買収後に旧オーナーが一部株式を保有し共同経営する場合の株主間契約です。取締役指名権、拒否権事項、配当方針、出口条項を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
株主間契約書(M&A後の共同経営型)
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。買収により対象会社の株式の過半数を取得した株主)と〇〇〇〇(以下「乙」という。対象会社の旧オーナーであり、買収後も一部株式を保有し経営に関与する株主)とは、〇〇株式会社(以下「対象会社」という。)の株主として、次のとおり株主間契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲及び乙は、買収後の対象会社の経営を共同で行うにあたり、取締役の指名、重要事項の意思決定、利益配分及び将来の株式売却について、本契約に定めるところによる。
第2条(株式保有比率の維持) 甲及び乙は、本契約締結時における対象会社の株式保有比率(甲〇%、乙〇%)を、本契約に別段の定めがある場合を除き、相互の事前の書面による承諾なく変更しない。
第3条(取締役の指名権) 1. 甲は取締役会の構成員のうち〇名を指名する権利を有し、乙は〇名を指名する権利を有する。 2. 甲及び乙は、自らが指名した取締役の選任及び再任に必要な議決権を株主総会において行使する。 3. 乙が保有する対象会社株式の議決権割合が〇%を下回った場合、乙の取締役指名権は〇名に縮減される。
第4条(代表取締役の選定) 代表取締役は、甲が指名する取締役の中から取締役会の決議により選定する。ただし、乙は業務執行取締役として対象会社の事業運営に関与する。
第5条(少数株主の拒否権事項) 対象会社が次の各号に掲げる事項を決定するには、株主総会又は取締役会の決議に加えて、乙の書面による事前の同意を要する。 1. 定款の変更(会社法第108条に定める種類株式の内容の変更を含む。) 2. 新株、新株予約権又は社債の発行(既存株主に不利益を与えるものに限る。) 3. 事業の全部又は重要な一部の譲渡及び他社との合併、会社分割 4. 年間事業計画で定めた予算を著しく超える設備投資又は借入れ 5. 乙又は乙の指名する取締役の解任 6. 対象会社の解散又は倒産手続の申立て
第6条(配当方針) 対象会社は、各事業年度において分配可能額の範囲内で、甲及び乙が別途合意する配当性向を目安として剰余金の配当を行うよう努める。ただし、事業計画上必要な内部留保を優先することができる。
第7条(乙の株式買取請求権) 1. 乙は、本契約締結日から〇年を経過した日以降、いつでも甲に対し、乙の保有する対象会社株式の全部又は一部の買取りを請求することができる。 2. 前項の買取価格は、直近事業年度の財務諸表を基礎とした時価純資産方式又は甲乙が別途合意する算定機関の評価により算定する。 3. 甲は、前項の請求を受けた日から〇か月以内に代金を支払い、株式の移転手続を完了する。
第8条(甲の株式買取請求権) 乙が第10条に定める重大な義務違反を行った場合、甲は乙に対し、乙が保有する対象会社株式の全部の買取りを請求することができる。この場合の買取価格は前条第2項に準じて算定する。
第9条(デッドロックの解消) 1. 第5条各号の事項について甲乙の協議が調わない場合、両者は代表者間の協議により解消に努める。 2. 前項の協議が〇日以内に調わない場合、いずれの当事者も相手方に対し、自己の保有株式の売却又は相手方保有株式の買取りのいずれかを相手方に選択させる旨を書面で通知することができる(いわゆるシュートアウト条項)。
第10条(表明保証及び義務違反時の対応) 甲及び乙は、本契約締結にあたり必要な権限及び授権を有していることを表明保証する。いずれかの当事者が本契約上の重要な義務に違反し、催告後相当期間内に是正しない場合、相手方は本契約を解除し、又は損害賠償を請求することができる。
第11条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約及び対象会社の経営に関して知り得た秘密情報を、相手方の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。
第12条(契約期間) 本契約は、乙が対象会社の株式を保有する間、効力を有する。
第13条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 多数株主(買収者)向けの修正
A-1. 拒否権事項の限定と経過措置
修正後:「第5条の乙の同意を要する事項は、買収完了日から3年間に限り適用するものとし、当該期間経過後は第2号から第4号までの事項について乙の同意を要しない。」 一言解説: 買収直後は旧オーナーの知見を経営に活かす必要がある一方、統合が進んだ段階では意思決定の機動性を優先したい多数株主側の修正である。
A-2. 乙の株式買取請求権の行使回数制限
追加条文例:「乙による第7条の買取請求は、本契約期間中1回に限り行使することができるものとし、一部買取請求を行った場合、残部についての再度の請求はできない。」 一言解説: 資金繰りの予測可能性を確保するため、多数株主側が買取請求の分割行使による資金負担の分散を防ぐ修正である。
B. 少数株主(旧オーナー)向けの修正
B-1. 配当方針の数値化
修正後:「対象会社は、内部留保として必要な金額を控除した分配可能額の〇%以上を、毎事業年度、剰余金の配当として株主に分配する。」 一言解説: 「努める」という努力義務では実効性が乏しいため、少数株主側が具体的な配当性向の下限を数値で定める修正である。
B-2. デッドロック時の乙優先買取権
追加条文例:「第9条第2項のシュートアウト条項が発動した場合、乙は甲に先立ち、自己が売却者となるか買主となるかを選択する優先的地位を有する。」 一言解説: 対象会社の創業経緯に関する情報格差を踏まえ、少数株主側がデッドロック解消時の選択順序で不利にならないようにする修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、株式譲渡型のM&Aにより買収者が対象会社の株式の過半数を取得し、旧オーナーが一部株式を保有したまま経営に引き続き関与する場合の株主間の権利義務関係を定める場面で用いる。買収者が対象会社の株式を100%取得し旧オーナーが株主として残らない場合や、資本提携ではなく単なる業務提携にとどまる場合には、本書式は適さない。
根拠法令 株主間契約は会社法上の典型契約ではなく、当事者間の私的合意として民法上の契約自由の原則に基づき締結される。もっとも、取締役の指名や解任は株主総会の権限事項(会社法第329条、第339条)であり、株主間契約はあくまで議決権行使の合意にとどまるため、対象会社そのものを直接拘束するものではない点に留意が必要である。拒否権事項をより強固に担保する方法として、会社法第108条に定める種類株式(拒否権付株式、いわゆる黄金株)を発行し、定款に定款変更等の重要事項について当該種類株主総会の決議を要する旨を定める設計も検討に値する。また、取締役会の権限(会社法第362条)との関係で、株主間契約上の拒否権事項が取締役会の専決事項と抵触しないよう整理する必要がある。
実務でよくある失敗と対策 第一に、株主間契約が対象会社を当事者としていないため、対象会社の取締役や株主総会が契約の内容に反する決議を行っても契約違反の効果しか生じず、決議自体は有効となってしまう失敗がある。重要事項については種類株式の活用など会社法上の裏付けを併用することが対策となる。第二に、少数株主の株式買取請求権(第7条)について、買取価格の算定方法を曖昧にしたまま合意し、後日紛争化する失敗がある。算定方式(時価純資産方式、DCF方式等)と算定機関を具体的に条項化することが対策となる。第三に、デッドロック解消条項を定めずに拒否権事項だけを規定し、意思決定が長期間停滞する失敗がある。第9条のようなシュートアウト条項等の解消手続をあらかじめ定めることが対策となる。
種類株式の設計や買取価格の算定方式の妥当性は対象会社の財務状況や業種により異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 買収後の株式保有比率と議決権割合を正確に確認したか
- [ ] 甲乙それぞれの取締役指名人数と代表取締役の選定方法を定めたか
- [ ] 少数株主の拒否権事項のリストが対象会社の実情に照らして過不足ないか
- [ ] 拒否権事項について種類株式(会社法第108条)による裏付けの要否を検討したか
- [ ] 配当方針を努力義務にとどめるか数値目標とするか方針を決めたか
- [ ] 少数株主の株式買取請求権の行使時期・算定方法・決済期限を定めたか
- [ ] 多数株主による少数株主の株式買取請求権(義務違反時)を定めたか
- [ ] デッドロック解消手続(シュートアウト条項等)を定めたか
- [ ] 株主間契約が対象会社自身を拘束しないことを踏まえた実効性確保策を検討したか
- [ ] 秘密保持義務の対象範囲及び契約終了事由を確認したか