住宅費補助を制度化する企業向け。世帯主要件や持家・借家別の支給額を定め、労働基準法第11条の賃金該当性と社会保険の算定基礎の扱いを整理します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
住宅手当規程
第1部: 書式本文
第1条(目的) 本規程は、【株式会社〇〇】(以下「会社」という。)の就業規則第【 】条に基づき、従業員に対して支給する住宅手当に関し必要な事項を定めることを目的とする。
第2条(適用範囲) 本規程は、会社に在籍する正社員であって、第3条に定める支給要件を満たす者に適用する。ただし、契約社員、パートタイム従業員及び有期雇用従業員については、別途定める場合を除き適用しない。
第3条(支給対象者) 住宅手当は、次の各号のいずれかに該当する従業員に対して支給する。 一 賃貸住宅(アパート、マンション等)に居住し、自ら賃貸借契約の名義人となり、賃料を負担している者 二 持家(分譲マンション、戸建て住宅を含む。)に居住し、住宅ローンを負担している者 三 会社が定める通勤圏内(【 】キロメートル以内)に住居を有する者 2 前項の支給を受けようとする者は、世帯主であることを要する。ただし、配偶者が世帯主である場合であって、当該従業員が住居費用の主たる負担者であると会社が認めるときはこの限りでない。
第4条(支給額) 住宅手当の月額は、次の各号のとおりとする。 一 賃貸住宅に居住する者 月額【30,000】円(ただし賃料月額が当該金額未満の場合は実費相当額) 二 持家(住宅ローン返済中)の者 月額【20,000】円 三 持家(住宅ローン完済後)の者 月額【10,000】円 2 前項の金額は、扶養家族の有無にかかわらず一律とする。
第5条(申請手続) 住宅手当の支給を受けようとする者は、【住宅手当支給申請書】に賃貸借契約書の写し又は住宅ローン返済予定表の写し等、支給要件を証する書類を添付して人事部に提出しなければならない。 2 会社は、提出された書類を審査のうえ、支給の可否及び支給額を決定し、本人に通知する。
第6条(支給開始及び支給日) 住宅手当は、第5条の申請が承認された日の属する賃金締切期間の翌賃金締切期間から支給を開始し、給与規程に定める賃金支払日に、当月分を他の賃金と合わせて支給する。
第7条(変更の届出) 従業員は、転居、世帯主の変更、住宅ローンの完済その他支給要件に影響を及ぼす事実が生じたときは、速やかに【住宅手当変更届】により人事部に届け出なければならない。 2 届出を怠ったことにより過払いが生じた場合、会社は当該過払い分について、給与規程の定めるところにより返還を求め、又は将来の賃金から控除することができる。控除については労働基準法第24条第1項の規定に基づき、事前の労使協定又は本人の書面による同意を得たうえで行う。
第8条(支給停止) 次の各号のいずれかに該当するときは、住宅手当の支給を停止する。 一 休職期間中(会社が特に認めた場合を除く。) 二 第3条各号の支給要件を満たさなくなったとき 三 虚偽の申請が判明したとき
第9条(賃金及び社会保険上の取扱い) 住宅手当は、労働基準法第11条にいう賃金に該当し、割増賃金の算定基礎に算入する。ただし、労働基準法第37条第5項及び労働基準法施行規則第21条に定める住宅手当が実際の住宅費用に応じて算定されるものではなく、一律に支給される場合には、割増賃金基礎からの除外(いわゆる住宅手当除外)の対象とならない点に留意する。 2 住宅手当は、健康保険法第3条第5項及び厚生年金保険法第3条第1項第3号にいう報酬に該当し、標準報酬月額の算定基礎に算入する。 3 住宅手当は、雇用保険料の算定基礎となる賃金にも算入する。
第10条(不正受給への対応) 虚偽の申請その他不正の手段により住宅手当の支給を受けた者に対しては、支給額の返還を求めるとともに、就業規則の懲戒規定に基づき懲戒処分を行うことがある。
第11条(規程の改廃) 本規程の改廃は、労働基準法第89条及び第90条の定めるところにより、従業員代表の意見を聴取したうえで会社が行う。
附則 本規程は、【西暦】年【 】月【 】日から施行する。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A節: 都市部勤務者向け
都市部の事業所勤務者は住宅費の負担が相対的に高額になりやすいため、支給額の上限設定と地域区分の導入が有効である。
修正条文例(第4条第1項の書き換え): 「住宅手当の月額は、勤務地を管轄する事業所所在地の区分に応じ、次のとおりとする。 一 東京都特別区及び政令指定都市に所在する事業所に勤務する者 月額【40,000】円を上限とし、賃料の【50】パーセント相当額 二 前号以外の地域に所在する事業所に勤務する者 月額【20,000】円を上限とし、賃料の【50】パーセント相当額」
一言解説: 都市部では実費に近い形での補助ニーズが強いため、賃料連動型の上限設定とすることで、支給の合理性と予算管理の両立を図る。地域区分は勤務地(通勤先)を基準にするか居住地を基準にするかを明確にしないと運用でトラブルが生じやすい。
B節: 全国転勤者向け
転勤を伴う全国型の人事制度を持つ企業では、転勤直後の住居確保費用と単身赴任者への配慮が必要となる。
修正条文例(第3条に第3項として追加): 「3 会社の命により転居を伴う異動をした従業員に対しては、前二項の支給要件にかかわらず、異動発令日の属する月から6か月間、第4条に定める金額に【10,000】円を加算して支給する。 4 単身赴任を命じられた従業員が、転勤前の住居(自宅)を維持しつつ赴任先に別途住居を確保する場合、会社が特に認めるときに限り、赴任先の住居費用について住宅手当を支給する。」
一言解説: 転勤加算は転勤直後の一時的な負担増を緩和する趣旨であり、恒久的な加算にしないよう期間限定を明記する。単身赴任者の二重住居費用については、就業規則の単身赴任手当規程との重複支給を避けるため、両規程の適用関係を整理しておく必要がある。
第3部: 書き方と法的ポイントの解説
本規程は、従業員の住宅費負担を会社が補助する制度を新設又は明文化する場面で導入する。特に、採用競争力の強化や地域間の処遇均衡を図りたい企業に適している。他方、住宅手当の支給が既に個別合意や慣行によって固定化しており、金額水準の見直し(減額)を主目的とする場合は、労働条件の不利益変更に該当するため、本規程の新設のみで足りず、労働契約法第9条・第10条に基づく合意形成又は就業規則変更の合理性の検討が別途必要となる点に注意すべきである。
根拠法令としては、労働基準法第11条(賃金の定義)により住宅手当が賃金に該当することを前提に、同法第37条に基づく割増賃金の算定基礎への算入の要否を検討する必要がある。住宅の形態やかかった費用に応じて算定される住宅手当は、労働基準法施行規則第21条第1号により割増賃金の基礎から除外できる可能性があるが、本規程第4条のように居住形態別の定額支給とする設計は、原則として除外対象とならない点を条文上明記した(第9条第1項)。また、健康保険法及び厚生年金保険法上、住宅手当は原則として報酬に該当し、標準報酬月額の算定基礎に算入される(健康保険法第3条第5項、厚生年金保険法第3条第1項第3号)。就業規則本体との関係では、住宅手当は労働基準法第89条第2号(相対的必要記載事項である賃金の決定・計算・支払方法)に該当するため、本規程を就業規則の一部又は付属規程として整備し、労働基準監督署への届出対象に含める必要がある。
実務上よくある失敗として、第一に、支給額を「実費相当額」とのみ定め、上限を設けないまま運用し、高額な家賃を負担する従業員との間で予算超過や不公平感が生じるケースがある。対策として、本規程第4条のように上限額又は一定の算定式(賃料の一定割合等)を明記することが有効である。第二に、世帯主要件や配偶者の扱いについて明文がないまま運用し、共働き世帯や単身者からの不満・不公平感を招くケースがある。対策として、第3条第2項のように世帯主の定義及び例外的取扱いを条文化しておくことが望ましい。第三に、転居等の変更届出義務を定めていないため、支給要件を満たさなくなった後も漫然と支給を継続し、過払いの回収が困難になるケースがある。対策として、第7条のように届出義務と過払い時の精算方法(賃金控除を含む労使協定の要否)を明記することが重要である。
なお、住宅手当の支給要件・金額の設計、既存制度からの変更の適法性、社会保険料への影響については、個別の事業場の実情や既存の労働条件によって結論が異なり得るため、実際の導入・改定に当たっては社会保険労務士又は弁護士等の専門家に確認することを推奨する。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 支給対象者の範囲(正社員限定か、有期雇用者も含むか)を明確にしたか
- [ ] 世帯主要件を設ける場合、その定義と例外的取扱いを条文化したか
- [ ] 支給額の上限又は算定式(賃料連動か定額か)を明記したか
- [ ] 割増賃金の算定基礎に算入するかどうかを労働基準法第37条・同法施行規則第21条に照らして検討したか
- [ ] 社会保険(健康保険・厚生年金)及び雇用保険の算定基礎への算入を確認したか
- [ ] 申請手続に必要な添付書類(賃貸借契約書、ローン返済表等)を具体的に定めたか
- [ ] 転居等の変更届出義務と、届出懈怠時の過払い精算方法を定めたか
- [ ] 過払い分を賃金から控除する場合、労働基準法第24条に基づく労使協定又は本人同意の取得方法を定めたか
- [ ] 既存の住宅手当制度からの変更となる場合、不利益変更に該当しないか労働契約法第9条・第10条の観点から確認したか
- [ ] 就業規則本体との整合性を確認し、労働基準監督署への届出対象に含めたか
- [ ] 単身赴任手当等、他の手当規程との重複支給の有無を整理したか