法第91条の2の規定に基づき分解整備記録簿を作成し、その写しを乙に交付する。
第7条(部品の取扱い) 1. 甲は、本件整備において交換する部品につき、事前に純正部品、社外品又は中古部品(リサイクル部品)の別を乙に説明し、乙の選択に従う。 2. 交換により取り外した旧部品は、乙が引取りを希望する場合を除き、甲において適正に処分する。
第8条(納期) 甲は、本件整備を【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】までに完了し、本件車両を乙に引き渡す。ただし、部品の入手困難その他甲の責めに帰することのできない事由により納期に遅延が生じるおそれがあるときは、甲は速やかに乙に通知し、新たな納期について協議する。
第9条(引渡し及び検査) 1. 甲は、本件整備完了後、本件車両を乙に引き渡すとともに、実施した作業内容及び交換部品を記載した作業報告書を交付する。 2. 乙は、引渡しを受けた後、遅滞なく本件車両の状態を確認し、本件整備の内容に疑義があるときは速やかに甲に申し出る。
第10条(整備後の保証範囲) 1. 甲は、本件整備のうち有償で交換した部品及び甲が実施した作業箇所について、引渡日から【3】か月又は走行距離【5,000】キロメートルのいずれか早い時期まで、甲の作業に起因する不具合が生じた場合、無償で再整備を行う。 2. 前項の保証は、本件車両の通常の使用に伴う経年劣化、乙による不適切な使用又は本件整備と無関係な部位の不具合には適用されない。 3. 部品自体に製造上の欠陥があった場合の当該部品メーカーの製造物責任法に基づく責任については、甲は乙の当該部品メーカーに対する権利行使に協力する。
第11条(委託料及び支払方法) 乙は、甲に対し、本件整備の対価として本件見積書記載の金額(追加作業がある場合は承認された追加費用を含む。)を、本件車両の引渡し時に現金又は甲の指定する方法により支払う。
第12条(車両の保管責任) 甲は、本件整備のため本件車両を預かる期間中、善良な管理者の注意をもってこれを保管するものとし、甲の保管中に生じた本件車両の毀損又は盗難については、甲の責めに帰すべき事由がある場合に限り、甲がその損害を賠償する。
第13条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。相手方が本条に違反した場合、催告を要せず本契約を解除することができる。
第14条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 商号又は名称:【 】 代表者:【 】 印
(乙) 住所:【 】 氏名又は商号:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 整備事業者(受託者)向け書き換え
A-1. 事故車両の修理を受託する場合
第4条3項修正例:「事故車両の損傷が外観からは判明せず、分解の結果初めて判明した追加修理の必要については、甲は乙及び乙が加入する保険会社の担当者双方に連絡し、承認を得た上で追加作業に着手する。」 解説: 事故車は保険会社との協定価格や過失割合が絡むため、追加作業の承認ルートに保険会社を明記し、後日の費用精算トラブルを避ける。
A-2. 車検に伴う法定点検を受託する場合
第10条1項修正例:「車検に伴い実施した法定点検項目については、次回車検までの整備関連の保証は行わず、本件整備の保証範囲は有償で交換した部品及び追加整備箇所に限定する。」 解説: 車検基本料に含まれる法定点検項目まで長期保証の対象とすると採算が合わなくなるため、保証対象を有償交換部分に限定することを明確化する。
B. 車両所有者(委託者)向け書き換え
B-1. 事故車両の修理を委託する場合
第9条2項修正例:「乙は、引渡しを受けた後【7】日以内に本件車両の走行確認を行い、本件整備に起因すると思われる異常を発見したときは、当該期間内に甲に申し出るものとし、期間経過後の申出については第10条の保証の範囲内でのみ対応する。」 解説: 引渡し直後の確認期間を明記することで、整備起因の不具合か通常使用による劣化かの切り分けが容易になる。
B-2. リースアップ前の点検整備を委託する場合
第7条1項修正例:「甲は、リース契約上要求される原状回復基準を踏まえ、交換部品を純正部品に限定して使用するものとし、社外品又は中古部品を使用する場合は乙の個別の書面承諾を要する。」 解説: リース車両は返却時の原状回復基準が契約で定められていることが多く、部品グレードの指定を明記しないと返却時に追加費用を請求されるおそれがある。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、整備工場が車両所有者から車検、点検、修理等の整備業務を受託する場面で用いる。新車販売に付随する保証修理(メーカー保証によるリコール対応等)のみを行う場合は、メーカーとの間の別途の保証契約に基づく処理となるため本書式にはなじまない。また、板金塗装のみを専門業者に再委託する場合は、本書式の甲乙間の契約に加えて再委託関係を別途整理する必要がある。
根拠法令及び留意点 道路運送車両法第49条は、原動機、動力伝達装置等の重要な保安部品を取り外して行う整備を「分解整備」と定義し、これを事業として行うには同法第78条に基づく地方運輸局長の認証(いわゆる認証工場)を受けなければならない。無認証で分解整備を行うことは同法上の規制対象となるため、第3条で甲の認証状況を確認する。また同法第91条の2は、分解整備を行った場合に分解整備記録簿を作成し、依頼者に交付することを義務付けており、第6条はこれに対応する。整備後の保証範囲(第10条)は法令上一律の定めがあるわけではなく契約自由の範囲であるが、部品自体の欠陥については製造物責任法に基づく製造業者の責任が別途問題となり得るため、両者を区別して規定することが望ましい。
実務でよくある失敗と対策 第一に、口頭で見積りを説明したのみで書面の承認手続を経ずに追加作業を進め、後日「聞いていない金額」との紛争になる失敗がある。第4条のように見積書の書面承認プロセスを明記する。第二に、分解整備を行ったにもかかわらず分解整備記録簿を作成・交付せず、道路運送車両法上の義務違反となる失敗がある。第6条のように記録簿の交付を契約条項として明記し実務の抜け漏れを防ぐ。第三に、整備後の不具合が整備起因か経年劣化かの切り分け基準がなく、保証範囲をめぐって争いになる失敗がある。第10条のように保証の対象部位と期間・走行距離の上限、対象外事由を明確化する。これらは一般的な整理であり、事故車両や特殊車両等個別の事情に応じた対応は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 甲が道路運送車両法第78条の認証工場であることを分解整備の場合に確認したか
- [ ] 対象車両を車名・登録番号・車台番号で特定したか
- [ ] 見積書の作成及び書面承認のプロセスを整備着手前に明記したか
- [ ] 追加作業が判明した場合の連絡・承認フローを定めたか
- [ ] 分解整備記録簿の作成・交付義務(道路運送車両法第91条の2)を確認したか
- [ ] 交換部品の種別(純正・社外・中古)の選択方法を定めたか
- [ ] 納期遅延時の通知義務と協議手続を定めたか
- [ ] 整備後の保証範囲(期間・走行距離・対象部位)を具体的に定めたか
- [ ] 保証対象外事由(経年劣化・不適切使用等)を明記したか
- [ ] 部品の製造物責任法上の責任と甲の協力義務を区別して整理したか
- [ ] 預かり期間中の車両保管責任の所在を定めたか