一定の事由が生じた場合に株式を買い取り又は買い取らせる権利を定める契約書です。行使価格の算定方法と行使期間を明確にします。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
株式買取オプション(コール・プット)契約書
第1部: 書式本文
〇〇〇〇(以下「甲」という。オプション権利者)と〇〇〇〇(以下「乙」という。〇〇株式会社の株式を保有する相手方株主)とは、乙が保有する〇〇株式会社(以下「対象会社」という。)の株式に関するコールオプション及びプットオプションについて、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(定義) 本契約において「コールオプション」とは甲が乙に対し乙保有株式の買取りを請求する権利を、「プットオプション」とは乙が甲に対し乙保有株式の買取りを請求する権利をいう。
第2条(コールオプションの発動事由) 甲は、次の各号のいずれかの事由が生じた場合、乙に対しコールオプションを行使することができる。 1. 対象会社の直近事業年度の営業利益が別紙に定める基準額を〇%以上下回ったとき(業績未達) 2. 乙が対象会社の代表取締役その他の役員を辞任し、又は解任されたとき(キーマン退任) 3. 乙が本契約又は関連する株主間契約上の重要な義務に違反し、催告後相当期間内に是正しないとき
第3条(プットオプションの発動事由) 乙は、次の各号のいずれかの事由が生じた場合、甲に対しプットオプションを行使することができる。 1. 甲が対象会社の経営方針について乙との事前協議を経ずに重要な変更を行ったとき 2. 甲又は対象会社が本契約締結時に表明保証した事項に重大な虚偽があったことが判明したとき 3. 本契約締結日から〇年を経過したとき
第4条(行使期間及び行使通知) 1. 甲又は乙(以下、オプションを行使する当事者を「行使当事者」という。)は、前二条の事由が生じたことを知った日から〇か月以内(以下「行使期間」という。)に、相手方に対し書面によりオプションを行使する旨を通知する(以下「行使通知」という。)。 2. 行使通知には、行使対象株式数及び発動事由の内容を記載する。 3. 行使期間内に行使通知が発せられない場合、当該事由に基づくオプションは消滅する。
第5条(行使価格の算定方法) 1. 業績未達又はキーマン退任を事由とする行使価格は、対象会社の直近事業年度の貸借対照表を基礎とした簿価純資産方式により算定する。 2. 契約違反又は表明保証違反を事由とする行使価格は、当該事由がなければ想定された企業価値を基礎としたDCF方式により算定し、算定にあたり甲乙が別途合意する第三者算定機関を選任する。 3. 前条第3項第3号(期間経過)を事由とするプットオプションの行使価格は、行使通知時点における対象会社の時価純資産方式による評価額とする。 4. 甲乙間で算定方法又は算定結果について協議が調わない場合、いずれの当事者も別途合意する算定機関に鑑定を依頼することができ、その鑑定結果に従う。
第6条(決済方法及び決済期日) 1. 行使通知が効力を生じた日から〇日以内に行使価格を確定し、確定日から〇日以内に代金の支払及び株式の移転手続を完了する。 2. 代金の支払は、甲乙が別途合意しない限り、一括の銀行振込により行う。 3. 乙は、対象会社株式の譲渡に必要な株主名簿の名義書換請求その他の協力を行う。
第7条(自己株式取得規制との関係) 甲が対象会社自身である場合又はオプションの決済において対象会社が乙保有株式を取得する場合、当該取得は会社法第155条以下に定める自己株式取得の手続及び財源規制に従って行う。
第8条(表明保証) 乙は、行使対象株式について担保権その他の第三者の権利が設定されていないこと及び当該株式の譲渡につき必要な社内手続を履践していることを表明保証する。
第9条(オプションの譲渡禁止) 甲及び乙は、本契約上の地位及びオプションを、相手方の書面による事前の承諾なく第三者に譲渡してはならない。
第10条(秘密保持) 甲及び乙は、本契約に基づき知り得た対象会社の財務情報その他の秘密情報を、行使価格算定その他本契約の履行に必要な範囲を超えて第三者に開示してはならない。
第11条(契約期間) 本契約は締結日から〇年間効力を有する。ただし、有効期間内に行使通知が発せられた場合、決済完了まで本契約は効力を有する。
第12条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. オプション権利者向けの修正
A-1. コールオプション発動事由への未達期間の累積要件追加
修正後:「第2条第1号の業績未達は、連続する2事業年度において基準額を下回った場合に限り発動事由とする。」 一言解説: 単年度の一時的な業績変動での発動を避けたい一方、オプション権利者側が累積的な未達を捕捉できるよう発動条件を精緻化する修正である。
A-2. 算定機関選任権限の甲への付与
修正後:「第5条第2項の第三者算定機関は、甲が候補者〇名を乙に提示し、乙が〇日以内に異議を述べない場合、甲の指定する機関を選任するものとする。」 一言解説: 算定機関の選任協議が難航しオプション行使が遅延することを避けるため、権利者側が選任手続の主導権を確保する修正である。
B. 相手方株主向けの修正
B-1. プットオプション発動事由の追加(資金繰り悪化時の保護)
追加条文例:「甲が対象会社に対する追加出資その他の資金拠出の義務を負っているにもかかわらずこれを履行せず、対象会社の資金繰りに重大な支障が生じたときは、乙はプットオプションを行使することができる。」 一言解説: 経営から退く可能性のある少数株主側が、資本政策上のリスクが顕在化した場合に投下資本を回収できるようにする修正である。
B-2. 行使価格の下限保証
追加条文例:「第5条により算定される行使価格が乙の当初出資額を下回る場合、乙が行使するプットオプションについては当初出資額を下限とする。」 一言解説: 業績連動で算定される価格が想定より低くなるリスクを踏まえ、相手方株主側が最低限の投下資本回収を確保する修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面 本書式は、M&A後の株式保有継続を前提に、あらかじめ定めた事由(業績未達、キーマン退任、契約違反等)が発生した場合に備えて、株式の買取り又は買取りを求める権利をオプションとして設定しておく場面で用いる。取引実行と同時に確定価格で株式を全部譲渡する通常の株式譲渡契約とは異なり、将来の事由発生を条件とする点に特徴があるため、即時決済を前提とする取引には適さない。
根拠法令 コールオプション及びプットオプションは、民法上、当事者の一方が予約完結の意思表示をすることにより売買契約を成立させる権利、いわゆる売買の一方の予約(民法第556条)の考え方を応用した仕組みである。同条は、予約完結権を有する当事者が相手方に対し完結の意思表示をした時に売買の効力が生じる旨を定めており、本書式の行使通知の位置付けもこれに準じる。また、オプションの決済において対象会社自身が自己株式として買い取る設計とする場合には、会社法第155条以下に定める自己株式取得の手続(株主総会又は取締役会の決議、財源規制としての分配可能額の範囲内での取得)を遵守する必要があり、これに違反する自己株式取得は無効となるリスクがある。行使価格の算定方法についても、恣意的な算定を避けるため、簿価純資産方式、時価純資産方式、DCF方式など複数の方式のいずれによるかを発動事由ごとにあらかじめ選択しておくことが望ましい。
実務でよくある失敗と対策 第一に、コールオプションとプットオプションの発動事由が曖昧で、双方の解釈が対立し行使の有効性自体が争われる失敗がある。第2条・第3条のように発動事由を号ごとに具体的に列挙することが対策となる。第二に、行使価格の算定方法を「時価により協議する」とのみ定め、協議が整わず行使が事実上機能しない失敗がある。第5条のように事由ごとの算定方式と算定機関選任手続をあらかじめ確定させることが対策となる。第三に、対象会社が自己株式として取得する決済スキームを採用したにもかかわらず、分配可能額の確認を怠り、自己株式取得規制(会社法第155条以下)に抵触するおそれがある失敗がある。決済前に分配可能額を確認する手続を条項に組み込むことが対策となる。
行使価格の算定方式や自己株式取得規制への該当性は対象会社の財務状況によって異なるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] コールオプションとプットオプションそれぞれの発動事由を号ごとに具体的に定めたか
- [ ] 業績未達の基準額及び判定期間(単年度か累積かなど)を明確にしたか
- [ ] 行使期間及び行使通知の方式(書面の記載事項)を定めたか
- [ ] 発動事由ごとの行使価格の算定方式(簿価・時価・DCF等)を定めたか
- [ ] 算定機関の選任手続及び協議不調時の解決方法を定めたか
- [ ] 決済期日及び代金支払方法を定めたか
- [ ] 対象会社が決済主体となる場合の自己株式取得規制(会社法第155条以下)への対応を確認したか
- [ ] 行使価格の下限又は上限を設ける必要があるか検討したか
- [ ] オプションの譲渡禁止及び承継の取扱いを定めたか
- [ ] 秘密保持義務の対象範囲を確認したか