国際取引の当事者が適用される法と紛争を審理する裁判所を事前に合意する書式。法の適用に関する通則法7条と、民事訴訟法3条の7が定める管轄合意の要件に対応します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
準拠法及び裁判管轄に関する合意書
第1部: 書式本文
【日本企業名】(以下「甲」という)と【海外取引先名】(以下「乙」という)は、両者間の【対象取引の名称・契約名】(以下「原契約」という)に関し、準拠法及び裁判管轄について次のとおり合意する。
第1条(目的) 本合意書は、原契約に基づき甲乙間に生じる一切の紛争について、適用される法及び審理する裁判所をあらかじめ定めることを目的とする。
第2条(準拠法) 原契約の成立、効力、履行及び解釈は、【準拠法国名】法に準拠するものとする。
第3条(準拠法の適用範囲) 前条の準拠法は、原契約から生じる契約上の権利義務のほか、原契約に関連して生じる不法行為責任その他の法律関係にも適用する。ただし、強行法規により別段の定めがある場合はこの限りでない。
第4条(専属的合意管轄) 原契約に関する一切の紛争については、【裁判所名】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第5条(管轄合意の書面性) 本合意は書面によりされたものであり、甲乙は本合意書への署名をもって管轄合意の要件を満たすことを確認する。
第6条(手続言語) 訴訟手続において使用する言語は【言語】とし、必要な書証の翻訳費用の負担は【負担方法】とする。
第7条(送達) 甲乙は、訴訟手続における送達を受けるための国内の送達受取人をそれぞれ【送達受取人】と定める。
第8条(強行法規との関係) 本合意書のいずれかの条項が、消費者契約又は労働契約に関する強行法規その他の適用法令により無効とされる場合、当該条項のみを無効とし、その他の条項の効力には影響しない。
第9条(合意の効力発生) 本合意書は、原契約の締結と同時又はこれに付随して効力を生じ、原契約の終了後も紛争解決の目的の範囲で存続する。
第10条(原契約との関係) 本合意書の内容と原契約中の準拠法・管轄に関する条項とが抵触する場合、本合意書の定めを優先するものとする。
第11条(合意の変更) 本合意書の内容を変更する場合、甲乙双方の書面による合意を要する。
以上、本合意締結の証として本書2通(英文対訳版を含む場合はこれを含む)を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 日本企業の立場から
日本企業としては、自国での訴訟対応を可能にするため、専属的管轄裁判所を日本の裁判所に限定し、外国での提訴を防ぐ条項にすることが有利になりやすい。
修正例:「原契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とし、乙は日本国外の裁判所に訴えを提起しないものとする。」
一言解説:専属的管轄合意としておかないと、相手方が別の国の裁判所に提訴する余地が残り、二重の応訴負担が生じるおそれがある。
さらに日本企業としては、準拠法を日本法とすることで、社内の法務担当者や顧問弁護士による対応が容易になり、翻訳や外国法調査に要するコストを抑えられる利点がある。
修正例:「原契約の成立、効力及び解釈は日本法に準拠するものとし、日本の民法及び商法の適用を妨げない。」
一言解説:準拠法を自国法とすることは、管轄を自国裁判所とすることとあわせて検討することで、手続と実体判断の両面で予測可能性を高めることができる。
B. 海外取引先の立場から
海外取引先としては、自国での執行可能性を確保するため、判決の承認・執行が容易な国の裁判所を選ぶよう求めることが多い。
修正例:「甲乙は、いずれの裁判所の判決についても、双方の本店所在地国において承認・執行が可能であることを確認した上で、第4条の管轄裁判所を選択したものとする。」
一言解説:管轄裁判所を定めても、判決の執行地国で承認されなければ実効性を欠くため、あらかじめ執行可能性を検討しておくことが望ましい。
また海外取引先としては、自国語での手続対応を可能とするため、手続言語について母国語又は英語を選択できるよう求めることが多い。
修正例:「訴訟手続において提出する書証のうち日本語で作成されたものについては、乙の負担により英訳を添付するものとする。」
一言解説:手続言語や翻訳負担の取り決めがないと、実際に訴訟が提起された段階で追加の費用と時間を要するため、あらかじめ合意しておくことが双方にとって有益である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、国際的な物品売買、業務委託、ライセンス等の取引において、紛争発生時にどの国の法律が適用され、どの国の裁判所で審理されるかをあらかじめ明確にする場面で使用する。国内取引のみを行う当事者間や、既に仲裁合意を締結している契約には重複して用いるべきではない。
根拠法令としては、法の適用に関する通則法第7条が、法律行為の成立及び効力について当事者が選択した地の法によるとする当事者自治の原則を定めている。当事者が準拠法を選択しなかった場合には、同法第8条により最も密接な関係がある地の法が適用されることとなるため、あらかじめ準拠法を明示しておくことで適用法の予測可能性が大きく高まる。また、民事訴訟法第3条の7が国際裁判管轄に関する合意の要件を定めており、一定の法律関係に基づく訴えに関し書面でされることを要求している。消費者契約及び個別労働関係紛争については、同条4項及び5項により事後の合意など特則が置かれている点に注意が必要である。
実務でよくある失敗として、第一に、準拠法条項のみを定め、管轄条項を欠いたまま契約を締結し、いざ紛争が生じた際にどの国で提訴すべきか当事者間で争いになるケースがある。準拠法と管轄は必ずセットで検討し、本書式のように両者を一体的に定めることが対策となる。第二に、「専属的」との文言を欠いたため非専属的合意管轄と解釈され、相手方が別の国で提訴してしまうケースがあり、専属的である旨を明記することが必要である。第三に、消費者契約や労働契約に本合意を適用しようとし、強行法規により合意が制限され意図した効力が得られないケースがあり、適用対象を事業者間取引に限定する記載を設けることが望ましい。
第四に、原契約本文中の紛争解決条項と、別途締結した本合意書の内容が微妙に異なる文言になっており、どちらが優先するのか当事者間で解釈が分かれるケースがある。本合意書が原契約の紛争解決条項に優先する旨を明記し、原契約側にも本合意書を参照する文言を挿入しておくことが対策となる。
国際的な管轄合意の有効性は相手国の法制度によっても異なるため、実際の締結にあたっては渉外事務に精通した弁護士に個別に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 準拠法として指定する国の法を明記したか
- [ ] 準拠法の適用範囲(契約責任・不法行為責任)を明記したか
- [ ] 管轄裁判所を「専属的」合意管轄として明記したか
- [ ] 管轄合意が書面でされていることを確認したか
- [ ] 手続言語及び翻訳費用の負担を定めたか
- [ ] 送達受取人を指定したか
- [ ] 消費者契約・労働契約に該当しないことを確認したか
- [ ] 判決の承認・執行可能性を検討したか
- [ ] 強行法規により無効となる場合の分離可能性条項を設けたか
- [ ] 原契約との関連付け(原契約名・締結日)を明記したか
- [ ] 本合意書と原契約中の紛争解決条項との優先関係を明記したか
- [ ] 合意内容を変更する場合の手続(書面要件)を定めたか