非上場株式を後継者や親族へ無償で移転する場面の書式。民法第549条に加え、譲渡制限株式の承認手続と株主名簿の名義書換手順を定めます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
株式贈与契約書
第1部: 書式本文
【贈与者氏名】(現経営者、以下「甲」という。)、【受贈者氏名】(後継者、以下「乙」という。)及び【発行会社商号】(以下「丙」という。)は、次のとおり株式贈与契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(贈与の合意) 甲は、民法第549条に基づき、甲が保有する丙の普通株式【〇〇】株(以下「本件株式」という。)を無償で乙に与える意思を表示し、乙はこれを受諾した。
第2条(譲渡制限の確認) 1. 甲、乙及び丙は、本件株式が丙の定款により譲渡制限株式(会社法第107条第1項第1号)とされていることを確認する。 2. 甲又は乙は、会社法第136条又は第137条に基づき、丙に対し本件株式の贈与による取得について承認を請求する。 3. 丙は、会社法第139条に定める取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)の決議により、当該請求の承認又は不承認を決定し、法定の期間内に甲及び乙に通知する。
第3条(株主名簿の名義書換) 1. 丙が前条の承認をしたときは、乙は会社法第133条に基づき、丙に対し株主名簿の名義書換を請求する。 2. 丙は、会社法第121条に定める事項を株主名簿に記載又は記録し、名義書換手続を完了する。
第4条(株券及び附属書類の引渡し) 甲は、本契約締結後速やかに、本件株式に係る株券(発行している場合)、株主名簿記載事項証明書その他名義書換に必要な書類を乙に引き渡す。
第5条(表明保証) 甲は、乙に対し、本契約締結日現在において次の事項を表明し保証する。 (1) 本件株式が甲の適法かつ完全な所有に属し、質権その他の担保権が設定されていないこと (2) 本件株式の贈与につき、法令又は丙の定款上必要な手続を履践していること
第6条(経営権の異動に関する事項) 1. 甲及び乙は、本件株式の贈与が丙の経営権の後継者への移転を目的とすることを確認する。 2. 甲は、本件株式の贈与後も一定期間、乙に対し丙の経営に関する助言及び引継ぎを行う。引継ぎの期間及び方法は甲乙協議の上定める。
第7条(遺留分に関する特例の検討) 甲及び乙は、本件株式の評価額が高額であり他の推定相続人の遺留分を侵害するおそれがある場合、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「経営承継円滑化法」という。)に基づく遺留分に関する民法の特例(除外合意又は固定合意)の活用を検討する。
第8条(贈与税の負担) 本件株式の贈与に伴い課される贈与税その他の公租公課は、乙の負担とする。乙は、必要に応じて事業承継税制(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例)の適用要件を確認する。
第9条(秘密保持) 甲、乙及び丙は、本契約の締結及び履行に関連して知り得た丙の経営情報を第三者に開示又は漏えいしてはならない。
第10条(反社会的勢力の排除) 甲、乙及び丙は、自己が暴力団その他の反社会的勢力に該当せず、これらと関係を有しないことを表明し保証する。
第11条(協議及び合意管轄) 1. 本契約に定めのない事項は甲乙丙誠意をもって協議し解決する。 2. 本契約に関する紛争は【〇〇地方裁判所】を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上の合意を証するため本書3通を作成し、甲乙丙記名押印の上、各自1通を保有する。
【〇〇〇〇年〇〇月〇〇日】
(甲) 住所:【 】 氏名:【 】 印 (乙) 住所:【 】 氏名:【 】 印 (丙) 所在地:【 】 商号:【 】 代表者:【 】 印
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 贈与者(現経営者)向け書き換え
A-1. 段階的に株式を移転していく場面
第1条修正例:「甲は、本件株式のうち議決権の過半数に達するまでの部分を本契約により贈与し、残余については別途複数年にわたり分割して贈与する。」 解説: 一括贈与は贈与税負担が急増するため、議決権比率を意識しつつ複数年で分割し税負担を平準化する設計を明記する。
A-2. 経営から完全に引退せず一定の関与を残す場面
第6条2項修正例:「甲は、本件株式の贈与後【1】年間、丙の相談役として経営会議への出席及び対外的な信用維持に必要な業務を行う。」 解説: 名義上の経営権は移転しても実質的な引継ぎ期間を設けることで、取引先や金融機関との関係の断絶を防ぐ。
B. 受贈者(後継者)向け書き換え
B-1. 事業承継税制の納税猶予を利用する場面
第8条修正例:「乙は、本契約締結前に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づく都道府県知事の認定を受け、贈与税の納税猶予制度の適用を受けるものとする。」 解説: 事業承継税制の適用には贈与前の認定申請等の期限管理が必要であり、条項化して手続の欠落を防ぐ。
B-2. 他の兄弟姉妹との遺留分紛争が懸念される場面
第7条修正例:「甲及び乙は、本件株式について経営承継円滑化法に基づく除外合意を行い、他の推定相続人【氏名】の同意及び家庭裁判所の許可を得る手続を本契約締結後【〇】か月以内に行う。」 解説: 除外合意により株式評価額を遺留分算定基礎財産から除外でき、後継者の株式が遺留分侵害額請求で分散するリスクを軽減する。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面・使ってはいけない場面 本書式は、非上場会社の現経営者が保有する譲渡制限株式を、後継者である親族へ無償で移転する事業承継の場面で用いる。上場株式や譲渡制限のない株式の贈与、あるいは有償譲渡(株式譲渡契約書によるべき場面)には本書式はなじまない。
根拠法令の解説 贈与の成立根拠は民法第549条である。譲渡制限株式の取得には会社法第136条(株主からの承認請求)又は第137条(株式取得者からの承認請求)、及び第139条(取締役会等による承認決定)の手続を要し、これを欠く譲渡は会社に対抗できない。株主名簿の名義書換については会社法第121条及び第133条が根拠となり、名義書換未了の場合、乙は丙に対し株主であることを対抗できない。事業承継に伴う税負担及び遺留分の調整については、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づく事業承継税制(納税猶予)及び遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)の活用が実務上重要である。
実務でよくある失敗と対策 第一に、譲渡制限株式であることを失念し、会社の承認手続を経ないまま贈与してしまい、会社に対抗できない失敗がある。第2条・第3条のように承認請求と名義書換手続を明記する。第二に、株式評価額が想定以上に高額となり、後継者に多額の贈与税が発生する失敗がある。第8条のように事業承継税制の検討を条項化する。第三に、遺留分を考慮せず後継者以外の相続人との紛争に発展する失敗がある。第7条のように遺留分の民法特例の活用を検討する。株式評価額の算定や税制適用の可否は個別事情により異なるため、税理士・弁護士等の専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 対象株式が譲渡制限株式か否かを定款で確認したか
- [ ] 会社法第136条・第137条に基づく承認請求手続を条項化したか
- [ ] 会社法第139条に基づく承認機関(取締役会又は株主総会)を確認したか
- [ ] 会社法第121条・第133条に基づく株主名簿の名義書換手続を明記したか
- [ ] 株券発行会社か否かを確認し、株券の引渡し方法を定めたか
- [ ] 贈与税額を試算し、事業承継税制(納税猶予)の適用可能性を検討したか
- [ ] 経営承継円滑化法に基づく遺留分の民法特例の要否を検討したか
- [ ] 経営引継ぎの期間・方法・甲の関与範囲を定めたか
- [ ] 発行会社(丙)を契約当事者として関与させる必要性を確認したか