考案に係る実用新案権を他社に実施させる場面の契約書。実用新案法第18条の実施権と第29条の3の技術評価書提示義務に配慮した内容です。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
実用新案権実施許諾契約書
第1部: 書式本文
【甲(実用新案権者)】と【乙(実施権者)】は、実用新案権の実施許諾に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(定義) 本契約における用語の意義は次のとおりとする。 一 「本考案」 甲が有する実用新案登録第【 】号(考案名:【 】)に係る登録実用新案 二 「本実用新案権」 本考案に係る実用新案権 三 「実用新案技術評価書」 実用新案法第12条に基づき特許庁が作成する、本考案の新規性・進歩性等に関する評価書
第2条(実施許諾) 1 甲は、乙に対し、本実用新案権について、実用新案法第19条に定める通常実施権を許諾する。 2 前項の実施権は非独占的なものとし、甲は本考案を自ら実施し、又は第三者に通常実施権を許諾することを妨げられない。 3 甲及び乙は、別途協議の上、実用新案法第18条に定める専用実施権を設定できる。設定する場合はその旨及び範囲を別紙にて定め、特許庁への登録手続を行う。
第3条(実施の範囲) 乙による本考案の実施は、内容【製造、使用、譲渡等】、地域【 】、期間(第11条の契約期間内)、対象製品【 】の範囲に限る。
第4条(実施料) 1 乙は、甲に対し、実施の対価として、イニシャルペイメント金【 】円(契約締結後【 】日以内)及びランニングロイヤルティ(対象製品の売上高の【 】%)を支払う。 2 乙は、毎【四半期】終了後【30】日以内に、対象製品の実施状況及び売上高を報告し、ランニングロイヤルティを支払う。
第5条(実用新案技術評価書の提示) 1 甲は、評価書を取得している場合はその写しを乙に提示し、取得していない場合は乙の請求に応じ速やかに評価請求の手続を行う。 2 甲は、実用新案法第29条の3の規定に基づき、本実用新案権を侵害した者又は侵害するおそれがある者に対して権利を行使し、又は警告をするときは、あらかじめ評価書を提示して行う。 3 乙が第三者から本考案に関する侵害警告を受けたときは甲に速やかに通知し、甲は保有する評価書その他の関連資料を乙に開示する。
第6条(権利行使に伴う責任の制限) 1 甲が第三者に権利を行使し、又は警告をした場合において、実用新案登録が無効審判により無効にされたときは、甲は、実用新案法第29条の2の規定に基づき、原則として相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、実用新案技術評価を信頼したこと、又は相当の注意をもって行ったことを証明したときは、この限りでない。 2 甲は、評価書を取得せずに権利行使又は警告を行った場合、前項ただし書の証明が困難となり得ることを認識し、乙に不測の損害を与えないよう配慮する。
第7条(訂正の制限に関する情報提供) 1 甲は、実用新案法第14条の2の規定に基づく訂正を行おうとするときは、あらかじめ乙にその内容を通知する。 2 甲は、前項の訂正が乙の実施範囲に影響を及ぼすおそれがあると認めるときは、乙と実施の範囲又は実施料の見直しについて誠実に協議する。
第8条(無効審判等の通知) 甲又は乙は、本実用新案権について無効審判の請求、訂正の請求その他権利の有効性・範囲に影響を及ぼす手続を知ったときは、遅滞なく相手方に通知する。
第9条(表明保証) 甲は、乙に対し、本契約締結日現在、本実用新案権が有効に存続し、甲が本実用新案権について本契約に基づく実施許諾をする正当な権原を有することを表明し、保証する。
第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の履行に関連して知り得た相手方の秘密情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第11条(契約期間) 本契約の有効期間は、締結日から本実用新案権の存続期間満了日又は本契約解除の日のいずれか早い日までとする。
第12条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し相当の期間を定めた催告後も是正されないときは、本契約を解除できる。
第13条(損害賠償) 甲又は乙が本契約に違反し相手方に損害を与えたときは、違反当事者は相手方の損害を賠償する責めに任ずる。
第14条(反社会的勢力の排除) 甲及び乙は、自己及びその役員が反社会的勢力に該当せず、これと関係を有しないことを表明し保証する。
第15条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、関連して生じた紛争は【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第16条(協議事項) 本契約に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、甲乙誠実に協議の上解決する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 実用新案権者向け
無審査登録制度の性質上、権利行使前に技術評価書を取得しておくことが自己防衛上重要である。第5条を以下のように書き換える例を示す。
書き換え例:「甲は、本契約締結後遅滞なく実用新案技術評価の請求を行い、評価書を取得するよう努める。甲は、評価書を取得しないまま乙又は第三者に対して権利行使又は警告を行わない。」
一言解説: 評価書なしに権利行使をすると、後日登録が無効にされた際の損害賠償責任(実用新案法第29条の2)で相当の注意を証明することが難しくなり、権利者側のリスクが高まる。
B. 実施権者向け
実施権者としては、無効リスクや訂正による範囲変動リスクを契約上で手当てする必要がある。第4条に以下の条項を追加する書き換え例を示す。
追加例:「実用新案登録が無効審判により無効にされたとき、又は前条の訂正により乙の実施範囲が実質的に減縮されたときは、乙は、無効又は減縮が確定した日以降の実施料の支払を停止することができる。」
一言解説: 無審査登録制度の下では登録後に無効審判で覆るリスクが特許より相対的に高いとされるため、無効時の実施料清算ルールをあらかじめ定めておくことが有効なリスクヘッジとなる。
C. 技術評価書提示条項付
技術評価書の提示を権利行使の前提条件として明確化したい場合、第5条第2項を以下のように具体化する例を示す。
書き換え例:「甲は、乙以外の第三者に権利を行使し、又は警告をしようとするときは、実用新案法第29条の3に基づき、あらかじめ当該第三者に評価書を提示しなければならない。甲が評価書を提示せず権利行使又は警告を行ったことにより乙の地位に不利益が生じた場合、甲は乙に損害を賠償する。」
一言解説: 第29条の3は評価書の提示を権利行使の法定の前提条件とするため、これを契約条項として明文化すれば、実施権者は権利者の手続違反による波及的な不利益を契約上の請求原因として構成しやすくなる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式を使う場面は、考案について実用新案登録を受けている権利者が、他社に実施を許諾する場合である。特許出願を予定している技術や既に特許権として登録されている技術には、実用新案法ではなく特許法に基づく実施許諾契約書を用いるべきであり、本書式を代用すべきではない。また実用新案登録出願中でまだ設定登録がされていない段階は、実用新案を受ける権利の譲渡又は仮通常実施権の許諾という別の法律構成になるため、本書式をそのまま適用できない。
根拠法令の中心は実用新案法である。第18条は専用実施権(実用新案権者は専用実施権を設定でき、専用実施権者は設定行為の範囲内で登録実用新案の実施を専有する)を、第19条は通常実施権(法律の規定又は設定行為の範囲内で実施する権利)を定めている。実用新案登録は実体審査(新規性・進歩性等)を経ずに登録される無審査登録制度であるため、権利の有効性が特許権に比べて不安定である。この特質を踏まえ、第29条の3は、実用新案権者又は専用実施権者が権利を行使するに当たり、あらかじめ実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ侵害者等に対し権利を行使できない旨を定める。また第29条の2は、権利行使又は警告の後に登録が無効審判で無効にされた場合、権利者は原則として相手方の損害を賠償する責めに任ずるが、評価書を信頼した、又はその他相当の注意をもって権利行使をしたことを証明したときはこの限りでない旨を定める。評価書の提示なしに権利行使を行うと、この相当の注意の立証が困難になり得る点が特許権行使との違いである。
さらに第14条の2は、明細書・実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正について、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明等に限り、原則として一回に限り認める制限を定めている。これは無審査登録の不安定な権利内容を訂正で恣意的に拡張することを防ぐ趣旨であり、実施範囲や実施料の算定基礎に影響し得るため、訂正時の通知・協議条項(第7条)が重要となる。
実務でよくある失敗の第一は、評価書を取得しないまま契約を締結し、後日権利行使の段階で評価書を提示できないケースである。第5条のように評価請求義務を明記することが対策となる。第二は、無効審判で無効にされた場合の実施料清算ルールを定めていないケースであり、第2部Bのような無効時の実施料停止条項が対策となる。第三は、訂正による実施範囲の変動を想定していないケースであり、第7条のような事前通知・協議の仕組みが対策となる。
個別事案は専門家に確認してください。実用新案技術評価書の内容評価や無効理由の有無は考案ごとの技術的事情で異なるため、個別の分析が推奨される。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象となる実用新案登録番号、考案の名称及び内容が正確に特定されているか
- [ ] 実施権の種類(通常実施権・専用実施権)及び独占・非独占の別が明記されているか
- [ ] 実施の範囲(地域・期間・対象製品・実施態様)が具体的に定められているか
- [ ] 実施料の算定方法及び支払時期が明記されているか
- [ ] 実用新案技術評価書の取得状況及び提示に関する条項が設けられているか
- [ ] 第29条の3の技術評価書提示義務を踏まえた権利行使条項になっているか
- [ ] 登録が無効審判により無効にされた場合の責任分担及び実施料清算ルールが定められているか
- [ ] 第14条の2に基づく訂正が行われた場合の通知・協議条項があるか
- [ ] 権利の有効性及び実施許諾権原に関する表明保証条項があるか
- [ ] 秘密保持義務の範囲及び存続期間が明記されているか
- [ ] 契約期間・解除事由が実用新案権の存続期間と整合し、準拠法及び管轄裁判所が明記されているか