自ら手書きで遺言を残す場面の文例集。民法第968条の方式(全文・日付・氏名の自書と押印)に沿い、財産目録の別紙添付や訂正方法も示します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
自筆証書遺言の文例
第1部: 書式本文
本文例は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印する方式(民法第968条第1項)による自筆証書遺言の文例である。財産目録を別紙として添付する場合、同条第2項により当該目録に限り自書を要しないが、その毎葉(両面に記載がある場合は両面)に遺言者が署名し、押印しなければならない。以下は代表的な記載事項を項目ごとに整理した文例であり、実際に作成する際は遺言者が手書きで全文を書き写す必要がある(財産目録部分を除く)。
遺言書
遺言者【氏名】は、次のとおり遺言する。
第1(特定の相続人への相続) 遺言者は、次の財産を、遺言者の【長男】【氏名】(以下「甲」という。)に相続させる。 (1) 別紙財産目録第1記載の土地及び建物 (2) 別紙財産目録第2記載の預貯金
第2(他の相続人への相続) 遺言者は、次の財産を、遺言者の【長女】【氏名】(以下「乙」という。)に相続させる。 (1) 別紙財産目録第3記載の株式及び投資信託
第3(遺贈) 遺言者は、遺言者の【友人】【氏名】(以下「丙」という。以下「受遺者」という。)に対し、金【 】円を遺贈する。
第4(祭祀承継者の指定) 遺言者は、祭祀を主宰すべき者として甲を指定する。甲は、遺言者の墓地使用権及び仏壇、位牌その他祭具一切を承継する。
第5(遺言執行者の指定) 遺言者は、本遺言の執行者として、【氏名】(住所【 】、生年月日【 】)を指定する。遺言執行者は、預貯金の解約及び払戻し、不動産の相続登記手続その他本遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。
第6(付言事項) 遺言者は、家族が争うことなく円満に本遺言の内容を実現してくれることを切に願う。(付言事項は法的効力を有しない。)
以上のとおり遺言する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
住所【 】 遺言者 氏名【 】 印
(別紙)財産目録 ※財産目録は自書によらずパソコンで作成し、又は不動産登記事項証明書若しくは預貯金通帳の写しを添付することができる(民法第968条第2項)。ただし、各頁(両面に記載がある場合は両面)に遺言者が署名し、押印しなければならない。 第1 土地【所在・地番・地目・地積】及び建物【所在・家屋番号・種類・構造・床面積】 第2 預貯金【金融機関名・支店名・口座種別・口座番号】 第3 有価証券【証券会社名・口座番号・銘柄】
(加除訂正の方式) 本遺言書の記載を訂正するときは、民法第968条第3項に基づき、遺言者が変更の場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。 訂正例:「本遺言書3行目『金100万円』とあるを『金150万円』と訂正した。遺言者【氏名】」と余白等に付記し、変更箇所に本文と同一の印を押す。軽微な誤字であっても、この方式によらない訂正(修正液の使用、二重線のみの抹消等)は無効となるおそれがあるため、書き損じた場合は用紙全体を書き直すことが望ましい。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 遺言者向け書き換え
A-1. 受遺者が先に死亡する場合に備えたい場面
第1条追加例:「甲が遺言者の死亡以前に死亡していたときは、第1条の財産は甲の子【氏名】に相続させる。」 解説: 予備的(補充)遺言を定めておかないと、受遺者が先に死亡した部分は無効となり法定相続に戻るため、当該財産のみ遺産分割協議が必要になる。
A-2. 遺留分に配慮した内容にしたい場面
第2条修正例:「遺言者は、乙の遺留分を侵害しないよう配慮し、別紙財産目録第3記載の財産に加え、預貯金のうち金【 】円を乙に相続させる。」 解説: 特定の相続人に財産を集中させると他の相続人の遺留分侵害額請求(民法第1046条)を招きやすいため、あらかじめ遺留分相当額を割り付けておくと紛争予防になる。
B. 受遺者・相続人向け書き換え
B-1. 財産目録の記載が不十分で対象財産が特定できないと不安な場面
財産目録修正例:「第1の土地については、不動産登記事項証明書の写しを別紙として添付し、目録の記載に代える。」 解説: 手書きで地番等を書き写すと誤記のリスクがあるため、登記事項証明書の写しをそのまま添付する方式(民法第968条第2項)を用いると特定性が高まる。
B-2. 法務局保管制度を利用したい場面
付言事項追加例:「本遺言書は、法務局における自筆証書遺言書保管等に関する法律に基づく保管制度を利用し、遺言者の住所地又は本籍地を管轄する法務局に保管申請する予定である。」 解説: 保管制度を利用すると、様式の外形的なチェックを受けられるほか、家庭裁判所の検認(民法第1004条第1項)が不要となり、相続開始後の手続が簡素化される。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、遺言者が自ら手書きできる健康状態にあり、証人を確保する時間的余裕がなく、財産構成が比較的単純で内容の正確な口授を要しない場合に用いる。手が震える、視力低下その他の事情で自書が困難な場合や、内容が複雑で無効リスクを極力避けたい場合には、公証人が関与する公正証書遺言の利用を検討すべきであり、本書式はなじまない。
根拠法令の解説 自筆証書遺言の方式は民法第968条に定められ、同条第1項は遺言者が全文、日付及び氏名を自書し押印することを求め、同条第2項は財産目録に限り自書を不要とする代わりに毎葉への署名押印を求め、同条第3項は加除訂正の方式を定める。これらの方式に違反した自筆証書遺言は無効となる。相続開始後の取扱いについては、法務局における自筆証書遺言書保管等に関する法律に基づき法務局に保管された遺言書は家庭裁判所の検認を要しないが、保管制度を利用しない自筆証書遺言は民法第1004条第1項により検認手続を経る必要がある。検認は遺言書の状態を記録し偽造・変造を防止する手続にとどまり、遺言の有効性そのものを判断するものではない点にも留意する。
自書性が争われやすい場面への留意 自筆証書遺言は、公証人の関与や証人の立会いがないため、遺言者本人が書いたものかどうか(自書性)が相続開始後に争われることがある。筆跡鑑定の対象となり得ることを踏まえ、日頃から使用している筆記具や筆致で作成し、可能であれば作成状況を写真や動画で記録しておくといった工夫も、争いを予防する上で有用である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、財産目録を含め全文をパソコンで作成してしまい、民法第968条第1項の自書要件を満たさず遺言全体が無効となる失敗がある。財産目録以外の本文は必ず遺言者が手書きすることを徹底する。第二に、日付を「【〇〇〇〇年〇〇月】吉日」のように特定できない記載にしてしまい、日付の記載を欠くものとして無効となる失敗がある。年月日を具体的な数字で自書させる。第三に、訂正方式(民法第968条第3項)を守らず、二重線での抹消や修正液の使用にとどめてしまい、訂正が無効又は訂正前の記載が有効なままとなる失敗がある。誤記があった場合は用紙を書き直すよう案内する。自筆証書遺言は方式違反による無効リスクが類型的に高いため、作成後は保管制度の利用を含め専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 財産目録を除く本文全文を遺言者が自書したか
- [ ] 日付が特定できる形式(年月日を具体的な数字)で自書されているか
- [ ] 遺言者の氏名が自書され押印されているか
- [ ] 印は認印ではなく実印の使用を検討したか
- [ ] 財産目録の各頁(両面含む)に署名及び押印があるか
- [ ] 訂正がある場合、民法第968条第3項の方式を満たしているか
- [ ] 遺留分を有する相続人への配慮を検討したか
- [ ] 予備的遺言(受遺者が先に死亡した場合の定め)を検討したか
- [ ] 遺言執行者を指定したか
- [ ] 法務局保管制度の利用の要否を検討したか
- [ ] 保管制度を利用しない場合、相続開始後の検認手続の流れを相続人に伝える準備をしたか