肥育農家が素畜を預かり飼養管理する預託取引の契約書。家畜伝染病予防法の届出義務や飼養衛生管理基準、事故畜の危険負担と精算方法を規定します。
家畜の預託契約書
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
第1部: 書式本文
預託者〇〇〇〇(以下「甲」という。素畜の所有者)と受託者〇〇〇〇(以下「乙」という。肥育を行う農家)とは、甲の所有する家畜の飼養管理の委託に関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(目的) 甲は乙に対し、末尾記載の家畜(以下「本件家畜」という。)の飼養管理を委託し、乙はこれを受託して肥育を行う。
第2条(預託家畜の表示) 本件家畜は、個体識別番号その他の識別情報により末尾別紙のとおり特定する。甲は、預託時に本件家畜の健康状態を乙に説明する。
第3条(飼養管理方法) 乙は、通常の肥育農家に求められる飼養管理方法に従い、善良な管理者の注意をもって本件家畜を飼養する。飼料の種類及び給与方法は末尾別紙のとおりとする。
第4条(飼養衛生管理基準の遵守) 乙は、家畜伝染病予防法第12条の3に定める飼養衛生管理基準を遵守し、衛生管理区域の設定その他必要な措置を講じる。
第5条(伝染病発生時の届出及び対応) 乙は、本件家畜又は同一畜舎内の家畜について家畜伝染病予防法上の届出を要する症状を認めたときは、同法第13条に基づき遅滞なく家畜保健衛生所等に届け出るとともに、速やかに甲に通知する。移動制限等の措置が講じられた場合、甲及び乙はこれに従う。
第6条(預託料) 甲は乙に対し、預託料として月額金〇〇〇〇円を、毎月末日までに乙の指定する口座に振り込んで支払う。
第7条(事故畜の危険負担) 本件家畜が飼養期間中に疾病、事故その他の理由により死亡し、又は廃用となった場合(以下「事故畜」という。)の危険負担は、乙の飼養管理上の注意義務違反に起因する場合を除き、甲の負担とする。
第8条(事故発生時の通知義務) 乙は、事故畜が生じたとき、又はそのおそれが生じたときは、直ちに甲に通知し、獣医師の診断その他必要な措置を講じる。
第9条(精算) 飼養期間終了時の精算は、出荷時の家畜の評価額から預託料及び飼料費等の費用を控除した額を基準として行う。精算方法の詳細は末尾別紙のとおりとする。
第10条(保険) 甲及び乙は、本件家畜について家畜共済その他の保険への加入の要否及び保険料の負担を協議して定める。
第11条(預託期間及び返還) 預託期間は〇〇〇〇年〇月〇日から〇か月間とする。期間満了時、乙は本件家畜を甲の指定する方法により返還し、又は甲の承諾を得て出荷する。
第12条(契約解除) 甲又は乙は、相手方が本契約に違反し、相当の期間を定めた催告後も是正されない場合、本契約を解除することができる。
第13条(合意管轄) 本契約に関する紛争については、【乙の飼養場所を管轄する】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 預託者(素畜所有者)向けの修正
A-1. 損耗率(事故率)の上限設定
修正後:「乙の飼養管理下における事故畜の発生率が預託頭数の〇パーセントを超えた場合、甲は乙に対し飼養管理方法の説明を求めることができ、当該説明が合理性を欠くと甲が判断したときは、甲は本件家畜の全部又は一部の返還を求めることができる。」
一言解説: 預託者としては個体ごとの事故の有無だけでなく群全体の損耗率を管理指標とすることで、通常想定される範囲を超える事故の多発時に早期に是正を求められるようにする修正である。
A-2. 定期報告義務の付加
修正後:「乙は、毎月末日までに本件家畜の増体状況、給餌量及び健康状態を記載した報告書を甲に提出する。甲は、当該報告書の内容に疑義があるときは、乙に対し畜舎の立入りを求めることができる。」
一言解説: 預託者は日常の飼養状況を直接確認できない立場にあるため、定期報告義務と立入確認の余地を確保しておくことで、飼養管理の実態を把握できるようにする修正である。
B. 受託者(肥育農家)向けの修正
B-1. 伝染病発生時の責任限定
修正後:「乙が家畜伝染病予防法第12条の3に定める飼養衛生管理基準を遵守していたにもかかわらず本件家畜が家畜伝染病に罹患した場合、乙はその発生について甲に対する損害賠償責任を負わない。ただし、乙は同法第13条の届出義務及び移動制限その他行政機関の指示への対応を誠実に行う。」
一言解説: 飼養衛生管理基準を遵守していても伝染病の発生を完全には防げないため、受託者としては基準遵守を条件として結果責任を負わない旨を明確にし、過度なリスク負担を避ける修正である。
B-2. 飼料価格高騰時の預託料改定
修正後:「飼料の市場価格が預託開始時に比して〇パーセント以上上昇したときは、乙は甲に対し、当該上昇分を考慮した預託料の改定を申し入れることができ、甲乙はこれについて速やかに協議する。」
一言解説: 肥育の期間は数か月から1年以上に及ぶことがあり、その間の飼料価格変動は受託者の収益を大きく左右するため、価格変動に応じた預託料改定の申入れ権をあらかじめ確保する修正である。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
使う場面/使ってはいけない場面
本書式は、素畜の所有者が肥育農家に対して家畜の飼養管理を委託し、一定の肥育期間を経て出荷又は返還を受ける取引に用いる。家畜の所有権自体を移転する売買取引には用いるべきではなく、その場合は家畜の売買契約書を別途用意する必要がある。また、飼養管理の対価が定額の請負代金として固定され、家畜の評価額による精算を予定しない場合は、本書式の精算条項がそぐわないため、条項構成を見直す必要がある。
根拠法令
家畜伝染病予防法は、家畜の所有者及び管理者に対し、飼養衛生管理基準の遵守を義務付けており(同法第12条の3)、当該基準は畜舎の消毒、衛生管理区域の設定、野生動物の侵入防止措置等、多岐にわたる。また、家畜伝染病を疑わせる症状を発見した場合には、遅滞なく都道府県知事等への届出を行う義務が定められており(同法第13条)、届出を怠ると罰則の対象となり得る。伝染病の発生が確認された場合には、家畜の移動制限や殺処分等の措置が命じられることがあり、これらの行政措置に伴う損失については、法令上の手当金等の制度が別途用意されている場合がある。
実務でよくある失敗と対策
第一に、事故畜が生じた場合の危険負担を定めずに契約し、疾病による損失が預託者・受託者いずれの負担かをめぐって争いになる例が多い。飼養管理上の注意義務違反の有無を基準に危険負担を切り分けておくべきである。第二に、飼養衛生管理基準の遵守を条項に盛り込まないまま契約し、伝染病発生時に受託者の管理責任の有無が不明確になる例も見られる。基準遵守の事実を記録・報告する仕組みを設けておくことが望ましい。第三に、精算時の家畜評価方法をあいまいにしたまま契約し、出荷時の相場変動によって精算額に大きな差が生じて紛争化する例がある。評価の基準となる市場や算定方法を具体的に定めておくべきである。個別事案は専門家に確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト
- [ ] 預託家畜を個体識別番号等で具体的に特定したか
- [ ] 飼養管理方法及び飼料の種類・給与方法を明記したか
- [ ] 家畜伝染病予防法第12条の3の飼養衛生管理基準遵守を条項化したか
- [ ] 伝染病発生時の届出義務(同法第13条)及び通知手続を定めたか
- [ ] 預託料の額、支払時期及び改定条件を定めたか
- [ ] 事故畜発生時の危険負担の基準を明確にしたか
- [ ] 事故発生時の通知義務及び獣医師対応の手続を規定したか
- [ ] 精算方法(評価基準・控除項目)を具体的に定めたか
- [ ] 家畜共済その他の保険加入の要否を確認したか
- [ ] 預託期間満了時の返還又は出荷の手続を明記したか
- [ ] 定期報告義務の頻度及び内容を定めたか
- [ ] 契約解除事由及び合意管轄を規定したか