現地パートナーと合弁で海外子会社を設立する際に出資比率や役員構成を定める基本合意書。会社法上の子会社管理と、外為法に基づく対外直接投資の届出・報告に触れます。
⚠ 本書式は弁護士監修前の草稿である。監修完了まで販売・配布・公開を禁止する。 本書式は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別・具体的な法律相談に代わるものではない。
海外現地法人設立に関する基本合意書
第1部: 書式本文
【日本企業名】(以下「甲」という)と【現地パートナー名】(以下「乙」という)は、【対象国名】において合弁により現地法人(以下「本現地法人」という)を設立することに関し、以下のとおり基本合意書(以下「本合意書」という)を締結する。
第1条(目的) 甲および乙は、【事業内容】を目的として、【対象国名】の会社法に準拠した現地法人を共同で設立する。本合意書は、設立に至るまでの基本的な条件を定めるものであり、法的拘束力のある最終契約(合弁契約書、定款等)の締結に向けた枠組みを提供する。
第2条(記載項目一覧) 本現地法人の設立にあたり、甲乙は以下の事項について基本的な合意をする。
- 出資比率 甲:【51】%、乙:【49】% を目安とし、最終的な比率は最終契約において確定する。
- 資本金の額 資本金総額は【現地通貨または円換算額】を目安とする。
- 役員構成 取締役【5】名のうち甲が【3】名、乙が【2】名を指名する。代表権を有する役員の選任方法についても最終契約で定める。
- 拒否権事項(重要事項の決定) 増資、減資、定款変更、事業譲渡、解散、年間予算を超える多額の投資その他重要事項については、甲乙双方の事前承諾を要するものとする。
- 利益配当方針 本現地法人が獲得した利益の配当方針(配当性向の目安、内部留保の方針)について協議のうえ定める。
- デッドロックの解消方法 取締役会または株主間で意思決定が膠着した場合の解消手続(協議期間の設定、第三者調停、株式買取請求等)についてあらかじめ定める。
- 事業計画・予算の承認手続 年次事業計画および予算は取締役会の承認を要するものとする。
第3条(会社法上の子会社管理体制) 1. 甲は、本現地法人が甲の会社法上の子会社に該当する場合、会社法第362条第4項第6号等に基づき整備が求められる企業集団の内部統制システムの一環として、本現地法人の業務の適正を確保するための体制を整備する。 2. 甲は、本現地法人の取締役に対し、甲の内部統制方針に沿った報告(重要な業務執行の状況、財務状況等)を定期的に求めるものとする。 3. 甲が指名する取締役は、会社法上の取締役の善管注意義務・忠実義務に留意し、本現地法人の利益と甲の利益との相反が生じないよう努めるものとする。
第4条(外国為替及び外国貿易法上の手続) 1. 甲は、本現地法人への出資が外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という)上の対外直接投資に該当する場合、同法が定める事前届出または事後報告の要否を確認し、必要な手続を行う。 2. 対象国および事業分野によっては、日本銀行を経由した財務大臣等への届出が必要となる場合があるため、甲は最終契約締結前に該当性を確認するものとする。 3. 乙は、対象国における外国資本規制、外資規制業種該当性の有無について、甲に対し合理的な範囲で情報を提供する。
第5条(表明保証) 甲および乙は、本合意書締結時点において、自らが本合意書を締結し履行する権限を適法に有していること、本合意書の締結が自らに適用のある法令に違反しないことを相互に表明し保証する。
第6条(最終契約締結に向けた誠実協議) 甲および乙は、本合意書締結後、【90】日以内を目途に合弁契約書、定款その他設立に必要な書類の締結に向けて誠実に協議する。
第7条(秘密保持) 甲および乙は、本合意書の交渉過程および内容、相互に開示した非公開情報を第三者に開示してはならない。
第8条(法的拘束力) 本合意書のうち、第7条(秘密保持)、第9条(準拠法)および第10条(紛争解決)を除く条項は、当事者の意図を確認する目的にとどまり、法的拘束力を有しないものとする。
第9条(準拠法) 本合意書の準拠法は【日本法】とする。
第10条(紛争解決) 本合意書に関する紛争は、【シンガポール国際仲裁センター(SIAC)】の仲裁規則に従い仲裁により最終的に解決する。仲裁地は【シンガポール】とする。
第2部: 立場別・場面別の書き換えパターン
A. 日本側出資者向け
甲(日本側)の立場からは、乙の経営関与が過大にならないよう、第2条4項の拒否権事項を「乙の拒否権は年間予算の【20】%を超える投資案件に限定する」のように限定列挙し、通常の業務執行は甲が指名する代表権保有役員の裁量に委ねる修正が考えられる。また第3条の子会社管理体制について、四半期ごとの財務報告義務を具体的に追記することで、会社法上の内部統制体制整備義務への対応を明確化できる。
B. 現地パートナー向け
乙(現地パートナー)の立場からは、少数出資であっても重要事項への関与を確保するため、第2条4項の拒否権事項に「本現地法人の解散・清算」「乙が指名する役員の解任」を追加し、デッドロック時の解消手続(第2条6項)についても、乙に一定期間の株式買取請求権を認める修正を求めることが多い。また外為法上の手続(第4条)についても、対象国側の外資規制情報を乙が主体的に提供する義務を明記することで、手続遅延のリスクを分担できる。
第3部: 書き方と法的ポイント解説
本書式は、日本企業が海外の事業者と合弁で現地法人を設立するにあたり、最終的な合弁契約書・定款の締結に先立って出資比率、役員構成、重要事項の決定方法等の大枠を確認する場面での利用を想定する。すでに合弁契約書の起草段階に入っている場合や、100%出資での単独現地法人設立(合弁を伴わない場合)には、本書式のうち乙との利害調整に関する条項(第2条4〜6項)の必要性が薄れるため、その場合は簡略化した合意書に置き換えることが望ましい。
根拠法令としては、まず会社法が挙げられる。会社法第362条第4項第6号等は、大会社である取締役会設置会社に対し、企業集団の業務の適正を確保するための体制(いわゆる内部統制システム)の整備を求めており、海外子会社もその対象に含まれ得る。また、日本側が指名する取締役については、会社法上の善管注意義務・忠実義務を踏まえ、現地法人の利益と親会社の利益が相反する場面での対応を意識する必要がある。次に、外国為替及び外国貿易法は、居住者による対外直接投資について、投資先の業種や投資額に応じて日本銀行を経由した事前届出または事後報告を求めており、届出を怠ると是正命令等の対象となり得るため、最終契約締結前の該当性確認が重要である。
実務でよくある失敗として、第一に、出資比率や役員構成のみを合意し、デッドロック(意思決定の膠着)への対応を定めないまま最終契約に進んでしまい、後日の経営対立時に解消手段がない状態に陥る例が挙げられる。第2条6項のように、あらかじめ協議期間や第三者調停、株式買取請求といった解消手続の選択肢を明記することが有効である。第二に、外為法上の届出要否の確認を最終契約締結直前まで先送りし、届出手続の遅延により設立スケジュール全体に影響が生じる例がある。第4条のように、基本合意の段階で該当性確認を行う旨を明記することで防止できる。第三に、基本合意書全体に法的拘束力があると誤解され、後日「合意した」との主張につながる例があるが、第8条のように拘束力のある条項とない条項を明確に区分することが望ましい。対象国の会社法制や外資規制は国・業種により大きく異なるため、個別事案については現地法の専門家を含めて確認することが望ましい。
第4部: 使用前チェックリスト・確認事項
- [ ] 出資比率と資本金額の目安を明記したか
- [ ] 役員構成(人数・指名権)を明確にしたか
- [ ] 拒否権事項(重要事項の範囲)を具体的に列挙したか
- [ ] デッドロック解消手続(協議期間、調停、買取請求等)を定めたか
- [ ] 会社法上の内部統制システム整備義務との整合性を確認したか
- [ ] 外為法上の対外直接投資届出・報告の要否を確認したか
- [ ] 対象国における外資規制・許認可の要否を確認したか
- [ ] 基本合意書のうち法的拘束力を有する条項と有しない条項を区分したか
- [ ] 最終契約締結までのスケジュール(誠実協議期間)を定めたか
- [ ] 準拠法・紛争解決手段(仲裁地を含む)を定めたか