自社株式と事業用資産を後継者に集中させる遺言書文例です。遺留分への配慮、代償金の指定、執行者の権限を規定します。必要事項を埋めるだけで短時間に整えられる書式です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
事業承継を内容とする遺言書文例
第1部: 書式本文
遺言者【氏名】は、次のとおり遺言する。
第1条(自社株式の相続) 遺言者は、遺言者が保有する株式会社【会社名】の株式【株式数】株の全部を、長男【氏名】(以下「後継者」という。)に相続させる。
第2条(事業用資産の相続) 遺言者は、次の事業用不動産及び動産を後継者に相続させる。 所在【所在地】 家屋番号【家屋番号】(本社社屋) 工場用地 所在【所在地】 事業用車両及び機械設備一式
第3条(相続分の指定) 遺言者は、民法第902条の定めるところにより、後継者の相続分を【割合】、次男【氏名】の相続分を【割合】、長女【氏名】の相続分を【割合】と指定する。
第4条(代償金の定め) 1 後継者は、前2条により取得する財産の価額が、前条により指定された後継者の相続分を超過するときは、その超過額に相当する金銭(以下「代償金」という。)を、次男及び長女に支払うものとする。 2 代償金の額は、本遺言の効力発生時における税理士又は不動産鑑定士による評価を基準として算定する。 3 代償金の支払期限は、相続開始後【 】か月以内とする。
第5条(現預金その他の財産の分割) 遺言者は、前各条に定める財産を除くその余の財産を、後継者、次男及び長女の3名に、各3分の1の割合で相続させる。
第6条(遺留分に関する定め) 1 遺言者は、本遺言が次男及び長女の遺留分を侵害する可能性があることを認識し、後継者に対し、遺留分侵害額請求がされた場合には誠実に協議のうえ金銭で対応するよう求める。 2 遺言者は、生前、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づく遺留分に関する民法の特例(除外合意又は固定合意)の活用について、次男及び長女との間で協議を試みるものとし、その結果は別途書面により確認する。
第7条(遺言執行者の指定及び権限) 1 遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。 住所【住所】 氏名【氏名】(職業:【職業、例:税理士】) 2 遺言執行者は、自社株式の名義書換手続、事業用不動産の所有権移転登記手続、代償金の算定に関する専門家への依頼その他本遺言の執行に必要な一切の権限を有する。
第8条(経営権の円滑な移行に関する付言) 遺言者は、後継者が経営を承継するにあたり、既存の役員及び従業員の雇用継続に配慮し、取引先との関係を維持するよう努めることを希望する。
第9条(遺言の撤回) 遺言者は、本遺言に抵触する既存の遺言その他の処分をすべて撤回する。
以上 作成日【日付】 遺言者【氏名】印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節 経営者(遺言者)の立場からの書き換え
A-1 種類株式(拒否権付株式)を活用する場合
第1条に次の一文を加える。 「なお、遺言者が保有する拒否権付種類株式(いわゆる黄金株)【株式数】株については、後継者の経営が安定するまでの間、次男【氏名】に相続させ、事業承継の状況を見て将来的に後継者へ譲渡することを希望する。」 一言解説: 承継直後の経営の安定を図るため、普通株式と種類株式を分けて承継先を指定する方法もあるが、株主間の権限関係が複雑化するため設計には慎重な検討を要する。
A-2 後継者が複数の候補から未確定の場合
第1条を次のとおり修正する。 「遺言者は、遺言者の死亡時において株式会社【会社名】の代表取締役に就任している者を後継者とみなし、その者に前項の株式を相続させる。」 一言解説: 遺言作成時点で後継者を一人に確定できない場合の代替的な指定方法であるが、就任の有無をめぐる紛争を避けるため、可能な限り生前に後継者を確定させることが望ましい。
B節 後継者・他の相続人の立場からの確認ポイント
B-1 代償金の負担が過大になる場合の分割払い
第4条第3項を次のとおり修正する。 「代償金の支払期限は、相続開始後5年以内とし、後継者は次男及び長女と協議のうえ分割して支払うことができる。」 一言解説: 自社株式の評価額が高額な場合、後継者が一括で代償金を用意できないことが多いため、分割払いや期限の猶予を条文上認めておくと後継者側の資金負担を軽減できる。
B-2 他の相続人が経営に関与しない前提の明確化
第5条の末尾に次の一文を加える。 「次男及び長女は、本遺言に基づき取得する財産について、株式会社【会社名】の経営に関与しないことを確認する。」 一言解説: 経営に関与しない相続人の立場を条文上明確にしておくことで、将来的な株主間紛争や経営への介入をめぐる争いを予防する効果が期待できる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、中小企業のオーナー経営者が、自社株式及び事業用資産を後継者に集中して承継させたい場合に使用する。株式が分散すると株主総会の意思決定が困難になり、事業の継続に支障が生じるおそれがあるため、後継者以外の相続人には金銭(代償金)や自社株式以外の財産で報いる設計が一般的である。他方、後継者が未定である段階や、株式の評価額を全く把握していない段階では、本書式による具体的な代償金の定めを先行させるべきではなく、まず株式評価や後継者育成計画を整理した上で作成することが望ましい。
根拠法令として、民法第902条は遺言による相続分の指定を認めており、これにより経営者は法定相続分と異なる割合を定めることができる。また、民法第1042条以下は遺留分の規定であり、後継者以外の相続人の遺留分を侵害する内容の遺言は、遺留分侵害額請求の対象となり得る。この点に関し、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第4条以下では、後継者を含む推定相続人全員の合意により、自社株式の価額を遺留分算定の基礎財産から除外する除外合意や、価額をあらかじめ固定する固定合意といった民法の特例を利用できる制度が設けられている。もっとも、この特例の適用には経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可等の手続を要するため、本書式のみで特例の効果が当然に生じるわけではない。遺言執行者の権限については民法第1006条以下に定めがあり、本書式では名義書換や登記手続等、具体的な執行権限を条文上明記している。
よくある失敗として、第一に、自社株式の評価額を考慮せずに代償金の額や算定方法を曖昧にしたため、相続開始後に評価をめぐる争いが長期化する例がある。対策として、評価の基準時及び評価方法(税理士等の第三者評価による旨)を条文に明記する。第二に、遺留分対策を全く講じないまま後継者に株式を集中させ、結果として他の相続人から多額の遺留分侵害額請求を受け、後継者の資金繰りが悪化する例がある。対策として、代償金の分割払いを認める条項や、生命保険を活用した納税・支払原資の確保を検討する。第三に、後継者としていた者が経営者の死亡前に廃業・退任していたにもかかわらず遺言が更新されておらず、承継の前提が崩れてしまう例がある。対策として、定期的な遺言の見直しと、後継者不在時の予備的な承継先を定める条項を設ける。
また、自社株式を後継者に集中させる場合には、遺留分対策に加え、相続税の負担も重要な検討課題となる。中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づく認定を受けたうえで、非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度(いわゆる事業承継税制)の適用を受けられれば、後継者の納税資金負担を大幅に軽減できる可能性があるため、遺言の作成と並行して税務専門家への相談を進めておくことが望ましい。個別の事案については専門家(弁護士・司法書士等)に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 自社株式の保有数・種類(普通株式・種類株式)を正確に把握しているか
- [ ] 後継者以外の相続人の遺留分割合を試算し、侵害の有無を検討したか
- [ ] 代償金の算定基準時・算定方法・支払期限を条文に明記しているか
- [ ] 経営承継円滑化法に基づく遺留分の特例(除外合意・固定合意)の活用可能性を検討したか
- [ ] 事業用不動産・設備が個人名義と会社名義のいずれであるかを確認したか
- [ ] 遺言執行者に株式名義書換や登記手続の権限を明記しているか
- [ ] 後継者が経営者の死亡時点で交代・退任している場合の予備的な定めがあるか
- [ ] 生命保険等、代償金の支払原資の確保策を検討したか
- [ ] 他の相続人が経営に関与しない旨を明確にしているか
- [ ] 定期的な遺言の見直し(株式評価の変動等)を予定しているか
- [ ] 事業承継税制(相続税の納税猶予制度)の適用可否を税理士に確認したか
- [ ] 持株会社を介した株式保有の有無など、グループ経営体制を確認したか