オーナー株主の譲渡対価を株式代金と役員退職慰労金に配分する際の合意書です。会社法第361条の株主総会決議との整合を確認します。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
株式譲渡・役員退職慰労金併用合意書
第1部: 書式本文
譲渡人【氏名】(対象会社の代表取締役、以下「甲」という。)及び譲受人【氏名又は商号】(以下「乙」という。)は、【対象会社商号】(以下「対象会社」という。)の発行済株式の譲渡並びに甲の対象会社役員退任及び退職慰労金の支給に関し、次のとおり合意書(以下「本合意書」という。)を締結する。
第1条(株式の譲渡) 甲は、乙に対し、甲が保有する対象会社の普通株式【株式数】株(以下「本件株式」という。)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。
第2条(対価の総額及び配分) 甲が本件取引により受領する対価の総額は金【対価総額】円とし、その内訳は、本件株式の譲渡対価として金【株式代金】円(以下「株式代金」という。)、甲の対象会社役員退任に伴う退職慰労金として金【退職慰労金額】円(以下「退職慰労金」という。)とする。
第3条(甲の役員退任) 甲は、クロージング日をもって対象会社の代表取締役その他一切の役員の地位を辞任する。甲は、辞任にあたり必要な辞任届その他の書類を対象会社に提出する。
第4条(退職慰労金支給の株主総会決議) 対象会社は、甲の役員退任に伴う退職慰労金の支給について、会社法第361条第1項に基づき株主総会の決議によりその金額若しくは算定方法又はこれらの決定を取締役会に一任する旨を決定する。乙は、対象会社の株主として当該決議が本合意書締結後速やかに行われるよう協力する。
第5条(退職慰労金の支給時期) 対象会社は、前条の株主総会決議の成立後【期間】以内に、甲に対し退職慰労金を甲の指定する銀行口座へ振り込んで支払う。
第6条(株式代金の支払) 乙は、甲に対し、クロージング日に株式代金を甲の指定する銀行口座へ振り込んで支払う。
第7条(クロージング) クロージングは【クロージング日】に行い、甲は乙に対し本件株式に係る株主名簿の名義書換えに必要な書類を交付するとともに、対象会社は乙を株主として株主名簿に記載する。
第8条(源泉徴収等の取扱い) 退職慰労金の支給にあたっては、対象会社は所得税法その他関係法令に従い源泉徴収を行う。甲は、退職所得の受給に関する申告書その他必要な書類を対象会社に提出する。
第9条(表明保証) 甲は乙に対し、本件株式について適法かつ完全な権利を有すること、及び対象会社の直近の計算書類が財政状態を適正に表示していることを表明し保証する。
第10条(顧問等としての関与) 甲は、クロージング後【期間】、対象会社の要請に応じ、対象会社の事業の引継ぎに関し顧問又は相談役として助言を行う。当該助言に対する対価の要否及び金額は別途甲乙協議して定める。
第11条(競業避止義務) 甲は、クロージング日から【期間】、【地理的範囲】において、対象会社の事業と同種又は類似の事業を自ら営み、又は第三者に行わせてはならない。
第12条(退職慰労金支給決議が成立しない場合の取扱い) 前条の株主総会決議が成立しない場合、甲及び乙は、退職慰労金として予定していた金額の全部又は一部を株式代金に組み入れる等の代替措置について速やかに協議する。
第13条(準拠法及び管轄) 本合意書は日本法に準拠し、本合意書に関する紛争については【裁判所名】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
【合意日】
甲(譲渡人・退任役員): 【住所・氏名】 印 乙(譲受人): 【住所・氏名】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 譲渡人(オーナー株主・退任役員)向けの修正
A-1. 退職慰労金不支給リスクへの備え
追加条文例:「対象会社の株主総会において退職慰労金の支給が否決された場合、乙は甲に対し、株式代金の支払とは別に、本来退職慰労金として予定されていた金額に相当する金員を補償金として支払う。」 一言解説: 退職慰労金の支給は株主総会決議に係らしめられ確実に実現するとは限らないため、譲渡人側は決議不成立の場合の代替的な金銭確保の手当てをあらかじめ講じておく必要がある。
A-2. 顧問料の明確化
修正後:「乙は、甲に対し、第10条の顧問業務の対価として月額金【顧問料】円を、業務の提供の有無にかかわらず【期間】支払う。」 一言解説: 顧問関与の対価が曖昧なまま合意すると譲渡後に無償労働を強いられる懸念があるため、譲渡人側は金額と支払方法を確定させる修正を行う。
B. 譲受人(買主)向けの修正
B-1. 退職慰労金の過大支給に対する牽制
追加条文例:「退職慰労金の金額は、対象会社における甲の在任期間、功績及び同種同規模の会社における支給水準に照らして社会通念上相当な範囲を超えないものとする。」 一言解説: 退職慰労金が過大であると法人税法上の損金算入が制限されるおそれがあるため、買主側は支給額の合理性を契約上も確認する修正を行う。
B-2. 競業避止義務違反時の退職慰労金返還請求
修正後:「甲が第11条の競業避止義務に違反した場合、乙は対象会社をして、甲に対し既に支給した退職慰労金の全部又は一部の返還を請求させることができる。」 一言解説: 退職慰労金には功労報償の性格があるため、その支給後に譲渡人が競業行為を行った場合には返還を求める規定を設けることで実効性を確保する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、オーナー経営者が保有株式の譲渡と自らの役員退任を同時に行う場合において、譲渡対価の一部を株式代金として、残りを退職慰労金として受け取る構成をとる場面で用いる。退職慰労金として構成する部分については株主総会決議その他の会社法上の手続を要するため、対象会社に十分な利益剰余金がなく退職慰労金の支給自体が困難な場合や、譲渡人が役員でない場合には本書式の前提を欠き利用に適さない。
根拠法令 取締役の退職慰労金は報酬等の一種として会社法第361条第1項の規律を受け、その額、算定方法又は具体的な決定を取締役会等に委任する旨について株主総会の決議を要する。実務上は、支給基準を明示した上で具体的な金額の決定を取締役会に一任する決議方法が広く用いられている。退職慰労金として支給される金銭が実質的には株式の譲渡対価であると評価される場合、税務上は退職所得ではなく譲渡所得又は給与所得として取り扱われる可能性があり、所得税法上の退職所得の該当性判断に影響し得る。株式譲渡承認手続については、譲渡制限株式である場合、会社法第136条及び第137条に基づく承認を要する点は他の株式譲渡契約と同様である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、退職慰労金の支給について株主総会決議を経ないまま支払ってしまい、会社法第361条違反として取締役の責任が問題となる失敗がある。第4条のように株主総会決議の実施を明確な手続として組み込むことが対策となる。第二に、株式代金と退職慰労金の配分比率が恣意的で、税務上退職所得性が否認され追徴課税を受ける失敗がある。B-1のように在任期間や功績に照らした相当性の基準を条項に反映させることが対策となる。第三に、退職慰労金の支給決議が否決された場合の代替措置を定めておらず、譲渡人が想定した対価総額を確保できない失敗がある。第12条及びA-1のように決議不成立時の補償措置をあらかじめ規定することが対策となる。配分比率の妥当性や税務上の取扱いは個々の事情により異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対価総額のうち株式代金と退職慰労金の配分比率を定めたか
- [ ] 退職慰労金の支給について会社法第361条の株主総会決議を予定しているか
- [ ] 対象会社に退職慰労金支給に足りる利益剰余金があるか確認したか
- [ ] 退職慰労金の相当性(在任期間・功績・支給水準)を検討したか
- [ ] 決議不成立の場合の代替措置を定めたか
- [ ] 源泉徴収及び退職所得申告書の提出手続を確認したか
- [ ] 甲の役員辞任の時期とクロージングの時期を整合させたか
- [ ] 顧問関与を予定する場合、その対価の有無及び金額を定めたか
- [ ] 競業避止義務の期間・地理的範囲及び違反時の効果を定めたか
- [ ] 株式代金・退職慰労金それぞれの支払時期を明確にしたか