被相続人が保有していた株式の名義を相続人へ書き換える請求書です。必要な添付書類と単元未満株の取扱いを整理します。想定される例外的な場面への対応方針も補足しています。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
株式の相続による名義書換請求書
第1部: 書式本文
【株式発行会社名】(又は【証券代行を行う信託銀行名】) 御中
【西暦】年【 】月【 】日
差出人(請求者・権利行使者) 住所 【 】 氏名 【 】 印 被相続人との続柄 【 】
株式名義書換請求書(相続による株主名簿記載事項の変更請求)
第1条(請求の趣旨) 請求者は、下記被相続人が保有していた下記株式について、会社法133条に基づき、相続人への株主名簿記載事項の変更(名義書換)を請求する。
第2条(被相続人及び相続の表示) 被相続人氏名 【 】 死亡年月日 【 】年【 】月【 】日 共同相続人の数 【 】名
第3条(対象株式の表示) 銘柄 【 】 証券コード 【 】 株式数 【 】株(うち単元株式数【 】株、単元未満株式数【 】株) 基準日 【 】年【 】月【 】日現在の株主名簿記載内容による
第4条(権利行使者の指定) 共同相続人は、会社法106条本文の規定に基づき、下記のとおり権利行使者を1名指定し、発行会社に通知する。 権利行使者 氏名【 】 住所【 】 指定の経緯 共同相続人全員による協議(別添「権利行使者指定合意書」参照)
第5条(名義書換後の名義) 名義書換後の株主名義は次のとおりとする。 【権利行使者を単独名義とする/共同相続人〇名の準共有名義とする】
第6条(添付書類) 一 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本一式 二 相続人全員の戸籍謄本又は法定相続情報一覧図の写し 三 遺産分割協議書の写し(遺産分割により株式を取得する相続人が確定している場合) 四 権利行使者指定合意書 五 請求者(権利行使者)の印鑑登録証明書及び実印による押印
第7条(単元未満株式の取扱い) 対象株式のうち単元未満株式については、会社法192条に基づき発行会社に対する買取請求を【行う/行わない】。買取請求を行う場合、別途所定の請求書式による。
第8条(名義書換の効力発生時期) 本請求に基づく名義書換は、発行会社(又は名義書換代理人)が本請求書及び添付書類一式を受理し、記載事項に不備がないことを確認した日をもって効力を生じるものとする。
第9条(基準日との関係) 会社法124条に定める基準日が本請求日以前に到来している場合、当該基準日における議決権及び剰余金配当請求権は名義書換前の株主名簿記載に従って処理されることを請求者は了承する。
第10条(表明保証) 請求者は、本請求書及び添付書類の記載内容が真実かつ正確であることを表明する。
以上
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 相続人の立場からの書き換え
A-1. 遺産分割協議前に暫定的に準共有名義とする場合
修正後:「第5条 名義書換後の株主名義は、遺産分割協議成立までの暫定措置として、共同相続人〇名の準共有名義(権利行使者〇〇)とする。遺産分割協議成立後、速やかに単独名義への変更請求を改めて行う。」 一言解説: 民法898条により相続財産である株式は遺産分割まで共同相続人の共有(遺産共有)に属するため、分割前の暫定名義であることを明記し、後日の再手続を予定しておくと混乱を避けやすい。
A-2. 相続人が複数おり権利行使者の指定に争いがある場合
修正後:「第4条 共同相続人間で権利行使者の指定について協議が調わないため、法定相続分に応じた議決権行使が可能かどうかについて発行会社に別途照会するとともに、必要に応じて家庭裁判所の遺産分割調停の中で権利行使者を定める。」 一言解説: 権利行使者の指定を通知しない限り会社に対して株式に関する権利を行使できないとされているため(最高裁平成27年2月19日判決)、指定が調わない場合の代替手段をあらかじめ検討しておく必要がある。
B. 発行会社・信託銀行(名義書換代理人)の立場からの書き換え
B-1. 権利行使者通知の受理条件の明確化
追加条文例:「当社は、会社法106条本文に基づく権利行使者の通知を受理するに当たり、共同相続人全員の署名押印がある指定書面又は遺産分割協議書のいずれかの提出を求める。通知がない場合、当社は共同相続人による権利行使に応じないことができる。」 一言解説: 会社法106条ただし書により会社が同意すれば権利行使者の通知がなくても権利行使に応じることは可能だが、実務上は紛争防止のため通知の受理条件を明確にしておく発行会社が多い。
B-2. 基準日をまたぐ場合の権利帰属条項
追加条文例:「第9条の基準日が到来している場合、当該基準日時点の株主名簿上の株主(被相続人)に帰属していた議決権及び剰余金配当請求権は、相続人が名義書換前に取得することはできない。当社は基準日時点の名簿記載に従い議決権行使書面等を送付する。」 一言解説: 会社法124条の基準日制度により、名義書換が完了する前に到来した基準日については旧名義(被相続人名義)のまま処理されるため、発行会社側はその取扱いを請求者に明示しておくことが望ましい。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、被相続人が上場株式・非上場株式を保有していたまま死亡し、相続人が株主名簿上の名義を自己(又は権利行使者)に書き換える場面で用いる。上場株式の場合、実際の手続は証券会社及び信託銀行(株主名簿管理人)を通じて行われることが多く、発行会社に直接請求書を提出する場面は限定的である点に留意する。他方、遺産分割協議がまだ成立せず、かつ共同相続人間で権利行使者の指定についても合意ができていない段階では、本書式による名義書換請求は受理されない可能性が高く、まずは権利行使者指定合意書の作成を先行させる必要がある。
根拠法令 株主名簿の記載及びその効力については会社法121条が定め、株主名簿記載事項の変更(名義書換)請求については会社法133条が定める。株式が共同相続された場合、会社法106条本文により、共有者は当該株式についての権利を行使する者1名を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができないとされている。この点については最高裁判所平成27年2月19日判決が、権利行使者の指定及び通知を欠く場合には共同相続人の全員が同意しない限り権利行使できない旨を判示している。基準日制度については会社法124条が定めており、基準日時点の株主名簿記載に基づいて権利の帰属が判断される。単元未満株式の買取請求権については会社法192条に規定がある。また、遺産分割前の株式が共同相続人の共有(遺産共有)に属することは民法898条に基づく。
実務でよくある失敗と対策 第一に、権利行使者の指定を怠ったまま発行会社に直接連絡し、議決権行使や配当請求ができないという失敗がある。A-2及び第4条のように、権利行使者指定合意書を必ず添付することが対策となる。第二に、遺産分割協議書が未成立の段階で単独名義への書換を求めてしまい、他の相続人から異議が出て手続が滞る失敗がある。A-1のように暫定的な準共有名義での処理を検討することが対策となる。第三に、基準日をまたぐ場合に配当金や議決権が旧名義のまま処理されることを認識しておらず、後から権利喪失に気づく失敗がある。B-2のように基準日との関係を条項上明記することが対策となる。
権利行使者の指定方法や遺産分割との関係については事案ごとの事情により結論が異なりうるため、個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本一式を取得したか
- [ ] 相続人全員を明らかにする戸籍謄本又は法定相続情報一覧図を取得したか
- [ ] 遺産分割協議書が成立しているか、成立していない場合は暫定名義の方針を検討したか
- [ ] 権利行使者指定合意書を作成し共同相続人全員の署名押印を得たか(会社法106条)
- [ ] 対象株式が上場株式か非上場株式かを確認し、請求先(発行会社・証券会社・信託銀行)を特定したか
- [ ] 単元未満株式の有無を確認し、買取請求(会社法192条)の要否を検討したか
- [ ] 直近の基準日(会社法124条)の到来時期と名義書換の完了時期の前後関係を確認したか
- [ ] 請求者(権利行使者)の印鑑登録証明書を準備したか
- [ ] 名義書換完了後の議決権行使書・配当金領収証の送付先を確認したか
- [ ] 非上場株式の場合、譲渡制限株式に該当し会社の承認等が別途必要かを確認したか