非上場会社の株式に質権を設定して融資を保全する場面の契約書。会社法第146条の株式の質入れと民法第362条の権利質、略式・登録質の別を整理。

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株式質権設定契約書

第1部: 書式本文

【質権者商号】(以下「甲」という。)と【質権設定者(株主)氏名又は商号】(以下「乙」という。)とは、乙の甲に対する債務を担保するため、次のとおり株式質権設定契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(被担保債権) 本契約が担保する債権は、甲乙間の【〇〇年〇〇月〇〇日】付金銭消費貸借契約に基づく元本金【 】円、これに対する利息及び遅延損害金の債権(以下「被担保債権」という。)とする。

第2条(質権の設定) 乙は、被担保債権を担保するため、乙が保有する【発行会社商号】(以下「発行会社」という。)の株式【 】株(以下「本件株式」という。)につき、甲のために質権(以下「本質権」という。)を設定する。本質権は会社法第146条第1項及び民法第362条に定める株式の質入れとする。

第3条(略式質・登録質の選択) 本質権は【略式質/登録質】とする。 1. 略式質による場合、乙は本件株式に係る株券を甲に交付する(会社法第146条第2項)。株券不発行会社の場合、乙は発行会社に対し質権設定の付記を要しない旨を確認の上、株主名簿の名義書換及び占有の移転に代わる方法により対抗要件を具備する。 2. 登録質による場合、乙は発行会社に対し、甲の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載又は記録するよう請求する(会社法第148条)。

第4条(対抗要件) 本質権を発行会社その他の第三者に対抗するためには、株券発行会社にあっては本件株式に係る株券の継続的な占有(会社法第147条第2項)、登録質の場合は株主名簿への記載又は記録(会社法第147条第1項)によるものとする。

第5条(担保の効力の及ぶ範囲) 本質権の効力は、民法第362条第2項において準用される第350条及び第297条により、本件株式について発行会社から支払われる剰余金の配当、残余財産の分配その他の金銭についても及ぶ(物上代位)。

第6条(議決権の帰属) 本件株式に係る議決権は、質権設定後も乙(株主)に帰属し、甲は議決権を行使することができない。

第7条(株主権行使への協力) 乙は、発行会社の株主総会その他の機関決定において、本質権の担保価値を毀損する事項(重要な事業の譲渡、大幅な減資等)が議題となる場合、事前に甲に通知し、甲の意見を聴取する。

第8条(登録質の場合の配当金等の受領) 登録質を選択した場合、甲は、発行会社から本件株式に係る剰余金の配当を受領し、これを被担保債権の弁済に充当することができる(会社法第154条第1項)。

第9条(実行方法) 被担保債権について期限の利益の喪失事由が生じたときは、甲は民法第366条の規定又は動産及び債権の実行に準じた方法(私的実行の合意がある場合はこれによる)により本件株式を処分し、優先弁済を受けることができる。

第10条(担保解除) 被担保債権が完済されたときは、甲は乙に対し、株券を返還し、又は株主名簿の質権に関する記載若しくは記録の抹消に協力する。

第11条(協議及び合意管轄) 本契約に関する紛争については、【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

以上を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。

【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】

(甲) 住所:【     】 商号:【     】 代表者:【     】 印 (乙) 住所:【     】 氏名又は商号:【     】 印

第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン

A. 質権者向け書き換え

A-1. 非上場会社の支配株主が保有する株式を担保に取る場面

第7条修正例:「乙は、発行会社の株主総会において議決権を行使するにあたり、本質権の担保価値に重大な影響を及ぼす事項については、あらかじめ甲の書面による承諾を得るものとする。」 解説: 支配株主の議決権行使により会社の重要な財産状況が変動すると担保価値が損なわれるおそれがあるため、事前承諾を要する事項を設けて実効的な担保保全を図る。

A-2. 登録質により配当金からの回収を確保したい場面

第8条修正例:「甲は、被担保債権の履行期が到来するまでの間に発行会社から受領した配当金を、遅滞なく被担保債権の期限前弁済に充当することができる。」 解説: 登録質のメリットである配当金の直接受領権を活用し、履行期前であっても回収の機会を確保する設計とする。

B. 質権設定者(株主)向け書き換え

B-1. 議決権を維持しつつ担保として利用したい場面

第6条修正確認:「本件株式の議決権は乙に留保され、甲は発行会社の経営に関与しない。乙は本質権の存続中も株主としての権利を通常どおり行使できる。」 解説: 略式質・登録質いずれの場合も議決権自体は株主に留保されることを明記し、経営への影響がないことを確認する。

B-2. 発行会社への通知内容を限定したい場面

第7条修正例:「乙が甲に通知すべき事項は、本件株式の評価額に直接影響する減資、組織再編及び解散に関する議案に限る。」 解説: 通知義務の範囲を担保価値に直接影響する重要議案に限定し、日常的な経営判断への介入を避ける。

第3部: 書き方と法的ポイント解説

使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、非上場会社の株式を保有する株主が、金融機関等からの融資を受けるにあたり自己の保有株式を担保として提供する場面で用いる。上場株式を担保とする場合は振替株式に関する社債、株式等の振替に関する法律に基づく質権設定の手続(振替口座簿への記載又は記録)によることとなり、株券発行会社を前提とする本書式とは対抗要件具備の方法が異なるため注意が必要である。また株式の所有権自体を確定的に移転させる場合は株式譲渡担保契約書を用いるべきであり、質権にとどまる本書式とは法的構成が異なる。

根拠法令 株式の質入れは会社法第146条に基づき認められ、株券発行会社においては株券の交付によって質入れの効力が生じる(同条第2項)。質権には略式質と登録質があり、略式質は株券の占有の継続により第三者に対抗できる(会社法第147条第2項)のに対し、登録質は株主名簿への記載又は記録により対抗要件を具備し(同条第1項)、発行会社から直接配当等を受領できる特則がある(会社法第154条第1項)。株式質権にも民法第362条に基づき権利質の規定が準用され、物上代位(民法第350条、第304条)により配当金等にも効力が及ぶ。議決権は株主である乙に留保される点は、担保設定によっても変わらない。

実務でよくある失敗と対策 第一に、略式質と登録質の違いを理解せず対抗要件具備の手続を誤り、質権を第三者に対抗できない失敗がある。第3条・第4条のようにいずれの方式かを明確にし、それぞれの要件に従った手続をとる。第二に、株券不発行会社であるにもかかわらず株券の交付を前提とした条項を用い、実務上の手続と齟齬が生じる失敗がある。発行会社が株券発行会社か株券不発行会社かを事前に確認し、条項を調整する。第三に、支配株主の議決権行使により会社の重要資産が処分され、担保価値が毀損される失敗がある。第7条のように重要事項についての通知・承諾条項を設ける。株式の評価額算定や実行方法の詳細は専門家に確認することが望ましい。

第4部: 使用前チェックリスト

  • [ ] 発行会社が株券発行会社か株券不発行会社かを確認したか
  • [ ] 上場株式の場合、振替株式としての質権設定手続に読み替えたか
  • [ ] 略式質・登録質のいずれを選択するか明確にしたか
  • [ ] 対抗要件具備の方法(株券占有・株主名簿記載)を正しく定めたか
  • [ ] 議決権が乙に留保されることを明記したか
  • [ ] 物上代位により配当金等に質権の効力が及ぶことを確認したか
  • [ ] 重要事項に関する乙から甲への通知・承諾条項を設けたか
  • [ ] 実行方法(処分の手続)を具体的に定めたか
  • [ ] 完済時の株券返還又は質権抹消手続を明記したか