非上場会社の発行済株式全部を取得するM&Aで用いる譲渡契約書です。会社法第136条の譲渡承認手続、表明保証、クロージング条件を規定します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
株式譲渡契約書(全株式取得型)
第1部: 書式本文
譲渡人【氏名又は商号】(以下「甲」という。)及び譲受人【氏名又は商号】(以下「乙」という。)は、甲が保有する【対象会社商号】(以下「対象会社」という。)の発行済株式全部の譲渡に関し、次のとおり株式譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(株式の譲渡) 甲は、乙に対し、甲が保有する対象会社の普通株式【株式数】株(発行済株式の総数の全部、以下「本件株式」という。)を、本契約に定める条件に従い譲渡し、乙はこれを譲り受ける。
第2条(譲渡価額) 本件株式の譲渡価額は総額金【譲渡価額】円とし、乙は甲に対し、後記クロージング日に、甲の指定する銀行口座への振込みの方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。
第3条(譲渡承認手続) 対象会社の定款が本件株式の譲渡につき取締役会又は株主総会の承認を要する旨を定めている場合、甲は、会社法第136条又は第137条に基づき、本契約締結後速やかに対象会社に対し譲渡承認請求を行い、クロージング日までに承認を得るものとする。
第4条(クロージングの前提条件) 乙の本件株式取得義務は、次の各号がクロージング日の前日までにすべて充足されることを条件とする。一 前条の譲渡承認が得られていること。二 甲の表明保証がクロージング日において真実かつ正確であること。三 対象会社の主要な許認可の維持に支障が生じていないこと。四 対象会社の取締役及び監査役のうち乙が指定する者が辞任していること。
第5条(クロージング) クロージングは【クロージング日】に、甲乙合意する場所において行う。甲は乙に対し、本件株式に係る株主名簿の名義書換えに必要な書類を交付し、対象会社は乙を株主として株主名簿に記載する。
第6条(表明保証) 甲は乙に対し、本契約締結日及びクロージング日において、次の事項を表明し保証する。一 本件株式について適法かつ完全な権利を有し、質権その他の担保権が設定されていないこと。二 対象会社の計算書類が一般に公正妥当と認められる会計基準に従い作成され、対象会社の財政状態を適正に表示していること。三 対象会社に重要な簿外債務がないこと。四 対象会社が重要な訴訟又は行政処分の対象となっていないこと。
第7条(誓約事項) 甲は、本契約締結日からクロージング日までの間、対象会社の通常の業務の範囲を超える行為(重要な財産の処分、多額の借入れ、役員報酬の変更を含む。)を行わせないものとし、乙の事前の書面による承諾なくこれを行わせてはならない。
第8条(競業避止義務) 甲は、クロージング日から【期間】、【地理的範囲】において、対象会社の事業と同種又は類似の事業を自ら営み、又は第三者に行わせてはならない。
第9条(補償) 甲は、本契約上の表明保証違反又は義務違反により乙又は対象会社に損害が生じた場合、当該損害(合理的な弁護士費用を含む。)を賠償する。ただし、甲の補償責任の総額は譲渡価額を上限とする。
第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約の締結及び内容並びに本契約の交渉過程で知り得た相手方及び対象会社の非公開情報を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならない。
第11条(解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当期間を定めた催告後もこれが是正されない場合、本契約を解除することができる。
第12条(準拠法及び管轄) 本契約は日本法に準拠し、本契約に関する紛争については【裁判所名】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
【契約日】
甲(譲渡人): 【住所・氏名】 印 乙(譲受人): 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 譲渡人(売主)向けの修正
A-1. 補償責任の期間制限
修正後:「乙は、クロージング日から【1年間又は2年間】を経過した後は、甲に対し表明保証違反を理由とする補償を請求することができない。ただし、租税債務に関する表明保証違反については【3年間又は5年間】とする。」 一言解説: 全株式取得の場合、補償請求権に期間の定めがないと譲渡人がいつまでも責任を負い続けることになるため、除斥期間を設けて予測可能性を確保する修正である。
A-2. 表明保証の知る限りの限定
修正後:「甲は、第6条第4号について、甲が知り得る限りにおいて表明し保証する。」 一言解説: 対象会社の経営から退く譲渡人は、譲渡後に判明する事情まで無限定に保証することはできないため、認識の限定を付す修正である。
B. 譲受人(買主)向けの修正
B-1. デューデリジェンス開示事項の追加確認
追加条文例:「甲は、乙が実施したデューデリジェンスにおいて開示した資料及び回答が、重要な点において真実かつ正確であることを表明し保証する。」 一言解説: 買主は事前調査で得た情報の正確性についても表明保証の対象に含めることで、後日虚偽が判明した場合の補償請求を可能にする。
B-2. 価格調整条項の追加
追加条文例:「クロージング日における対象会社の純資産額が別紙基準純資産額を下回る場合、乙は甲に対し、その差額を譲渡価額から控除して支払うことができる。」 一言解説: 全株式取得では譲渡実行までの間に対象会社の財務状態が変動し得るため、買主側はクロージング時点の実態に応じた価格調整の仕組みを設ける。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、非上場会社の発行済株式の全部を第三者が取得し、経営権を完全に承継するM&A取引において用いる。譲渡人が複数存在する場合は、各譲渡人ごとに個別の契約を締結するか、共同売主として一つの契約に取りまとめるかを検討する必要がある。上場会社の株式を取得する場合は金融商品取引法上の公開買付規制等が別途適用されるため、本書式をそのまま用いることはできない。また株式の一部のみを取得し少数株主にとどまる取引には適さない。
根拠法令 株式の譲渡について定款で譲渡制限が付されている場合、会社法第136条により株主は会社に対し譲渡承認を請求することができ、会社法第137条は株式取得者からの承認請求を定める。会社が承認するか否かを決定する機関は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外では株主総会が原則である(会社法第139条)。株主名簿の名義書換えについては会社法第130条及び第133条が根拠となる。株式譲渡は事業譲渡(会社法第467条)とは異なり株主総会の特別決議(会社法第309条第2項)を要しない点が全株式取得型のスキーム選択における重要な相違点である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、譲渡制限株式であるにもかかわらず承認手続を失念し、クロージング後に譲渡の有効性が争われる失敗がある。第3条及び第4条第1号のように承認取得をクロージングの前提条件として明記することが対策となる。第二に、対象会社の簿外債務や偶発債務が譲渡後に判明し、買主が想定外の損失を被る失敗がある。第6条の表明保証及び第9条の補償条項を組み合わせ、A-1のように期間制限を付しつつ実効的な救済を確保することが対策となる。第三に、役員の退任手続を怠り、クロージング後も旧経営陣が対外的に権限を有するかのような外観が残る失敗がある。第4条第4号のように役員辞任をクロージングの前提条件とすることが対策となる。対象会社の業種や保有資産によって必要な確認事項は異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象会社の定款に株式譲渡制限の定めがあるか確認したか
- [ ] 会社法第136条・第137条に基づく譲渡承認手続の要否を確認したか
- [ ] 譲渡価額の算定根拠(純資産方式・DCF方式等)を明確にしたか
- [ ] クロージングの前提条件を具体的に列挙したか
- [ ] 表明保証の対象事項及び補償上限・期間制限を定めたか
- [ ] 対象会社の役員の辞任・後任選任の段取りを確認したか
- [ ] 競業避止義務の期間・地理的範囲を定めたか
- [ ] 株主名簿の名義書換えに必要な書類を確認したか
- [ ] 譲渡人が複数の場合の契約当事者構成を検討したか
- [ ] クロージング後の紛争解決手続(管轄・準拠法)を定めたか